第4話 序章4

 タレスティさんが部屋を出て行ってから数分後、サーナリアさんが着替えを終えて戻って来た。

「申し訳ありませんでした」

 美しい人だと思った。

 この人を悲しませてしまったのかと思ったら自然と頭が下がった。

 立ったままだと全部丸見えになってしまうので、正座してアレは太腿の間に隠した。

「目が覚めたらよく分からない空間にいて、錯乱してあなたに縋り付いてしまいました。あなたに恥ずかしい思いをさせてしまったこと、不快な思いをさせてしまったこと、誠に申し訳なく思います。本当にすみませんでした」

 サーナリアさんは一瞬驚いた表情を顔に浮かべたが、すぐに神妙な表情を戻して、

「私こそすみませんでした」

 そう言って頭を下げた。

「着替えに手間取って必要以上にあなたをお待たせしてしまいました。何よりあなたをぶってしまいました。お詫び申し上げます」

 深々と首を垂れる。

 ハニーブロンドの綺麗な髪が床に着いてしまいそうだ。

 ちょっと控えめな(主に表現が)ところがあるようだが、サーナリアさんは誠実な人の様だ。


 サーナリアさんとお互いに謝罪を終えると、タイミング良くタレスティさんが小柄な女性をわきに抱えて部屋に入って来た。

 隣にはもう一人女性がいるが、その女性は身体の前に何か布を持っていた。

 おそらく俺の着替えの衣装だろう。


「離せ~!私が何したって言うのよ~!」

 小柄な女性がタレスティさんに運ばれながら喚く。

 タレスティさんはサーナリアさんの左隣まで来ると右脇に抱えていた女性をそのまま離す。

「ぐべっ」

 落とされた女性があまり聞いたことのないような声を上げた。

 もう一人の女性は抱えていた衣装をサーナリアさんに渡すとすぐに部屋から出て行った。

 タレスティさんはサーナリアさんと俺を見て、無事に謝罪が行われたことを確認したと言わんばかりに一つ頷くと

「さて、やるか」と高らかに(後に俺は知ることになるのだが大吊し上げ会の)開催を宣誓した。


「エリン、自分がなぜここに連れて来られたか理解できているか?」

 連れて来られた女性はエリンダルテさんと言うそうだ。

「さぁ~、何かな~。拘束されなきゃいけない事はしてないはずだけど?」

 よく見ると、エリンダルテさんの両手首と両足首には拘束具のような物で固定されている。

 白い色が基調となっているサーナリアさんとお揃いの衣装の中で、そこだけが赤いのでよく目立っている。

 未だに立ち上がってこれないのは拘束されていたからだと理解できた。

 漸く仰向けに上半身を起き上がらせたエリンダルテさんは、しかし全力で俺から目を逸らしている。

 いや、目を泳がせていると言うべきか?

 全力クロール状態だ。

 まぁ、全裸でいる俺にとってもこっちを見られたくはないのでいいのだが。


「と、エリンは無罪を主張しているけど、サーナの判定は?」

「反省も無い様だし、ギルティね。ターレは?」

「ん、私も同意見。ギルティ」

 自分の意見を無視して話が進んでいることに焦りを覚えたのかエリンダルテさんの弱々しい声が上がった。

「え~っ、嘘でしょ~?どうして~?」

「あんたの悪さの結果がこれでしょ?」

 タレスティさん、指さないでください。

 それよりも、俺の着替えタイムはまだでしょうか?

「罰はハンムラビ的なやつでいい?」

「私もそれでいいかと思って、少年に全裸待機してもらったんだよね」

「えっと、冗談だよね?」

 俺抜きで話が進んでいるが、全裸待機にも理由があったのか?と思っていると、

「さぁ少年、エリンに縋り付け!」

 タレスティさんから指示が飛ぶ。

「マジですか?」

「ん~、マジマジ。でもなんか足りないような……あぁそっかぁ」

 そう言うとタレスティさんはエリンダルテさんの肩に手を置いて、タレスティさんにしては似合わない程のかわいいいたずらをするような声で、

「えいっ」という掛け声と共に衣装を、続いて下着をも剥ぎ取ってしまった。

「ひっ!」

 短い悲鳴が聞こえた方に目を向けたら( д) ゚ ゚

 両手首が拘束されているエリンダルテさん、咄嗟に両手で一番大事なところを隠したが、もう片方は寄せて上げる状態になっている訳で。

「裸で連れて来られた少年と裸の男に縋り付かれたサーナ。足したらこうじゃなきゃね」

 そんな声はもう耳に入って来なかった。

 目の前の状況だけで一杯一杯だった。

 

 エリンダルテさんは小柄な女性のようだった。

 ヘイゼルの髪をフワッとカールさせて肩下までのセミロングにまとめている。

 顕になってしまった胸は少し小ぶりで拘束された両腕では隠しきれていない。

 パッチリとした大きなヘイゼルの目を恐怖に染めてこっちを見ている。

 その視線が少し下がったと見るや小柄な顔が驚きや羞恥、恐怖などが入り混じった表情で固まった。

 口元は片方が妙に吊り上がった状態で少しヒクヒクと痙攣しているかのようだ。

 ハッと気付いて自分の体を見ると両腿の間に秘匿されていたものがいつの間にか存在感を増してまるで『ここにいるぞ!』言いたげに自己主張をしていた。

 羞恥に周りを見渡すと、タレスティさんはニヤニヤと笑いを浮かべながらそれを食い入るように見ていて、サーナリアさんは頬を朱に染めながら明後日の方向を見ていた。

「なかなか立派なモノを持っているじゃないか。」

 タレスティさんの言葉に慌てて自分の前と羞恥を隠して、

「も、もういいんじゃないですか?」

 必死に声を絞り出す。

「エリンじゃ抱き付きたくはならないのか?」

「いや、そうゆう問題じゃないでしょ?」

「エリン、残念だったね。少年としてはお気に召さなかったようだぞ。少年の身体は反応していたんだが……」

 タレスティさんがさり気無くエリンダルテさんばかりでなく、俺をも口撃してくる。

 タレスティ、おそろしい子。


「ちょっとあんた。どういう事なのよ」

タレスティさんの口撃に恐怖から立ち直ったエリンダルテさんが俺に矛先を向けてきた。

「まさかあんた、私の体に何か不満でもあるわけ?例えば胸とか、それとも胸とか、やっぱり胸とかに?」

 エリンダルテさん、胸に対するコンプレックスを拗らせちゃってるみたい。

「いや……俺は……」

エリンダルテさんは怒りのあまり俺の言うことなど耳に入らなくなっているようだ。

「あんた、エロイ人なの!?『あんなの飾りです。エロイ人にはそれが分からんのですよ』って言われてるの知らないの?」

 何でこの人、全裸でしかも拘束されているのに迫ってくるの?

 うわ、めんどくせぇ。

「な、何で迫って来るんですか!?」

「えっ?……ひいっ……いいぃやああぁー!!」

 自分の格好を忘れとったんかい。

「あっ、あんた何するのよ!!」

 まだパニックに陥っているようだ。

「俺はまだ何もしてないでしょうが」

「まだってことはこれから何かするつもりなんじゃない!」

「そうだそうだ。まだ抱きしめてもいないぞ」

「タレスティさん、妙な茶々入れないでくださいよ」

「しかしだな少年。このままでは全然進まないぞ?さっさと済ませて次の女に行かないと終わらないぞ」

「誰が次の女よ。ふぅ、もういいわ。確かにこのままじゃいつまで経っても終わりそうにないもの」

 サーナリアさんは少し疲れたようにそう言うと手に持った衣装を俺に渡して着るように言うと同じように衣装を着終わったエリンダルテさんに、最終通告を出した。

「これに懲りたらいい加減、いたずらは卒業しなさい。いつまでも子供のままじゃ体も成長しないわよ」

 3人に背を向け衣装を身にまとっていた俺はその声を聴きながら3人の仲の良さと複雑に絡む嫉妬やコンプレックスを感じていた。


「責任取りなさいよ」

 良く分からない捨て台詞を残して、エリンダルテさんがタレスティさんに小突かれながら仲良く?退場した。

「さて、やっとゆっくり話が進められるわ」

 俺の体を上から下まで眺めると、聞いてきた。

「サイズは問題ないみたいね。きついところは無い?」

「ありません」

 そう答える俺を見て満足そうに頷くと話を続けた。

「その衣装はこちらの技術で造られています。向こうの世界で手に入る衣装よりも素材や縫製は丈夫になっていますが、特別に防御力が優れているという様なものではありません。『丁寧に造られた旅人の服』とでも考えてください」

 向こうの世界って言葉でやはり俺は異世界に送られるのだと思った。

 サーナリアさんは手首の何らかの装置を操作して、薄く光を放つパネルを開いてそれを俺に提示しながら更に話を続ける。

「あなたにはこれから異世界に行く準備をしていただきます。準備が完了次第あなたは異世界に送られます。私どもから異世界において何をしろと言う様な指示はありません。もしかしたらクライアントから何らかの指示が入る場合があるかもしれませんが、その指示に私どもの思惑が絡むことはありません。私どもの業務はクライアントの意向に従って適合者を見繕って異世界に派遣、または送還することです。また異世界において送還者の生活、業務が円滑に行われるためのアドバイスやサポートをすることであって、指示や命令を出すことはありません。従って担当者である私からのアドバイスと逆の行動を取っていただいても担当者がへそを曲げるということ以外の何らのペナルティがあなたに課せられるといったことはありません。またへそを曲げた担当者のアドバイスが的確ではなかった、又はアドバイスそのものを得られなかったという場合においては弊社は一切の責任を負いません。寧ろ積極的且つ徹底的に責任を放棄する事をここに宣言します。それは弊社設立以来1億7600万年以上亘って掲げられてきた社是であり、弊社はその持てる全力を注いでケツを捲る事を誇りにしております。そこまではご理解いただけましたでしょうか?ご理解いただけましたらここの『弊社の立場と担当者の業務』の説明を受けたというチェックボックスをチェックしてください」

 パネルに表示される文字を目で追ってチェックボックスにチェックした。

 しかし担当者がへそを曲げるってしっかり書いてあったのはどうなんだろう?

 しかも責任を放棄することを宣言されてもなぁ。

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