第58話 楽園という名の地獄2
「俺の『一般魔法』のスキルレベルは10、10レベルの『水作成』の基本水作成量は1,024L、知力は400、精神力は315、計算すると魔法強度は2.35833、つまり一度の詠唱で作成される水は最大約2,415Lになる。フランの場合は5レベルの基本作成量32L、知力86の精神力86、魔法強度が0.93、作成される水は約29.8Lとなる。『水作成』の基本作成量はレベル1で2L、レベル2で4L、レベル3で8Lと倍になっていく」
何だこれ。まるで誰かが俺の口を使ってしゃべっているようだ。
「『水作成』が『一般魔法』レベルによって作成量が違う様に、『一般魔法』の他の効果も様々な量や距離、範囲などが変わる。それを超えない量、範囲で詠唱者の意によって調節できる。『着火』は持続時間、『微風』は風量、『浄化』『乾燥』『消臭』は範囲、『加熱』『冷却』はエネルギー量、『望遠』は倍率、『発光』は持続時間×全光束が変わってくる」
そんな疑問が浮かんだがもちろんそれに答える者無し。
「攻撃魔法も同じように計算される。攻撃魔法の種類とレベルによって基本攻撃力と消費MPが決まって、詠唱者の魔法強度と『オーバーブースト』と『魔法マスタリー』の補正によって最終の攻撃力が決まる。攻撃を受ける人の魔法防御力による補正値によって減少されて最終のダメージが決まる。はっ!?」
右側からフランが右手を包み込むように握ってきた。
途端に頭の中から何かが抜けていったような感覚があった。
「俺は何をしゃべらされていたんだ!?」
右に居るフランと目が合ったが、
「とても難しい話していたようでした。半分も理解できませんでした」
そう言葉が返ってきた。
俺は背中に嫌な汗をドッと掻いていた。
喉が渇いた。
まだカップに半分以上残っていた紅茶を一気に呷った。
それで一息つけると思っていた。
俺はこの馬車の中が伏魔殿だという事にまだ気付いていなかった。
俺の手の中で香り高い湯気を上げていた琥珀色の液体、俺はそれに守られていた事を知らされた。
紅茶の香りがポットの小さな注ぎ口から漏れる微かな物に弱まると空間を別の香りが支配し始めた。
例えようもなく甘く蠱惑的な女の匂い。
今までにここまでの匂いを浴びたことは無かった。
現代において日本人は体臭が弱いと言われていたし、大部分の女性は毎日風呂に入るのが当たり前だった。
しかしこの世界、『浄化』の魔法はあってもお風呂を使う人は現代社会よりも遥かに少なく、石鹸、ボディーソープの類は言うに及ばず。
結果、左右のタチアナ、フランも前面のテレーゼ、僅かにベルナリアでさえ女の香りを放っていた。
(しまった!!)
気付いた時には既に遅し。
最早若干の前傾姿勢を余儀なくされてしまっていた。
「どうかなさいましたか?」
タチアナさんが話しかけてくるが最早状況は切迫しており、話しかけてくる耳をくすぐる息や先程まで何の興味も無かった二の腕の感触までが俺を追い込んでくる。
(何とかばれない内にアレをどうにかしなければ……)
最悪の場合、ばれても仕方ないと……
え~い、ままよ。
『
なるべく他の人に聞かれない様にと祈りながら小声で唱えた。
「何かおっしゃいましたか?」
周囲の女性の匂いが消え呼吸が楽になった。
「いえ、何でもありません」
タチアナさんにはそう答えたが……
ベルナリアとテレーゼにも聞こえなかったようだが……
どうやらフランには気付かれたかもしれん。
むっちゃ俺を見てくる。
その時、馬車がゆっくりと停まり前の窓が軽く叩かれる音がした。
マルケスに呼ばれているのは俺だろう。
「マルケスに呼ばれているようです。すみませんがマルケスにもお茶を入れていただけませんか?」
タチアナさんにお願いすると、
「はい、お入れしますね」
新しいカップを取り出すとポットからまだ温かい紅茶を入れてくれた。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って倉庫に入れベンチを立った。
正直、まだアレがアレしていたけど、早く立ち去りたい一心で、でも他の人になるべく知られたくなくて、タチアナさん、ベルナリア、テレーゼに背を向ける姿勢で、という事はフランにはまともに眼前に突きつけるような体制でドア前に移動し、扉を開けて外に出た。
「……」
馬車の前に出ると馬の前にはプールの様な水たまりが……
「こいつはひどいだろ?何とか出来るかい?」
おっちゃんに紅茶の入ったカップを渡して、
「おっちゃん、俺やるよ。めっちゃやるよ。是非やらせてもらうよ」
俺は馬車の前に出るといつもはやらない身振り手振りを加えて壮大に魔法を唱えた。
『
今度は身振りだけじゃなくて唱える呪文も詠唱するよ。おっちゃん、ありがとう。
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