第71話 転移門2

「こうするとどうなるかな?」

 足元に落ちている石ころを掴んでゲートに向かって軽く放ってみる。

 ゲートの向こう側でカラカラと音がした。

「ベルナリア、『こいつ』の横で見ててくれ」

 ベルナリアを横に立たせてどうなるかを観察させる。

 もう一回石を放ってみる。

「どうなった?」

 ベルナリアは結果が予想と違ったのか少し戸惑っているようだ。

「……向こう側に出てきて落ちた」

 じゃあ次はと木の枝を拾ってゲートに突き出して前後に動かしてみる。

「これは?どうなってる?」

 さっきの石の時の結果と違っている事で頭が混乱しているようだ。

「……向こう側には何も出てない」


「さて、最後の実験だ」

 俺はベルナリアの前に移動すると、ベルナリアに抵抗する隙を与えることなく右肩に担ぎ上げると落とさないようにベルトをガッチリ掴むとゲートを潜った。

 ベルナリアは肩の上で暴れていたが小娘一人の抵抗でどうかなってしまうほど弱くはないつもりだ。

 向こう側では皆がゲートの周りで心配そうに待っていた。

「悪い、予定外に遅くなった」

 この場に馭者のマルケスが居ない事を確かめるとタチアナとベルナリアを一旦パーティから外す。

「さてベルナリア、あまり人を心配させるもんじゃない」

 そして俵担ぎスタイルのまま、ベルナリアのスカートをまくり上げると鼓を打つようにピシャリとやった。


「っxcvhgff!!」

 痛みをこらえるベルナリアを地面に下ろして顔を上げると予想通りの攻撃が予想外の方向から顔面目掛けてやってきた。

 タチアナさんの平手打ち。ベルナリアから来ると思ったのに。

 でもこれこそがベルナリアを危険に巻き込んだ俺が受けるべき罰だ。

「お嬢様に何をなさるんですか?!」

 すぐに二人をパーティに戻しながらタチアナさんに『回復ヒール』を掛ける。

 タチアナさんは悪い事してないからね。

「う~ん、おしおき?」

 これがタチアナさんに火を点けてしまった。

「どうして疑問符なんですか?!」

 美人に下から責められると弱いな。

 だが負けん。

「いや~、今一つ確信が持てなくってさ。ほら人間って確信があって動くことって実はあまりないよね。でも動かないといけない時ってあるんだよね」

 軽い調子で独自理論を披露する。

 うん、こんな奴が居たらうざいよね。

「そんな時でも安全って大切だからさ、動く前に安全だけでも確保して欲しいなって思って……で、痛みはすぐ消えるけど、恥ずかしい思いをしたことって長い間記憶に残るから。一緒に覚えて欲しいなって」

 ベルナリアは顔を真っ赤にして俺からお尻を隠すように立っている。

「あの魔法は俺だけの魔法だ。そして非常に便利で尚且つとても危険だ。俺が一度行った場所でここに出口を設定したいと思えばいつでもそこに行くことが出来る。一瞬でね。この魔法の事がみんなに知れ渡ったら、良い事に使いたいと考える人もいるだろうが、その何百、何千倍もの人が悪巧みを企むだろう。だから人に知られていい魔法じゃない。だから何も言わずに使ったんだが、結果的に危険に巻き込んでしまった。すまなかった」

 俺はベルナリアに頭を下げた。

 顔を上げると俺はベルナリアに問いかけた。

「ベルナリア、『転移門ゲート』は便利な魔法だ。王都からの帰りは一瞬でノーラタンまで帰る事も可能だ。俺が仲間と認めた者を7人までなら一緒に転移する事ができる。でも一回行った事がある場所なら王城の謁見の間だろうと、国王の執務室だろうと一瞬で7人までなら連れていくことが出来てしまう。誰でも知っていていい魔法じゃない。それは理解して欲しい」

 それだけ言うと俺に限界が訪れた。

(く~っ)

 お腹が空腹を主張した。

 自分で言うのも何だが、意外とかわいく鳴いたもんだ。

「プッ」

 噴き出したのは誰だったのか。

「……ふうっ、食事にしましょう」

 タチアナさんの宣誓によって解放された俺は、倉庫からパンを取り出してバスケットに入れ食卓に加えた。

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