第61話 すれ違えない二人1

 俺はフランに自慰行為を見られてパニックに陥っていた。

 親父にも見られた事無いのに。

 思わずこの状況から逃げ出したくなった。


 俺はフランに背を向けて走り出そうとした。

「待って、逃げないで!」

 俺の背にフランの声が掛かった。

 でもその前に俺は走れるような状態じゃ無かった。


 立ち尽くしていると後ろから抱きしめられ、俺のアレを両手で包み込まれてしまった。

「逃げないでください。恩を返させてください」

 恩ってなんだ?

 パニックで頭が回っていない。


「あなたはコボルトからもゴブリンからも助けていただきました。私はあなたが居なければ生きてはいない女なんです」

 えっ、俺がいないと生きていけない?

 誰もそんな事は言っていない。

「私を求めてください。2度も助けられて恋に落ちない女だと思いますか?」

 そう言うとフランは俺の背後から前に廻った。

 俺を見上げてくるフランの目に溜まった涙に釘付けにされていた。

 その涙が遂に零れた。

 その時何かが俺の中で変わった気がする。

 何かスイッチが入ったような、何かのピースがカチリと嵌るような変化だった。


「もう我慢なさらないでください。お辛い時には私におっしゃっていただければ……」

 いつの間にか裸になっていたフランは俺の右手を取って自らの胸に導いた。


「私にだって欲はあるんです、惚れた男に抱かれたいという欲が……それ以上は求めません」

 最後のピースが嵌められた。

 俺は自分の狡さを知った。


 俺はフランをキレイだと思っていた。

 良い娘だと思っていた。

 でもそこまでだった。

 まだ俺の中に美樹がいる。

 無いとは分かっているがここに美樹が現れたら……

 元の世界に戻ることになったら……

 俺はまだこの世界で生きてはいないだけだった。

 中途半端だった。

 それが俺を縛っていた。


 吹っ切る!

 地に足を付け前を向いて歩く。

 帰れると考えて生きていけるような世界じゃないなら俺はこの世界で生きていく。


 気が付いたら俺は貯めていたスキルポイントを全て『性交渉』スキルにつぎ込んでいた。

 レベル41の『性交渉』スキルがDTの俺をテクニシャンへと押し上げる。

 何となく何をすればいいのかが分かる。


 ……一時間程が経った頃、かたわらでフランがくたっと気を失っていた。

「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」

 俺は周りに『浄化』を唱えてフランに余っていた毛布を倉庫から取り出すと包んでその枕元付近に腰かけた。

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