第64話 エメロンの街
2日後の昼過ぎ、順調に旅程は進み一行はエメロンの街の街門の前にたどり着いた。
もちろんいつものようにスケルトンは倉庫に収納してある。
ここエメロンは街道の宿場街であると同時に街の外に入口のある『ダンジョン』に向かう冒険者の拠点としての顔を持つ。
このダンジョンは『ファルコンの武器庫』とも呼ばれ、1800年程前に現れた勇者ファルコンが神剣『バルムンク』を手に入れたという言い伝えが残る。
当時の記録によると勇者はそのパーティと共に地下46階まで潜ったという記録が残されているが、それより下の階に到達したという記録は無く、地下何階まであるかは未だに分かっていないらしい。
普通のパーティが水は一般魔法で確保できたとして、食料を持参して潜ってもよく行けて地下20階程度までなので、46階という数字には誇大表現じゃないかという意見が今でもあるが真相は分かっていないらしい。
その勇者パーティにはハイエルフの女性が居たそうなので、真相は彼女だけが知っているのではないかと言われている。
ダンジョンは1階層当たりの面積もアメリカンサイズ(つまり巨大)で、不思議な空間となっている事が分かっている。
例えば5m程の高さのの階段を下りて下の階層にたどり着いたら、天井まで50mはあろうかという空間が広がっていたとか、10Km四方の空間が柱も無く支えられていたり、地上の草原の様に太陽は無いが時間によって昼夜の明かりの変化が有ったりと枚挙に
倒されたモンスターや凶刃に倒れた冒険者は、しばらくするとダンジョンの地面に吸い込まれるように消え去り、冒険者タグ以外は何も残らない。
ダンジョンに回収された装備は何故か価値等によって分別されるのか、価値の高い物は深い階層から、価値の低い物は浅い階層の宝箱などから発見される。
過去に2回、ダンジョンからモンスターが溢れ街に大きな被害を与えた事があり、冒険者ギルドは中からモンスターが溢れ出さないように国王より管理を委ねられている関係上、ダンジョンで狩ったモンスターに懸賞金としての加算を行っており、腕に覚えのある冒険者にとっていい狩場となっている。
ダンジョンの特徴としてモンスターのリスポーン、トラップの再設置等が確認されており、悪意を持って何者かがダンジョンを管理しているのではないか?と言われている。
冒険者ギルドは万全のサポートを公言しており、マップやトラップの種類、位置情報、モンスターの種類等の情報を公開していて、新しい情報の買取も行っている。
それでも毎年多くの冒険者が帰らぬ人となって冒険者ギルド幹部の頭を悩ませている。
現在は地下17階まではほぼ完全に情報は収集されており、21階層から先は全く分かっていないという状況だ。
ただそんな情報も新しい罠が一つ増えただけで新しい犠牲者を生むので、油断ができるわけでは無い。
結局は自分の命は自分で守らなくてはいけないのだ。
それでもダンジョンに挑む冒険者が無くならないのは、ダンジョンにそれなりの魅力があるのだろう。
俺にとってもレベルを上げやすいダンジョンという環境は歓迎したいところだが、今は護衛任務中なのでどうしようもない。
次のクエストの候補の一つでしかない。
エメロンの街門でも特に問題なく冒険者タグの確認だけで入街することが出来た。
ベルナリア達も身分証の提示だけで入ることが出来ていた。
「先ずするのは宿の確保だな」
テサーラの街の宿と同じような馬車を預けられる宿を探す。
それは程なくして見付ける事ができた。
宿のランクとしては上の下だろうか?ドラゴンの息吹亭は街の中央に近く、大通りに面して立っていた。
息吹亭に前回同様、ツインの部屋を2つ確保した。
マルケスは今回も馬車に泊まるらしい。
馬車を守るためと言っているが……
この街でやらなくてはいけない事は2つ、次の街に行くための補給と俺の個人的な事だがスキルのリセットだ。
それ程使う機会があるとは思わなかった為、ギフトポイントを節約して激痛を伴うスキルリセットを選んでしまったがどれ程の痛みなんだろうか?
『サーナリアさん』
『……』
応答が無い?
『サーナリアさん?いないんですか?』
『……』
やはり何も返ってこない。
それでは仕方が無い。覚悟を決めてやるしかないな。
「食料は何か買い足しますか?」
先ずはタチアナさんとしなければいけない補給の予定の打ち合わせをする。
「少し買い足したい物があります。明日の朝にお付き合いいただけますか?」
今買いに行くよりも明日の朝、新鮮な物を手に入れた方が良いだろう。
「また一の鐘の後ですね」
この王国では教会の鐘が時を告げる。
1日に5回、それぞれ6時、9時、12時、15時、18時に鐘が鳴る。
一の鐘は6時に鳴る鐘の事を言う。
「ええ、お願いします」
そう言うとタチアナさんは軽く頭を下げた。
「分かりました。」
今日の夜までの予定が空いたので、お嬢様の用事に付き合って護衛する事になった。
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