第74話 告白2
夜、夕食が終わってから俺はタチアナさんを連れ出した。
皆には昼間に仕留めたイノシシを捌く為に、離れた所で作業すると告げた。
実際に野営している所で血の匂いが充満すると、モンスターや野生の肉食獣が寄ってくるかもしれないからね。
同じく昼間にタチアナさんの回復魔法のスキルレベルを上げれる事を確かめておいた。
フランに呼び止められて私も後で話が有りますと耳元で言われた時にはドキッとした。
バレてーら。
下生をかき分けながら少し離れた所の木にイノシシを吊るしてタチアナさんに話しかける。
ロマンチックとは程遠い。
「どうして回復魔法を使えるようになりたいのですか?」
タチアナさんの話は長かった。
要約すると父親が狼に噛まれた傷が原因で、20日間程苦しんで亡くなったらしい。
タチアナさんも看病したのだがどうにもならなかったと。
自分の大切な人がそうなるのはこれ以上耐えられない。
治せる力が欲しいって事だった。
話を聞いて浮かんだのは破傷風という病気の名前だった。
そうなると問題はいくつかある事が分かる。
破傷風を『
防げない場合、『
こういう事こそサーナリアさんに聞きたいんだが……
『サーナリアさん……』
『……』
これだよ。どうなっているんだ?
う~ん、自分たちで結論を出せって事なんだろうか?
いつまで経っても電話に出てくれないサポートセンターなんて、現実世界だけで充分だよ。
『ただいま電話が込み合っています……』
無言よりはましだったんだな。幻聴まで聞こえるわ。
回復を使えるようにするなら浄化もセットにした方がいいな。
だがまだだ。まだ終わらんよ。思考しないといけない事は残っている。
回復を使えるようになることでタチアナさんが幸せになれるだろうか?
これが一番厄介な問題だ。
俺のイメージだと回復魔法=プリースト、クレリックという印象がある。
この世界ではどうだろう?
グー〇ル先生で調べたら、やはり教会で回復魔法による治療を行っている。寄進と引き換えに。
もし俺が回復魔法を使えることを知ったら、教会勢力は俺の事を排除しようとするかもしれないな。
回復魔法を使うネクロマンサーなんて存在を認めたくないだろうしな。
タチアナさんのことは教会組織に取り込もうとするかもしれない。
「回復魔法を使えるようになってタチアナさんはどうするつもりですか?」
イノシシの腹から不要な内臓を取り出しながら尋ねる。
我ながら逞しくなってると思うよ。
「……どういうことでしょう?」
「教会に所属するつもりでしょうか?」
タチアナさんはさも意外な事を聞かれたという顔をしている。
「回復魔法による治療は教会にとっては既得権益なんです。もし教会に所属しない者が治療を行えば教会にとって面白いはずがありません。教会に所属する事を強く勧めてくるでしょう。それでも所属しなければ妨害行為をしてくるかもしれません」
タチアナさんは少し考えるような素振りを見せる。
「教会に所属しないつもりならもう一つの方法は、冒険者として活動して収入から教会に寄進する方法です。しかしタチアナさんはハウスメイドです。今から冒険者としての活動をするのは困難でしょう」
タチアナさんは聞いてはいないが20代半ばに見える。成人の年齢の低いこちらの世界では充分……
フランの様に選択を奪われたのではないのなら、これから冒険者になるのには遅い年齢だ。
「回復させるのが目的ならばポーションを使うという方法もあります。ポーションならスキルが無くても治療ができます。但し、治療したい場所までポーションを持ち歩かなくてはいけませんが……。ポーションについては俺よりもフランの方が詳しいでしょう。フランは薬草を育ててポーションを作っていたそうですから……」
タチアナさんは木の根に座ったまま、何もない空間を見下ろして考え込んでいた。
俺はタチアナさんと話をしながらも手を休めず皮を剥いでいく。
「どちらの方法にもメリットとデメリットがあるのでよく考えて結論を出されるのがいいでしょう」
その後も四半時程話をしていたが、結論は持ち越しになって野営地に戻る事になった。
イノシシは枝肉にまで無事に解体された。
俺はその後野営地で待っていたフランから衝撃の一言を受ける事になった。
「貴方を支えるのは私一人では無理です。なるべく早急に他の相手も探してください」
ガーン!!
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