第73話 告白1

 朝起きるといつものルーティンの鍛錬に精を出していた。

 そしたらダンジョン隊から『これからボス部屋に突入する』と連絡が入った。

 ギルドからの情報によれば1階に出るモンスターはゴブリンが多く、ボスはホブゴブリンが数体出てくるらしい。

 うん、何の問題も無い。

 俺はスケルトン達にGOサインを出した。

 スケルトンがボス部屋に突入して10秒程待ったら……スケルトンから『反応なし』との連絡が入った。

 スケルトンでは敵と見做されなかったのだろうか?

 まぁボスが現れないのならそのまま2階に行けばいい。

 スケルトン達は開いたままの通路を通って、2階へと消えて行こうとしていた。



 さて、先程ステータスを確認していたところ、タチアナさんのレベルが上がってレベル9になっていた。

 タチアナさんは竈の傍で朝食の準備をしている所だ。

 朝から独楽鼠のように忙しく動き回っている。

 周りに他の人の影は無い。

 スキルの取得には多分にプライバシーに関わる事がある。

 他の人のいない今が良いタイミングだろう。


「タチアナさん、おはようございます」

「ユウキさん、おはようございます。鍛錬はもういいのですか?」

 俺は倉庫に入っていた食材を取り出しながら話しかける。

「そうですね、鍛錬よりも大切なことがありましたので切り上げてしまいました」

 タチアナさんは小首を傾げながら疑問の問いかけを上げてくる。

「鍛錬よりも大切な事?まぁ何かしら?危ない事ですか?」

 不安そうに見上げてくるタチアナさんの両肩を掴んで正面に立つ。

「いえ、そうではありません。あなたの事です、タチアナさん。こういう事は早い方がいい。ちょうどお一人だったので思い切って声を掛けさせていただきました」

 危ない事では無いと否定されたことに安心するより、自分の事だと言われて更に不安になるタチアナさん。

 タチアナさんが見上げてくる。頬がほんのりと紅く染まっている。

 お玉がそんなタチアナさんの動揺を表すように胸の前でユラユラと揺れていた。

 そんなタチアナさんがかわいいと思う俺はどSなんだろうか。


 俺は周りを見廻して再度誰もいない事を確認するとタチアナさんに告白した。

「タチアナさん、貴女も一般魔法を、取得できるようになりました。取得を希望しますか?」

「ごめんなさい。私、貴方をそんな風に考えたことが無かったのでそんなことを言われても……へっ?一般魔法?」

 ぐふっ、タチアナさんを揶揄からかっていた俺が悪いんだろうが、まさかダメージを負う事になるとは……

 食い気味で振られるとは。タチアナ、恐ろしい娘。


「ええ、一般魔法です。ハウスメイドとしての仕事にも役に立つと思います。浄化と水作成はおすすめですよ」

 タチアナさんは俺の言葉を聞くと暫く考えるようにしていたが、意を決したようにまた何かを吹っ切るように質問をしてきた。

 それに俺は少なからず驚かされることになる。

「あのう、私は回復魔法を使えるようにはならないでしょうか?」

「えっ?回復魔法……ですか?」

「……はい。無理でしょうか?」


 その時、バサッと音がしてテントからテレーゼが顔を出してきた。

「おはよ~。ん?どうしたの?」

「おはよう。どうもしてないよテレーゼ。早く顔を洗って来いよ。もうすぐ朝食の準備も終わる」


 桶に向かって歩いて行くテレーゼを見送ってタチアナさんに耳打ちする。

「詳しい話は今夜また話しましょう」

 タチアナさんが軽く頷くのを確認して朝食の準備を手伝う事にする。



 今日の旅程は途中でイノシシを1頭仕留めた事の他には問題もなく野営地に到着したが、タチアナさんは完全に上の空で女性陣は顔を見合わせてどうしたんだろう?と首を傾げていた。

 俺もどこかボーッとしたタチアナさんを気にしていたんだが、それでも問題を起こす事なく仕事をこなしてしまうあたりがタチアナさんらしいと言っていいのだろうか?

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