第72話 捨て犬達の輪舞曲

 食事は手早く終わらせてしまった俺は、また誰の為かもわからない魔法講座を開いていた。

 本日の講義内容はMPについてだ。


「呪文の消費MPは呪文と呪文レベルと『消費MP減少』のレベルと『オーバーブースト』の使用レベルによって決まる。例えば、俺はまだ19レベルだから20レベルで取れるようになる『消費MP減少』と30レベルで取れるようになる『オーバーブースト』は取っていない。『マジックミサイル』の基本消費MPは20、俺の『マジックミサイル』の呪文レベルは20だ。全ての呪文はレベルが1上がると消費MPは基本消費MPの10%上がる。つまり俺の『マジックミサイル』20レベルの消費MPは20+(20×0.1×19)で58になる。今の俺の最大MPが1,180だから、俺は20発のマジックミサイルを撃って、21発目を撃とうとした瞬間、意識を失って倒れる事になる。当然最後の1発は不発に終わる。」

 周りを見廻す。

 馭者のマルケスは馬の世話をしに行ってしまっているが、女性陣は全員真剣に聞いている。

 この世界の人に『レベル』という概念は無い。

 どう伝わっているのかいささか疑問であるが……

 俺が誰の為の講義か分からないというのは正にここなのだが……

「さてMPを使い果たした俺は気を失って『強制的な睡眠』という状態になってしまった。さてここでMPの回復が行われている。MPの回復は常に行われている。戦闘中でも休憩中でも回復している。ただ休憩中は通常時の2倍、睡眠中は通常時の3倍回復する。人は6時間の睡眠でMPを全回復する。通常時なら18時間で全回復だ。MPの欠乏により気を失うとMPが最大MPの50%まで回復するまで目覚めない。つまり3時間は気を失ったままだ。」

 一拍開けるために皆を見回す。

「だが俺は違う。俺はギフトポイントでMP回復力上昇3レベルを取っているので、MPの回復が5倍(+400%)になっているので36分で目を覚まし、72分の睡眠で全回復する。あとまだ取得していないが『MP回復力増加』のスキルも取得できる。このスキルは1レベルで回復力を10%(+10%)上げる事が出来る……」


『あ・る・じ・て・き・と・せっ・しょ・く・し・ま・し・た』

 時々ダンジョン派遣部隊から報告が送られてくる。

 いきなり来るから心臓に悪い。

『特に問題が無ければ報告は要らないから』

 ぶっちゃけしてやれる事も無いし……

 目標が見えないから『回復ヒール』も掛けられ無いしね。

『各員独自の判断に従って奮励努力せよ』

 スケルトンにどれだけの判断ができるというのだろう。

 我ながら突っ込み所満載だ。

 人はこれを丸投げというのだろう。

『……』

 特に返事は無かった。

 スケルトン達には充分に理解いただいたのだろう。

 そこに不満は認められなかった。両方の意味で。


 ちょうどMPについての講義はエンドロールを迎えたので、食後の茶話会はお開きとなった。



 マルケスとテントで横になった時、通信?が入った。

 どうやらスケルトンの1体が落とし穴に嵌ったらしい。

『命令に変更は無い。安全を確保の上、回復のち行動を再開せよ。尚、夜間の交信は傍受の危険性を鑑み許可できない。以後日の出まで各員の判断によって行動せよ』

『……』

 まぁ、スケルトンって強いから大丈夫でしょ。

 血流なんてものが無いから差し切りの攻撃に強いし、毒によって損傷する器官がないからポイズンフリーだし、たんぱく質などという脆弱な覆いが無いから実は熱にも強いし、寒さもOK。精神も無いから恐怖等の精神操作も受けないし。打撃に対して多少脆いところはあるけど、魔法の鎧や盾を持っているから充分カバーできてると思う。酸やアルカリに対してはどうかな?と思うけど考えると意外なほど弱点が少ないんだよなあ。

 スケルトンとかのアンデッドは火に弱いってイメージがあるけど、スケルトンは可燃物を身に着けていないから骨が崩れるほど燃やし続ける燃料を準備しないといけない。衣服を身に着けていないから油を掛けてもわずかな時間しか燃やせない。更に自己回復する。

 関節部分と筋肉が無くても動くという謎部分に弱点が無ければ、骨という素材以外に弱点は無いんだよね。

 俺でもどうやって倒せる?物理攻撃?酸?って考えさせられる。

 充分強化されたスケルトンなんて相手にしたくないわ~。

 …………

 ……


 ……ぐぅ~……んごっ……く~



 その後、翌朝まで通信が入る事は無く俺の睡眠時間は守られたのだった。



 後日談、エメロンのダンジョンに於いて12体のスケルトン集団の目撃情報が入った。

 スケルトン達には鎧や盾に『僕たち悪いスケルトンじゃ無いよ』と書かれており、実際攻撃を仕掛けてくることも無く冒険者から直ぐに姿を隠してしまったそうで、冒険者ギルドからは放置した方が良いとのアドバイスが出されたとか。

 夜間に見かけた冒険者からの情報によると、スケルトン達は肩を落として歩いていたとの噂があり『まるで捨てられた犬の様だった』『哀愁が漂っていた』とのコメントが付いていた。

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