第65話 デジャブ
お嬢様の用事と言っても何か目的が有る訳では無い。
街のそぞろ歩きやウインドウショッピングの類である。
あっ、ショッピングと言えば……
「フラン、君のお金を預かっている。何か買いたい物があったら言ってくれ。それとも渡しておいた方がいいか?」
日本人とかだと気を使って言い出せなかったりすることもあるかと思って尋ねたが、そんなことは無さそうだった。
寧ろ何でそんなことを聞くのかと不思議そうな顔をしていた。
「何処か別行動をするつもりがあるんですか?」
「いや、そんなつもりは無いよ」
フランはちょっと安心したように息を吐きだすと、
「それじゃあ、そのまま預かっておいてください」そう言った。
この世界のお金は金貨や銀貨、銅貨を始め色々な物が使われている。
もちろん貨幣の金属の価値がイコール金額になっている。
貨幣という形を取っているのは商売の簡略化の為である。
一々金属の質を確かめ重さを量ってとしていては時間の無駄なので国が貨幣を作るのである。
国によって作っている貨幣の種類に違いがあり、大金貨という物を作っている国もあれば、ミスリル貨を作っている国もある。
エタナリア王国には大昔、ローレリアのハイエルフの協力の元、作られたミスリル貨があるが現在は作られておらず、現在は大金貨になっている。
普段はミスリル貨も大金貨も一般市民の目には入る事は無い。
額面は100,000G、日本円でおおよそ1,000,000円程で殆ど使われない。
少額の取引には1,000Gの金貨が、商人や商館での高額の取引には証文による取引が使われるため、使われるべき機会が無いのだ。
良くも悪くも中途半端であるのだ。
少し遅い昼食を屋台の軽食で済ませてお店を覗きながら歩いていると、デジャブを感じた。
少し先の辻をエルフの女性が横切っていた。
白と緑と青を基調とした衣服
(あれはハイエルフの女性だろうか?)
何となくそう考えていたら『鑑定』スキルが仕事をした。
名前アリステル=リュティス=ローレリア、種族ハイエルフ、年齢2,182、……
「えっ?」
既に女性は角の建物の向こう側に消えてしまって、鑑定結果も表示が消えてしまった。
が、その中にどうしても無視しえない表記があった。
俺は一緒にいた皆を置き去りにして女性が姿を隠した辻まで走って女性が歩き去った先を確認したが、女性は既に姿も形も無かった。
更に1ブロック、約200m程姿を探して次の辻まで移動したが、見付ける事は出来なかった。
暫くして追いついてきた皆に色々と尋ねられたが、気になった事があったとしか答えられなかった。
見間違いかもしれない。充分時間を掛けて鑑定結果を見る事が出来たわけでは無い。
しかし、見間違いだと断じて忘れることなどできるはずが無かった。
鑑定結果の下の方に表示された一言。
『ユウキの母親』
どういう意味だろうか?
この異世界における主人公キャラの母親?
そういう事だろうか?
それならばあまり気にする必要は無いが……
その後のそぞろ歩き、俺は完全に上の空になってしまった。
考えないなんて事、できる訳が無かった。
その夜、またサーナリアさんに呼びかけてみた。
『サーナリアさん……サーナリアさん?』
『……』
相変わらず返事は無かった。
一体どうしたのだろうか?
何か問題でもあったのだろうか?
返事があるまで一切が分からない。
それが不安を煽る。
サーナリアさんの件は返事があるまでどうしようも無いが、今日はもう一つやらなければいけない事がある。
スキルのリセットだ。
先日の『性交渉』スキルのポイント振りすぎ事件の所為でリセットしようと思ったわけだが、それ以外にも炎系の魔法が少し使いづらいと感じていた。
火災の発生や洞窟等の狭い場所での空気の汚染なども起こりえる事、20レベルで登場する新しい攻撃魔法への切り替えを考慮に入れてこのタイミングで1回リセットして振り直す事にした。
夕食後の余暇時間、さあと気合を入れて事に及ぶ。
「フラン、今から俺は苦痛を味合わなくてはならない。どんな苦痛か分からないんだが苦痛を伴う事だけは分かっている。驚かないようにして欲しい」
「苦痛?」
うん、さっぱり分らん。フランも理解できてはいなさそうだ。
スキルリセットを説明せずに理解してもらう事は難しいとは思っていたが、説明した俺が理解が出来ていない。
どんな苦痛がどれだけの時間続くのか?
なぜ苦痛を伴う事をしなくてはいけないのか?
知らないから、知られてはいけないから、説明できない事が多く中途半端な話になってしまう。
「痛がると思うけど大丈夫だから」
押し切るしかないと敢行する事にした。
フランが返事をする前に行動に移す。
コンソールのスキル一覧を開いて下にある危険そうな装飾のあるポタンを押す。
確認を求めるウインドウのOKボタンを押した。
痛みはいきなり訪れた。
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