閑話1 邪神からの贈り物5

 エドガーが目を覚ました時、そこは自分の他には動く者もいないボス部屋だった。

 時間がどれ程経過したかは判らなかったが、自分の命が失われなかった事に感謝した。

 周りにはホブゴブリンの物と思われる5つの魔石と、ドロップアイテムが散らばっていた。

 見回すとポーション類、皮の手袋、ベルト、靴、そして小さな奇麗な石の付いた指輪が落ちていた。他にはホブゴブリンもスケルトンの影も無かった。

 それらの装備を身に着け立ち上がると、額がズキンと抗議を上げた。確認するとおでこに大きなたん瘤が出来ていた。

 仕方なくエドガーはHP回復用のポーションの栓をキュポンと開け、シュワシュワするのを我慢してアセロラ味の薬の瓶をあおった。

 喉を刺激する液体が滑り降りてゆき胃に収まるころには、痛みとともにたん瘤も消えていた。


 ボス部屋の奥で開いていた片開の扉をくぐって、地下2階に続く階段を降りて周りを見回してもスケルトンの姿は見えなかった。エドガーはどれぐらい気絶していたんだと首を傾げたが答えは出ない。

 階段の脇に設置されている、ダンジョンの入り口に戻る転送陣の上に載ると、転送陣が回転を始めエドガーを地下への階段のある広間へと運んだ。


 受付のギルド職員に見付からないように隠れながらダンジョンから離れると、エドガーは今夜自分に起こった様々な不思議な事を振り返った。地下1階に現れたスケルトン。自分を倒しに来なかったスケルトンの事。そして文字の読めない自分に理解できた文字の事。


 自分しか知らない隠し場所に新しく得た装備を隠して孤児院に戻る。

 新しく得た装備は新人冒険者としては『過ぎた品』と言われる程良い物だろう。


 西の空は既に明るみだしていて、間もなく街も動き出すだろう。

 夢の時間は終わりを告げていた。


 孤児院の自分のベッドに潜り込んで僅かな時間だけでも睡眠をと考えてしまったのが悪かったのだろうか?

「エドガー、いつまで寝ているつもり?早く起きないと院長先生がうるさいわよ」  そう言って起こしに来たジャスミンが布団を剥いだ状態で固まった。

「私、何も見ていないわ」

 そう言って走って逃げてしまう。

 どうしたんだろう?と思って見下ろした自分の下半身に答えはあった。

 別に股間で大きなテントを建設していたわけでは無い。それはベタすぎる。

 ただ、昨夜の雄姿がズボンに溢れていただけだ。セピア色のシミとなって。


「ジャスミン、違うんだ」

 そうは言っても何も違わない事は自分が一番知っている。


 眠るよりも洗濯が先だった。

 自分のミスの後始末は早い方がいい。

 それが致命傷にならない内に。




 エドガーは昨夜手に入れた物のうち、使う予定のない装備等を売り払ってジャスミンを養子に出さなくてもいいように、お金を孤児院の資金として使ってもらおうと、院長室の前に小袋に入れて置いておいた。


 エドガーはそれで満足して院長室の前を辞した。

 しかし丁度院長室から出てきたドロシーは、小袋を拾い上げるとその中を見て満足そうに自身の懐の中に仕舞った。

 鼻歌でも歌いそうな軽やかな足取りだった。


 エドガー、それでいいのか?

 本当の敵はもっと近くにいるぞ!!

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