閑話1 邪神からの贈り物3

 ダンジョンの入り口には下向きの階段があるのだが、階段の周りには少し大きめの広間みたいになっている。

 ここでダンジョンに潜るための最後の準備をするためだ。

 鎧の装着を確かめ、光を確保し、覚悟を決める。

 エドガーも鎧は所持していないが、厚手の服を身に着け、発光ライトの魔法を唱えてパンッと自分の頬を両手で叩いて気合を入れた。


 エドガーは一般魔法の発光ライトを使える。

 エメロンに暮らす孤児としては優秀な方だろう。最低でも街灯に発光ライトを掛ける人に空きがあれば、食うに困らないだけの収入を得ることはできるだろう。

 冒険者になってもこのダンジョンのあるエメロンの街では、発光ライトの使える魔法使いは重宝される。他の街よりも水作成クリエイトウォーターに次いで取得する人が多い、人気の一般魔法になっている。

 

 階層によっては天井部分が明るい所もあるダンジョンだが、やはり自前の明かりは必要だろう。

 なぜ光っているか。そんな仕組みすら解らない天井に己の命を預けられるのか?

 断じて否だ。

 できれば複数の明かりを多様な種類で持ちたい。

 水をぶっ掛けられたり、敵の|解呪≪ディスペルマジック≫で暗闇になって、暗闇でも問題なく動けるモンスターにタコ殴りにされたいか?

 否だろう?

 考えられる対策は打ちたい。それが冒険者という物だろう。


 エドガーはダンジョンの地下2階に降りるつもりは無かった。

 ならば発光ライトだけで充分だ。


 階段を降りながら耳を澄ませてモンスターの気配、冒険者の気配を探る。

 今のエドガーにとってモンスターも冒険者も両方気を付けるべき存在である。

 今から行うのは冒険者の収入をかすめ取る事なのだから。


 確かに地下1階のゴブリンを倒しても、殆どの冒険者はその魔石を回収したりはしない。

 ゴブリンの魔石を拾って換金しても1個50G程度にしかならないからだ。

 だがそれが40個、50個となると2000G、2500Gとなって一人の収入としては充分暮らせるだけのものになってゆく。

 他の冒険者が倒したモンスターの魔石を奪う事がタブーなのは、この街では冒険者じゃなくても知っている。

 例えそれが倒した冒険者が放置した物であってもだ。

 日本で言う『空き缶問題』のようなものだ。

 その収入が市区町村に入るなら問題無いのだが、資源ごみをホームレスが盗むのは見逃さないだろう。

 ルールではいけない事なのだから。


 エドガーは地下1階をボス部屋を目指す『メインルート』を注意深く進みながら魔石を拾ってゆく。

 ダンジョンに入ってから2~3時間がたっただろうか。

 ある十字路に近づいた時、十字路の左の方から大きな音がする。それは何を言っているかわからない叫び声だったり、硬い物同士がぶつかるような音だったりする。

(戦いの音だ)


 事態はエドガーの想像を遥かに超えていた。

 十字路の壁陰から戦闘を覗くと何体かのゴブリンと何体かのスケルトンが戦っている。

 戦闘は一方的だった。

 見るからに装備の質が全然違う。

 ゴブリンたちの身に着けている物があり合わせでろくに手入れもされていなくて、殆どの武器が錆が浮いているのに対して、スケルトンたちのショートソードやフレイル、グレートソードや盾、鎧なども手入れが行き届いており魔法の光が包んでいる。

 体の大きさも違う。大楯を持ったスケルトンなど3mを軽く超えている。

 そんな事もあって、戦闘はものの2分程で終わってしまった。

 スケルトンの眼窩が赤から黄色に変わる。


 エドガーは気付いていなかった。

 スケルトンとの間には30m程の距離があるが、エドガーは明かりを持っている。

 壁に隠れている程度では隠せてなどいないのだ。

 スケルトンには誰かがそこに居ることは分かりすぎる程分かってしまっていた。

 エドガーがそれに気付いたのはスケルトンが一斉にエドガーを見ている事を感じたからだった。

 スケルトンたちは微動だにせずにジッとエドガーを見つめる。

 エドガーは恐怖で動けない。全身の毛穴という毛穴から冷や汗が流れ出し、おTIMTIMはその役割を放棄したように水分を吐き出していた。

 永遠に続くかと思われた恐怖の時間はやがて終わり、スケルトンたちは眼窩を青に変えてボス部屋の方に立ち去った。

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