閑話1 邪神からの贈り物1
ヒタッ、ヒタッ……
僕は自分が立てる足音を可能な限りに押し殺しながらジメッとした暗い道を歩く。
そこはダンジョンの通路、決して僕の様な未成人が忍び込んでいい場所では無かった。
目の前にある横につながる通路から恐ろしい怪物がやって来るんじゃないか、襲い掛かって来るんじゃないかと心臓がバクバクと悲鳴をあげる。
僕だって昨日の夜あんな話を聞かなければこんな事をしようなんて考えなかっただろう。
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僕はエメロンの街の煌びやかな教会に付属したみすぼらしい孤児院に入れられていた。
生まれて間もないような幼い姿で孤児院に捨てられていたらしい。
幼いころに捨てられた他の孤児の多くがそうであるように僕も両親の事は何も知らない。
おそらく冒険者の父と娼婦の母の間に生まれたとかそんなところだろう。
僕はいつの間にかエドガーと呼ばれるようになっていた。
誰かが考えて僕に名前を付けてくれたというわけでは無い。
孤児院に入れられた順番で用意されていた名前が付けられるそうだ。
僕の前にエドガーと名付けられた人は20歳になる前にダンジョンで死んでしまったらしい。
自分の名前以外の他の名前も似たり寄ったりだ。碌な死に方をしていない。
ただ自分の2人後のガーランドの先代は冒険者から兵士になって72歳まで生きたらしい。
今代のガーランドはまだ、ただのハナタレだ。
あと2ヶ月ほどで僕は16歳の誕生日を迎えて成人する。
そんなある日の夜中、トイレに行きたくなって目が覚めてしまった。
用を済ませて戻る途中、足を忍ばせて院長室の傍に差し掛かった時に院長室の中から声が聞こえた。
盗み聞きをするつもりはこれっぽっちも無かった。だが足が止まってしまった。
声は院長とシスターのドロシーの物だった。
「……そんな……院長、本当なんですか!?」
「残念だが本当の事だ」
「そんなぁ」
ドロシーは孤児院出身の23歳、16歳になって成人した時そのままシスターになって孤児院に留まる事を望んだ。
勿論望んだからと言って全ての人が留まれるわけじゃない。
教会が抱えることが出来る人員にも限度がある。
そんなドロシーが留まるためにどうしたかと言えば身近なところにコネを作ったようだ。
院長を自分の体で篭絡したのである。
院長の後押しを受けて留まったドロシーはその後の7年間、何とか今までやってこれたが先行きに不安を感じたのか大きな賭けを打った。
今のところ賭けに勝っているのか最近お腹が少し目立つようになってきた。
一方の院長がどんな人物かと言えば、どこかの貴族の5男坊とかで長男が結婚して跡継ぎを設けた時にお役御免。教会に寄進と共に放り込まれた。
教会に入って20年余、お目こぼしを受けながら無難に院長として過ごしてきただけの人物。それが院長だ。
教会関係者からお目こぼしを受けた事は、まぁドロシーが初めてじゃないってことで、今でも孤児院に2人くらい子供が入っていると言われている。本当かどうかは定かでは無いが。
孤児院の外に出れば大した力がある訳では無いが、それだけに孤児院という閉じた世界においては絶対者だった。少なくともドロシーにとっては……
どんな世界にも表と裏がある。
この異世界には恐ろしい物に溢れている。
少し町を出れば怪物が徘徊している。
街中に目を向ければ欲望に
そんな怪物が跋扈する世の中、弱い人間は強かじゃないと生きてゆけない。
ドロシーは自分がモンスターを倒して生きることが出来るとは思えなかった。
だからドロシーは院長に春をひさいで危険の少ない道を選んだ。
だが転機はジワリとやってきた。
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