第75話 魔法少女?1

 これってアレの事だよな。

 まさかフランにそんなことを言われるとは……


 確かに2回とも気を失わせてしまっている。

 何がいけないんだろう?

 調子に乗って性交渉スキルレベルを20まで上げている事がいけないんだろうか?

 確かスキルレベルは1で初心者、5で一人前、10でベテラン、15で達人、20で伝説級って言われているらしい。

 俺はチートでいきなり伝説級の力を使ってしまっていたのか。

 キャラクター年齢1865歳でDTどうていという事に耐えられなかった俺のちっぽけなプライド。

 その所為せいでフランに負担を掛けていたのだろうか?

 反省すべき所業だろう。

 戦闘に係わるスキル以外はそんなにレベルを上げる必要は無いのかもしれない。

 特に性交渉なんてスキルは相手あっての物だし、俺だけ高レベルになって無双しても楽しい物でもない。


 そう言えば俺は「絶倫2レベル」も持っていたっけ。

 何事も過ぎたるは及ばざるが如しって事だな。

 しかしこいつは困った。

 転移門の関係で今はスキルリセットをする訳にはいかない。

 次のレベルアップまで待つしかなさそうだ。



 そしてダンジョン隊は2階のボス部屋を素通りして、3階へと降りて行った。



 夜半から降り始めた雨はいつしか激しい雨音を立てる程になり、朝が来ても止む気配すら無かった。

 異世界にだって雨は降る。もう一回言う。異世界にだって雨は降るのである。



 何度も目覚めながら開けた朝、雨の様子を見て早々に調理をあきらめた。

 かまどを乾燥させて倉庫に仕舞うとタチアナさん他に告げに行った。

「この雨では調理は無理ですので以前作った物で朝は済ませてしまいましょう。皆いささか寝不足でしょうから馬車内で休憩を取りながら移動しましょう」

 勿論、他の意見など出ようはずがない。

 多分一番疲れが取れていないのはマルケスだろう。夜中に何度も馬の様子を見に出て行ってたからな。

 場合によっては馭者のスキルを取ってでも馭者を代わってやって、マルケスを休ませてやらないといけないな。



 この日の移動も『乾燥ドライ』の呪文を使って道を乾燥させながらの行程となった。

 何気に乾燥を使って蒸気が道の上に漂っている中を馬車でかき分けていくのが面白かった。

 途中、やはりマルケスに代わって馭者をやった。

 5レベルもあれば充分だろうと取った馭者スキルだが、次のリセットの時には0にしてしまうだろう。



 馬車で移動している途中でもう一つ起こった事、それは……マルケスさんの身に起こった。

 そうマルケスさんまでレベルが上がってしまったのである。

 こういった厄介事は早くに処理してしまうに限る。

 俺は自身のそう長くは無い人生に於いてさえ、そう学ぶ機会は少なくなかった。

 その事に自分の運は決して良くない事も悟っていた。

 今回もその方が良いと理解できていた。


「実はマルクスさんも魔法を取得できるようになったのですがどうしますか?」

 馭者台に座ったマルケスさんの首が、からくり仕掛けの様にゆっくり90度曲がってこっちを見上げる。

 ふと俺の頭に浮かんだ疑問は(あれ?人間の首ってこんな風に曲がるんだっけ?)だった。

 降りしきる雨の中、急に気温が下がった気がした。

 マルケスはやおら顔の向きを前方に戻すと一言「そうか」と呟いた。

 正直、俺は「おやっ?」と思った。

 もっと食いついてくると思っていたから、肩透かしを喰らったようだった。

「あなたはもっと魔法取得に積極的だと思ったんですが……」

 マルケスさんはその姿勢を崩さずに、

「わしはこれでも積極的だよ。それじゃぁ何の魔法を取ろうかのぅ。水作成、浄化、乾燥は外せないとして、あと一つは……」

 何かがおかしい。貼り付けたような無機質な笑顔が怖い。

 マルケスさんはこんな風にしっかりした口調でしゃべる人だっただろうか?

 ジグソーパズルの最後のピースの形が合わない。そんな違和感がある。

 何か企んでいるのだろうか?

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