第94話 王都での一日7

 そんなこんながあって、宿に戻るのが少し遅くなってしまった。

 ゲートから宿屋に戻るとフランとルリはまだ夕食をしておらず、俺を待っていてくれたようだ。

「すまない、少し遅くなってしまった」

 宿の女将さんに少し遅くなった晩飯を頼むと、食堂兼酒場の奥の一卓が開いているのを見つけて3人で占拠。

 料理が揃うまでに牧場であったことを皆に話す。

「……一般魔法を農民に……、そんなことができるんですか?」

 ルリは驚きと称賛を顔にフランに尋ねる。

 まぁフランの前では何回かやっているから知ってるだろうけど……

 こんな場所で気軽に話していい話題じゃなさそうだ。

 俺はフランの唇を手で塞いでルリに答える。


「できるかと言えばできる……が、このような所で話すような話題じゃ無かった。すまない」

 すまないと言ったのはフランにだ。

「フランが喋ると聞かれちゃうから……」

 俺はフランの唇を塞いだ右手の人差し指で唇をなぞるとぷにゅんとした。

 その感覚が面白くって、更に人差し指を唇をかき分けるように口の中に軽く差し入れると、まだ口外の親指と軽く挟んでみる。

「フランの唇は柔らかいなぁ」

 そうしみじみと呟く。

 視線を唇からフランの顔全体に戻す。

 フランは耳まで真っ赤だった。

 愛いうい奴だ。

 右手の人差し指を自分の唇に入れて親指と挟んでみる。

「ほらっ、俺のと全然違う」

 

 そうやっていちゃついていたら背後に人の気配が……

「そういうのはこの後部屋に戻ってからしなよ。周りに喧嘩売ってる訳じゃないんだろ?」

 女将さんが料理を持ってきてくれたのだった。

 周りを見ると男たちが俺を呪い殺すような目で見てる。

 所謂リア充爆ぜろという奴だろうか。


 そして女将の手によって並べられた料理を前にして皆でいただきますをする。

「俺は明日の早朝からレイヴェルの村長ザムジさんの漁に付き合う。恐らく昼過ぎまで掛かるだろう。2人はどうする?」

 そう2人に尋ねる。

「付いて来ても漁船には乗れないと思うから、ギルビットで買い物でもしてるか?」


「もしギルビットで動いてくれるなら頼みがある」

 そう言うと俺は二人に相談した。

「米、味噌、醤油、あと出汁を取るためのかつお節やいりこ、干し椎茸なんかを探している。この国であるとしたら王都かギルビットかと思うのだが、探してみてくれないか?」

するとルリから思わぬ反応が……

「味噌とか醤油ってユウキさんはルシエン出身だったのですか?」

「……!!という事はルシエンには味噌とか醤油があるのか?」

「米もかつお節やいりこ、干し椎茸も探せば……でも……、ルシエンは遠いです……」

 ルリは少し悲しそうにそうつぶやいた。

 ルリのその様子をちょっと脇に置いてでも、早急にルシエンまで行けるようにしないとと決意するに充分な理由だった。

「では、ルシエンにたどり着ければ、確実に手に入れることができるんだな」

 ルリがコクンと頷くのを目にして決まった、なるはやでルシエンを目指す。

 取り敢えず明日はギルビットで動いてくれるように2人に頼んだ。

 ルリは話すことができないし、フランは多分俺の探し物が何かわからない。

 ルリに商品を見定めてもらい、フランには話をしてもらう。


 2人の明日の予定が決まった頃、丁度食事も終わったので明日のことを考えて眠りについた。

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