第67話 日常の風景

 今回も朝食前にタチアナさんと買い出しに出かけた。

 前回と違うのは……何だか素っ気ない。


 原因には……心当たりがある。

 というか宿の主人に言われた時にこうなる事を恐れていた。

 昨日のジョージがマイクにメアリーだったなんて。

 いや違う。情事がみんなに筒抜けだったなんて。

 ジョージにメアリーは壁に耳ありだった。


 タチアナさんはテサーラの街の時よりも足早に歩いて行く。

 雰囲気から読み解くと、嫌われている訳では無さそう。

 2人で過ごす事に戸惑っているという感じだ。

 う~ん、これは今何とかするのは無理だな。

 フランの活躍に期待するしかできそうも無い。


 事務的に買い物を済ませて、宿に戻る事にした。

 個人的に少しワインと串焼きの肉を手に入れたりはしたが……



 宿に戻ると残留組は朝食を既に終えていた。

 様子を見るとフランがぐったりしている。まるで敗者のようだ。何があったかは明らかだ。

 当事者である俺には何もしてあげられない。

 俺が何かしたらターゲットが俺になるだけだ。それは色々と得策じゃない。

 俺を悪者にしてもいいから何とか乗り切ってくれと心の中で呟いて隣に座る。

 でも極悪な設定は止めてね。辛いから。


 さすがに男の俺の前ではそういう話題にはしないようだが、馬車の中が第2ラウンドになる事は想像に難くない。

 頑張れフラン、今日という一日はまだ始まったばかりだ。


 運ばれてきた朝食を急ぎ気味に片付けながら今日の予定を確認する。

 とはいってもこの後出発の準備をして、行ける所まで進むだけだけどね。


 食事を済ませてお手洗いを済ませると、俺はタチアナさんとお嬢様達の部屋に伺い荷物の積み込みを行う。

 これも『時空間倉庫』に収納するだけの簡単なお仕事というやつで、力仕事でも何でもない。

浄化クレンズ』『消臭デオドライズ

 立つ鳥後を汚さず。

 忘れ物が無いか確認して部屋を出る。

 俺たちの部屋も同様にして立ち去る。



 馬車に乗って街の外へ。

 このエメロンの街の郊外にはダンジョンがある。

 また来る機会もあるだろうからと『転移門ゲート』の出口をダンジョンの近くに設定しておく。

 スキルポイントを1ポイント追加して、5レベルに上げて5か所目として設定する。


 ダンジョンについて色々考える。

 このままダンジョンにスケルトン隊を2部隊12体程向かわせてモンスターを倒していけば、自分もレベルアップするんじゃないかと。

 ぶっちゃけそんなに簡単に倒されるレベルじゃないとは思うんだ、俺のスケルトン達。

 しかも今の39体引き連れての護衛は、どう考えても過剰戦力だと思うし。

 12体派遣しても27体残る。護衛はそれで充分だろう。


 問題があるとすれば、対罠と対冒険者。

 罠は掛かってしまう事は仕方が無いので、リカバリーをどうするかで検討しよう。

 デストラップは掛かってしまったらどうしようもないか……

 転移、落下系はロープを渡しておく。

 ロープでダメなときは少数になった部隊は待機、数の多い方の部隊が合流を目指して移動する。

 冒険者は攻撃不可で防御専念、あとはこっちで何とかする。できるかどうか分らんが。

 あと行動範囲を広げる必要があるから、魔法操作系スキル『遠隔魔法ロングレンジ』を取らなければいけないな。

 『遠隔魔法』は地味なスキルなので所得する魔法使いは多くは無い。

 どんなスキルかと言うと、魔法を通常より遠くまで飛ばすパッシブスキルだ。

 例えばファイヤーボールが通常、射程距離が30mなのを60mにしたりする時に必要になるスキルだ。

 ただ、射程距離を2倍にしたとしても、命中させるのが難しくなるので取得するメリットが少ないとされている。

 だがネクロマンサーは例外だ。

 『アンデッド召喚』のスキルで若干づつ増えていくが、一気に増やすには『遠隔魔法』が必要だ。

 スケルトンの行動範囲が倍々、更に倍になっていけばできる事は増える。

 今回の様に別動隊を作って別の事をやらせたり、留守番として家を守らせたりすることもできる。

 『遠隔魔法』は1レベル上がると距離は倍になる。

 今回の旅の目的地が王都だから、10レベルあれば充分足りるだろう。


 うむ、やってみる価値はありそうだな。

 今夜にでも時間を作って送り出してみようか。



 途中の牧場でまた牛乳とチーズと卵を分けてもらう。

 ここでは乳しぼりも体験させてくれた。

 ベルナリアは始めはおっかなびっくりだったが、慣れてくるとなかなかの手つきで絞ってたな。

 失敗して変な方向に牛乳を搾って自分の顔が牛乳まみれになって笑ったりしてた。

 テレーゼが力を入れ過ぎて牛に蹴られた事には笑えなかった。

 俺がすぐに『回復ヒール』を掛けたけどね。

 俺も乳しぼりしたんだが、牧場のおばちゃん(俺より全然若いんだけど)に「兄ちゃんはテクニシャンだねぇ」と言われた。

 何故かフランが顔を赤くしていた。

 フラン、分かり易過ぎ。



 その後は何も問題もよい事も無く野営予定地に着いた。

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