第76話 魔法少女?2

「発光……いや、望遠かのぅ?」

 それか?!

 心の審議ランプが灯る。

「望遠?何に使うんだ?」

 俺の問いかけに遅滞なく返答があった。

「遠くからでも異常に気付ければ、危険に近づかないようにできるじゃろ?」

 非の打ち所の無い回答だ。

 あらかじめ用意されていたのだろう。

 あとで皆に取得した事が伝わるようにしておけば良いだろう。

「それでいいのか?決めてしまうぞ?」

「おう、やってくれ!」

 俺はコンソールを操作して、マルケスさんの一般魔法レベルを4まで上げて水作成、浄化、乾燥、望遠を使えるようにした。

「これで使えるようになったよ」

 俺の言葉が終わらない内に横から声が……

「わしもついに魔法少女に……」

「そうそう魔法が使えるように……って、何処が少女やねん。おっさん」

 まさか異世界でノリツッコミのスキルを試されるとは……

 親父にはよく試されたなぁ……

 感慨にふけっていると横から声が降ってきた。

水作成クリエイトウォーター!』

 マルケスの目の前1m位の所に水が現れ、マルケスの膝に降り注ぐ。

 ……何故なぜ

 この降りしきる雨の中、まだ水を浴びるような真似をしたがる?

 ここは『乾燥』だろう?

 何故よりにもよって『水作成』なのか問いたい。問い詰めたい。

 反射でツッコミそうになるのをグッとこらえる。

 そう簡単には突っ込んではやらない。


乾燥ドライ

 俺は多くを語らず、呪文でもって抗議の声とした。対応もドライだぜ。

 マルケスは暫く沈黙を守ったあと、

「それにしてもよく振るな。止む気配もねぇ」

「今日は移動中に止む事は無いだろう。たまにはこんな日もあるさ」

 チラッと空を見つめて返答する。

 俺からの返答にホッとしたような表情でマルケスが会話を続ける。

「しかし本当に魔法を使えるようになるとはな……あんた大丈夫なのかい?こんな事しちまって」

「えっ?」

「こんな事、普通の人間にはできやしない。そんな事はわしでも分る」

 そう言うと横目でチラッと見上げてくる。

「そういう事は魔法を取得する前に言うものです」

 俺はぽつりぽつりと語り始める。

「マルケスさん、あなたが魔法を使う事を他の人に知られてはいけません」

 マルケスはそう言われた事が予想を超えていたのかビックリした顔で俺を見上げてきた。

「そこまでか?」

 俺は小さく頷くとちょっとすまなそうな顔をした。

「これは前持って言っておくべきでした。無料で魔法を授ける事はあなた方で最後になるでしょう。次からは例えば一人当たり20万Gとかを貰って請け負う事になるでしょう。そうなるとどうなるか……あなた方は嫉妬の対象になってしまうかも知れません」

 俺は一拍おいて続ける。

「人が最も不満を抱くのは不平等を感じた時です。『どうしてお前は魔法が使えるようになったのに俺は駄目なんだ』それがどんなに自分勝手で理不尽な主張でも彼らの頭の中では筋の通った正当な主張なんですよ」

 俺は呆れているという態度を隠さずに話をする。

「マルケスさん、隠れずに魔法を使おうと思ったら働く場所を変わらなくてはいけないと思います。それが無理ならば隠し通すことをお勧めします」

 マルケスは先程までの楽しそうな態度を消して、憂鬱な様子を隠さずにつぶやいた。

「それこそ魔法を取得する前に言って欲しかったよ」

 その声は雨音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る