第3話 序章3

「少年って……俺の名は天城 優樹です。ユウキって呼んでください」

 少年扱いに耐えかねて名乗ってはみたが、タレスティさんは俺の名を覚えるつもりは無いとばかりに、顔に揶揄う様な笑みを浮かべたままスルーした。


「ふうっ、……話って言うのは何ですか?」

 話を促す前に溜息をついたのが精一杯のアピールだった。

「私はこの異世界派遣局でガイドを勤めているタレスティだ。私の口から言ってしまうのも何だが、君はこの後君が住んでいたのと別の世界へと送られる」

「なっなんだってー!>ΩΩΩ」

 ターレさんはなんかとんでもないことを言い始めてしまった。

「んで、ここは中継地点。ここで準備をしてもらってから異世界へ行ってもらう。先程出て行った女性、サーナは君が異世界で快適に過ごすことができるように様々なサポートをする担当ガイドなんだよ」


 詳しい話を聞くと、この場所で異世界の簡単な説明と”ギフトポイント”によるチート能力の選択とステータス、スキルの設定をして異世界でのキャラクターの作成をしたら異世界へと送還されるらしい。


「拒否権は……」

 ターレはさも意外な言葉を聞いたという様な顔をした後、

「元の世界に産み落とされた時に君に拒否権があったとでも?今回特別に拒否権が認められるなどと言う誤解をどうして?」

 どうやら強制イベントらしい。

 あぁ、運命は非情だなぁ。


「さて少年、先程の失態によって君のサーナの中の第一印象は最悪と言えるだろう。彼女が日頃から嫌いと公言している毛虫並み、もしかするとGと匹敵すると言っても過言ではないかも知れない」

「いや、さすがにそれは過言では?」

「担当ガイドとの仲が悪くて必要なサポートが受けられないなんて事になったら、このままでは少年の異世界ライフはお先真っ暗、一寸先は闇、五里霧中。おぉ勇者よ、死んでしまうとは何事か?」

 俺はひょっとしてとんでもない困難なルートへと、入り込んでしまったのだろうか?

 バッドエンド直通ルートって事は……ないよね?

「タ、タレスティさん、……お、俺はどうすれば?」

 うつむき加減で左手で目を覆って勇者の死を嘆いていたタレスティさんが、勇者の未来に一筋の光明を見出したかのような顔をこちらに上げながら……

「おぉ、勇者よ。あなたは自らが傷つけた乙女の許しを得るために、敢えて困難ないばらの道を進もうと申すのですか?」

「許しを得ないと、俺……大変なことになるんですよね?具体的にどうすれば?」

「謝罪と賠償を要求します」

 謝罪って、ジャンピング――とか焼き――とかか?

「しかし賠償と言われても、俺何も持っていないのですが……」

 タレスティさんは難しい顔を崩さずに告げるのであった。

「古来より何も持たない者が賠償すると言ったら、身体で払うしかないだろうな」

「なっ……」

 思わずそっちの方の事を想像してしまい、股間を隠している手の位置が不安になって”ピクッ”と反応してしまった事を責めないでやって欲しい。

 若さ故の過ちなんだ。

 きっと皆が通る道なんだ。

 しかしタレスティさんは見逃してはくれなかった。

”ユウキは逃げ出した。しかし回り込まれてしまった”って状態だ。

「ん、んっ。少年……若いな。そういう初心なところ、私は嫌いではないがサーナはどうだろう?」

 はっ、恥ずかしい。ビクンビクン。

 自分で赤面しているのが分かる。

 裸じゃなかったら、全速力で離脱を選択していただろう。

 タレスティさんが情け容赦無く、全力でマウンティングしてくる。

 裸の時点で俺には逃げることも防ぐこともできない。

 こんなのはムリゲーだ。

「因みに謝罪はジャンピング――とか焼き――とかは要らない。サーナは私ほど捻くれていないから。誠実に謝れば今回は分かってくれるよ」

 タレスティさんは先程までと違い、妹を見守る姉の様な優しい微笑みを浮かべて言った。

 何となくタレスティさんとサーナリアさんの関係性が理解できた。

「さて少年、すまないがもう少しその格好でいてくれ。戻って来る時に何か適当な衣服をもってくるから……それに……エリンには因果応報と言う言葉を学んでもらわないといけないようだから……ね」

 見上げたタレスティさんの顔は笑顔だった。

 只、先程までの笑顔と違って俺の背中は冷たい汗でビッショリになった。

 タレスティさん、怖ぇえええええ。

 俺は生きていく上で大切な処世術を学んだ。

 タレスティさんには逆らわないようにしようと、魂の一番奥に刻み込んだ。

 

 その時おそらくサーナリアさんから連絡が入り、タレスティさんは部屋を出て行った。

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