第19話 ギルド長との1戦

 ギルド長に続いて訓練場に入ると周りがざわめいた。


「おい、ギルド長だぜ」

「知ってるか?ギルド長、元は『暁の風』に戦士として所属していたらしいぞ」

「何?あのAランクの『暁の風』か?20年前にドラゴン退治に貢献したっていう、あの?」

「あぁ、『あの』だ。しかもドラゴンのブレスを2回も受けながら立ち上がったっていうぜ」

「マジか!?じゃあ『疾風のグリシェルド』ってギルド長の事だったのか?」

「うむ。今日こそは疾風の名の基になった『疾風の八連撃』を見せてくれるかもしれないな」


 ……こいつら誰かに説明を入れろって指示されたんだろうか?


 訓練場の片隅に置いてある狼の死体の前に立つとギルド長は振り返った。

「さて、取り敢えず1体スケルトンを召喚してみてくれ」

 俺はその指示に従ってスケルトンを召喚して見せた。


スケルトン召喚サモン・スケルトン

 召喚に応じてスケルトンが召喚された。

 因みにゆっくりと地面から立ち上がるように時間を掛けるバージョンだ。

 どこで誰に見られているか分らんからな。

 兵装もノーマルな盾と片手剣のやつにした。

 但し、強さはレベル8の強化が施されているやつにした。

 舐めプという訳ではない。

 チート無しでレベル12のネクロマンサーが召喚できる一番強いスケルトンがその強さだからだ。

 狼王とか倒しちゃったから、今更だがな。


「ほう。ずいぶんゆっくりと召喚されるんだな」

「そうですね。もっと速くできると楽なんですが」

 適当にごまかしておく。

 できないとは言ってないし。


 ギルド長は武器置き場に行くと両手用の大剣を手に取ると軽く振って見せた。

『ブンッ』ってすごい音がした。

 周囲が騒めいた。

 一応俺も武器置き場から片手剣を取るとスケルトンの持っている片手剣と持ち替えさせた。

 ここにおいてある武器は刃引きがしてある。

 切れないようになっている。

 だがギルド長の振りを見ていると関係無いようにも思う。

 ギルド長は両手剣を鈍器として見ても人を殺せそうだ。


「さぁ、準備は大丈夫か?」

「戦うのは俺じゃなくてスケルトンですからね。問題ありません」

 実は狼との戦闘から街に帰るまでに『指揮』をレベル20に成長させている。

 指揮は配下への指示が正確に素早く届くのに必要なスキルだ。

 指揮のスキルが無いとスケルトンに細かい指示ができなく、又指示通りになるのに時間が掛かる。

 ネクロマンサー必携のスキルである。


 ギルド長に相対する形でスケルトンを立たせる。

「先に動いていいぜ」

 その声に反応して攻撃を指示する。

 まずはスタンダードにギルド長の左上から頭に向かって切りつける。

 勿論こんな見え見えの攻撃を食らってくれるギルド長では無い。

 両手剣で受け止めて弾き、横薙ぎにきた。

 スケルトンは左手の盾を使って受け止めようとしたが、ギルド長の攻撃は盾ごとスケルトンを2m程吹っ飛ばしてしまった。

 さすがに1対1では分が悪いことは否めない。

 スケルトンは転倒することなく態勢を整え、再び攻撃するべくじりじりと間合いを詰める。

 攻略の糸口を掴むため色々な攻撃を仕掛けるが全てを阻まれてしまった。

 フェイントも効かない。

 この時点で詰んでしまった。


 スケルトンは人型のアンデッドだ。

 相手より上回るスピードが有ったり、相手より力がまさったりしないと1対1では勝てない。

 さすがギルド長だ。

 自分の事を良く分かっている。

 唯一の方法は盾を使ったブラインド攻撃位だが、ギルド長はそこまで近づけさせてくれない。


「参った。攻め手が無い」

 素直に降参した。

 周りがどよめく。

「スケルトンを増やすか?」

「う~ん、増やしてもいいですが4体ではおそらく届かないかと……8体あれば何とかなるんでしょうが」

「まぁそんなところだろうな。因みにガルダスを倒した時は何体だったんだ?」

 しまった。そう来てしまうか。

「10体です」

 俺は嘘をついた。

 実際は12体だった。

 今、レベル12の俺だが、ガルダスを倒す前はレベル7。

 それだと7体が上限になってしまう。

 だが獲得経験値増大で20倍された本当の事を言ってしまうと、狼王を倒しただけでレベルが5も上がるのはいくら何でもおかしい。

 狼王を倒して2レベル上がりました……それくらいが丁度いいだろう。


「俺も魔法で攻撃しましたけどね」

 一応やってみようかという事でスケルトンを3体、片手剣&盾で1体、両手剣で1体、弓で1体召喚してギルド長に襲い掛かったが、やはりそれでも足りなかった。

 ちょっと悔しい。


 適度に体を動かせて満足したのかギルド長は世間話モードになったようだ。

「最近、商隊や馬車が襲われているという話を聞いたことがあるか?」

「ちょうど今日、馬車の馭者からその話を聞きました。モンスターか盗賊かもわからないと」

 今、スケルトン達はほかの冒険者の相手をしている。

「あぁ、敵の正体の掴みどころが無くてな。被害が増えていやがる」

「狼王ガルダスがやっていたという事は?」

「それは無いな。奴らじゃ積荷は奪えない」

「なるほど、少なくとも人型の何かが絡んでいると」

「東への物資が滞ると兵たちが苦しくなる。早く解決しないとな」

「東からの侵攻があるかもしれないってことですか?」

「無いとは言い切れないだろう?」

「ですね」


 スケルトンの周りで冒険者たちが倒れている。

 死屍累々だ。


「もう少しこいつらが使えればなぁ」

 ギルド長は冒険者たちを蹴り飛ばしながらぼやいていた。

 スケルトンは4体とも送還されました。


 ギルド長とカウンターに戻って来るとパシリアさんが待っていた。

 タグの更新と報酬の準備ができたらしい。

 登録の時に使った石板と大きめの針を持って待っていた。

 待ちかねていた。

 パシリアさん、目が血走っていませんか?

 少し怖いです……すみません。

 虚勢を張りました。

 少しではなくすごく怖いです。


 その後、パシリアさんの方をなるべく気にしないようにしてEランクへの昇格の作業を行って、報酬を受け取ったのだが……

「120万G!?」

「Aランクの討伐クエストなのでその位はします」

 ちょっと所持金がだいぶ増えた。


「冒険者ギルドでお金を預かることもできますのでご検討ください」

 冒険者が死んでしまったらギルドの物なんだろうか?

 えげつない。


 ランクEとDの依頼を見てみるか。

 そう思ってざっと見回してみると良さそうなのがある。


『護衛任務』ランクD

 領都グリンウェルへの商隊の護衛

 予定日数:6日間

 報酬:24,000G

 貢献ポイント:5

 依頼者:エルガライズ商会


 転移門を試すのにも丁度いいな。

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