閑話1 邪神からの贈り物4
エドガーは思わずその場に腰を抜かし、自分の下半身の状態に気付かされる事となった。
エドガーが立ち直るのには10分程は少なくとも必要だった。
やっと立ち直って周りを見回すと戦闘が行われた場所にゴブリンの魔石が落ちている。
それよりも魔石より大きな物が何個か落ちている。
それは皮を加工して作られた上半身用の鎧(ブレストアーマー)であったり、エドガーが持っているナイフよりも長い刃が付いている片手剣(ショートソード)だったりした。ポーションも数本落ちている。
エドガーがスケルトンが去った方を見るが10分程も経っているので姿が見えるはずもない。
「マジかよ」
冒険者を
勿論スケルトンはこれらの装備の所有権を主張したりはしないだろう。
大体、彼らはもっといい装備を既に身に着けていた。
エドガーは降って湧いた幸運に歓喜の声を上げようとして思いとどまった。
こんなところで大声を上げて誰かが来てしまったらどうなるか分からないではないか。
しかしあのスケルトン共は何だろう?
ダンジョンの地下1階に出現するモンスターはゴブリンで、スケルトンが出る等と言う話は聞いたことが無い。
もっと下の階から紛れ込んだのだろうか?
それにしてはゴブリンと戦うのは可笑しくはないだろうか?
う~ん、解らん。
だがこの先もゴブリンと戦い続け、その度に沢山の装備を置いて行ってくれるのなら、危険を冒して追いかける価値はあるのではないだろうか?
エドガーは決意を秘めた目をして散らばったアイテムを拾い集めると、ボス部屋の方に急いで駆け出した。
その後もエドガーは何か所かで戦闘の跡を見付けて、ベルトやら小手やら額当て等を集めていった。
そして遂にボス部屋の控室からボス部屋に入ろうとしているスケルトン達に追いつく事が出来た。
誰にとってかは分からないが、幸運な事に控室にもボス部屋にも、冒険者やモンスターの姿は無かった。
地下1階のボス部屋は30m×50m位の大きな部屋で天井までの高さは10m位はある。
控室側の重厚な両開きの扉は手前に大きく開かれており、50m先の壁の右に片開戸が設えてあり、下の階への階段に繋がっている。
室内は余計な物が全く無い。
天井は短辺にアーチ状に膨らんでいて薄暗く光っていた。まるで蒲鉾のようだ。
エドガーが控室からボス部屋を覗き見ると、スケルトンは既に反対側の壁の近くまで到達しており、このままだと見失ってしまいそうだ。
エドガーがボス部屋に入るのは初めての事だった。
だからボス部屋という物がどのような物かを知らなかった事は仕方が無い事なのかも知れない。
だがその知らなかったせいでエドガーは窮地に立つことになる。
エドガーが10m程部屋に入ったところでそれは起こる。
後ろと前から扉の閉まる重々しい音が聞こえたと思ったら、天井からの明かりが
部屋の中央よりも奥側の床に5つの魔法陣が広がったと思った途端に激しく回転を始める。
魔法陣から紫電を伴いながら2mを超える巨体の魔物が迫り上がる。
エドガーは知らなかったがそれは地下1階のボス、ホブゴブリンだった。
出現したホブゴブリンは5体。当たり前のようにエドガーに向かってきた。
あまりの事に硬直していたエドガーが再起動する間にさほどの時間が必要だったとは思えないが、ホブゴブリンがエドガーの前に殺到するのには充分だったようだ。
突然目の前に自分をミンチにしようと自分よりも大きいような棍棒を振り上げたホブゴブリンに、見下ろされることになったエドガーが、ちびらなかったのはそれを行う準備が間に合わなかっただけだ。
エドガーはホブゴブリンが振り下ろした棍棒を、偶然後ろに倒れることで回避した。
だが偶然はそこまでだった。
ボス部屋が再び解放されるためには、ホブゴブリン5体が倒されるか、エドガーが倒されてダンジョンに吸収されるかのどちらかしかない。
先程振り降ろされた棍棒が再び持ち上げられてゆき、エドガーの頭上に到達する前にそれは起こった。
振り下ろそうとしていたホブゴブリンの首に1本の矢が突き立ったのである。
その矢はホブゴブリンの頸動脈を正確に射抜いており、ホブゴブリンは力を失い、足から崩れ落ちるように倒れた。ついでにエドガーの頭上に棍棒を手放し、エドガーの意識を刈り取った。
エドガーの目にはこっちに近づいてくるスケルトンと盾の部分に文字が書かれていることが見えた。
「僕たち悪いスケルトンじゃないよ」ってなんだよ……エドガーが覚えているのはそこまでだった。
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