第85話 奴隷商2

 ネーラとは逆側に最後に並んだ女性がいた。という事は一番安いのか?

 黒髪、黒目。聊か瘦せすぎている。手足だけでなく胸や腰も。

 だが顔は凄く整っている。とても隣に並んだ女性より安価だとは思えない。

「彼女は?」

 そう言って指した指を見て、

「あぁ、彼女ですか。彼女は西の方に出かけていた貿易船が拾った遭難者だよ。こちらの言葉が解らないらしくてね、教えようとはしてるんだが、誰も彼女のしゃべる言葉が解らなくてね。お手上げだよ」

 そう言われたら彼女の顔は日本人みたいな感じの顔だ。

 ローマの浴場設計技師的に言えば『平たい顔族』

 この国の人たちとは顔の好みが違うのだろう。

「少し彼女と話をしてみてもいいかい?」

「話せるのかい?まぁいいよ。名前はルシエルだ」

 ルシエルに近づきながら鑑定。

 名前ルシエル(ルリ=エリハラ)種族人間、年齢16、職業クラス戦巫女いくさみこ、レベル12、……


「ルシエル、少し話を聞きたいんだが構わないか?」

 ルシエルの何か全てを諦めたようだった顔が急変した。


 俺のギフト『異世界言語』はチートだ。

 俺の話そうとしたルシエルにはルシエルの話す言葉に翻訳されて聞こえるだろうが、他の人には知らない言葉をしゃべってるようにしか聞こえない。

 だから俺が他の人に『今の話は本当か?』と話しかけられることは無い。

 もし『今の話は本当か?』と話しかけられたとしたならば、そいつは日本語を理解している事になる。


「お前、いやあなたはルシエン語が話せるのか!?」

「いや、俺はルシエン語など聞いたこともないし、話す事もできん」

「えっ?でも?えっ?え?」

「そうだな……魔法でお前さんの言葉を解るようにしていると思ってくれ。疑うなら俺の口の動きを見ててごらん」

 ルシエンは納得してはいないようだが、そういう物だという事にして話を進めることにしたようだ。

「ルシエンってのは君の国の名前なのかい?」

「ええ、この大陸の西に位置する島国よ」

「そうなのか、君が『ルシエン語解らないの?』と言っているのを名前と勘違いしたんだな」

 さてと、そろそろ本題に入らないとな。


「君は今の自分の置かれた状況を正しく理解できているか?」

「まぁ、大体は。お金が無くって奴隷になっちゃってる?」

「あぁ、そうだが。いつまでもこのまま奴隷商人の所にいるわけにもいかないってのも?」

「分かってる、わよ?」

「本当か~?」

 落としにかからないと。

「お前さん、激安みたいだから心配になってね。なんせ言葉が通じないからお手上げだって言ってたから。このままだと鉱山で一生、力仕事かもなーって心配で」

「えっ?ええっ?」

「俺は冒険者やってるから、モンスターなんかバンバン倒せる娘探しに来たんだ」

「へ、へ~私も故郷に居た頃には、毎日のようにゴブリンとか?オーク?倒してたのよ」

「ほう、その細い体で凄いな。でも俺の探しに来たのは強いだけじゃなくて、体なんか『ボンキュッボン』でエッチな事が大好きな娘なんだ」

「……」

 自分でも結構、人間の屑な事を言っている自覚はある。

 ヤベ、ちょっと涙ぐんじゃったよ。

「わ、私の姉様、…んて、おっぱいバイ…ンバイン、で……すごい、んだがらーっ。わ”だじも”ぞうなるがら、わ”だじを”、た、だずげで、よ”!」

 ちょっと追い詰め過ぎたかもしれん。

 マジ泣きしちゃった。


「冒険者になって、モンスター倒すか?」

 ルシエンが涙を拭きながらコクンと頷いてみせる。

「エッチな事もバンバン出来るか?」

 少し間があってからやはりコクンと頷いた。

「よし分かった。お前は俺が買ってやる」


 店員にルシエンの値段を聞いたら僅か10万Gだった。

 話を聞いたらマジでもう少し遅かったら鉱山行きだったらしい。


 店員が奴隷魔法がとか言っていたが不要だと言って断った。

 駄目なのかと思ったら大丈夫だった。


 ルシエンの同意を得て、パーティに組み込んだ。

「ルシエン、職業クラスは何だ?」

 ここで戦巫女の話を聞く。

「戦巫女は戦プラス巫女よ。近接戦闘が出来る祈祷師と考えて間違ってないわ」


 ルシエンの近接戦闘の武器は薙刀だそうだ。この辺りの国で探すならグレイブだろうか?

 残念だが、手持ちの武器でそれっぽいのは無かった。


 そろそろ昼食の時間だ。

 取り敢えず、冒険者ギルドの広場前に出ると屋台などがたくさん出店ってる。

 念話でフランに呼び掛けてみるか。

『フラン、今大丈夫か?』

 返答はすぐやってきた。

『はい、大丈夫です』

『今、冒険者ギルドの前に居るんだが出てこれるか?昼食にしよう』

『……分かりました。向かいます』

『ちょっと待った。今の沈黙は何だ?』

『いえ、その、荷物が多いのでどうしようかと……』

 そういう事は言って欲しい。

 それが仲間ってもんでしょう。

『わかった。俺たちが迎えに行くから、その場で待機していてくれ』

『分かりました』

 コンソールのマップを見ると、商人街の中ほどにフランはいるらしい。

 俺はルシエンに仲間と合流することを告げ、一緒に商人街のフランの所へ向かった。

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