第57話 楽園という名の地獄1

「分かりました。ありがとうございます」

 タチアナさんに返答して馭者のマルケスに声を掛けに行く。


「ちょっと呼ばれたので中に入るが、さっきみたいに泥濘を避けられない時には馬車を停めて声を掛けてくれ。『乾燥』を使うから」

「あいよ」

 その返答を受けてマルケスに『乾燥』を掛けてから入口に向かう。


 入口は進行方向左側だ。

 扉を開けて動き出した馬車の入口のステップに足を掛ける。


 馬車の中はそんなに広くは無いので防具のたぐいは外して倉庫に入れた。

 馬車の内部は前後2.4m程、左右1.6m程、高さ1.9m程とあまり大きくは無い。

 入口の反対側の壁の中央から入り口側に向かってテーブルが設置されており、サイズは約0.5m×1.2m。

 その入口の反対の壁の上部にはランプが固定できるようになっている。

 馬車の前方と後方側はベンチになっており、そこに分かれて女性陣4人が座っている。

 因みに前方奥にタチアナさん、前方入り口側にフランが、後方奥にベルナリア、後方入り口側にテレーゼさんが座っている。


乾燥ドライ』『浄化クレンズ

 俺は服を乾かし、泥で汚れていた衣服と靴をキレイにして中に入ろうとする。

 俺が体を馬車の中に入れようとステップから持ち上げた時、フランが入り口側に体を寄せて中に入れという動きを見せた。

(えっ?そこ?)

 そういう疑問が浮かんだがいつまでも入り口に立っている訳にもいかず、後ろ手に扉を閉じながら開けてもらった場所に体を落ち着かせた。


 ベンチは男3人は並べないけど、タチアナさん、俺、フランなら余裕はないけど何とかという位だった。


「外は寒くありませんでしたか?」

 タチアナさんが紅茶をポットからカップへと注ぎながらそんな労りの言葉を掛けてくれる。

「服が濡れたままではやはり少し肌寒いですね。でも俺は『乾燥』を使えますので大丈夫ですよ」

 すぐ横から紅茶の入ったカップが差し出される。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 カップを手に持って先ずは鼻を近づけて立ち昇る薫りを楽しむ。

 馥郁ふくいくたる薫りが辺りを包んでいた。

「いい薫りですね。いただきます」

 そう言うと俺は琥珀色の液体を軽く口に含んだ。

「うっ!?」

「「「「えっ!?」」」」

「美味い!」

 お約束とはいえ、ベタ過ぎるだろうか?

 皆の緊張が解けた所で俺は……


「かはっ!?」

「「「「ええっ!?」」」」

「いい茶葉を使っていますね~。」

 呆れたような顔をする者、怒ったような顔を向ける者、無関心を装う者……

 四者四様もとい、三者三様の表情を浮かべる面々。

 悪かったよう。そんな顔をしないでおくれよう。


「……ねえユウキ、もっと魔法の事を教えて?」

 そう顔を体ごと乗り出すように近づけて声を掛けてきたのは勿論ベルナリアだ。

「魔法って一般魔法の事でいいのか?それとも他の魔法の事か?」

「両方!」

 あ~、目をキラキラさせちゃってもう。

 そう言えば他の人にはレベルアップという認識は無いんだったな。

「そうだな、一般魔法は誰が使っても同じという事は無い」

「?」

「例えば俺とフランが『水作成』を唱えたとする。結果は同じか?答えはNoだ。何が違うか分かるかい?」

 ベルナリアは静かに首を左右に振る。

「威力さ。『水作成』なら作られる水の量が違ってくるんだ」

 ベルナリアを初め、他の面々もへ~っって感じで聞いている。

「魔法の威力は色々な要素によって全然変わってくる。魔法強度((1+(知力×2+精神力)/300)/2)、習熟度(呪文レベル)、あと魔法強化系スキルの『オーバーブースト』、勇者スキルの『魔法マスタリー』のスキル補正なんてものもある」


 メ、メタい。俺は誰に説明をしているんだ。

 またサーナリアさんおこかもしれん。

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