第46話 夜を越えて

 夕食を終えて明日の予定について打ち合わせをする。

 明日は朝に食料を少し補充して出発する事になっている。

 食料の買い出しは俺とタチアナの役目だ。

 その他のメンバーで出発の準備を行う事になっている。

 メイドのタチアナが一番忙しくなるのではないか。

 出来るだけ手助けしてやろうと思う。


 この世界の夜は早い。

 日が沈むと明かりが必要になるが蝋燭やランプオイルは高くつく。

 一般魔法の『発光ライト』を使える人もそれ程多い訳でも無い。

 すると自然に裕福でない一般人は無駄な出費を抑えるため夜は早く寝る。

 つまり何が言いたいかというと娯楽が少ないのだ。

 この世界では製紙・印刷技術がまだ発達していないので、トランプなどのカードゲームがまだ一般的では無い。

 全く同じ形の物を複製する技術も無いので麻雀のようなゲームも無い。

 この世界の技術で作れるとしたら将棋やチェスのような物かサイコロを使ったチンチロリンや双六の様な物だろうか。

 えっ?王様ゲーム?!それ作っちゃあかん奴や。

 下手すると思想犯や国家転覆罪、王家侮辱罪で捕まるぞ。

『ネットスーパー』取っておけばよかったかな?

 トランプやボードゲームなんか手に入れられれば良かったな。

 異世界でTRPGをやるというのも乙な物だろう。

 調味料も買えるようになるし悪くない選択だったかも。

 ファンタジー感に拘ってる場合じゃ無かったかも。


 う~ん、やっぱり将棋くらいしかないか。

 材料から集めてみるかな。

 今は手を出さないけどね。


『ギフト』のこと考えていて思い出した。

 ドロップアイテムがかなり溜まってきたのでそろそろ整理しないとと思っていたんだ。

 目ぼしいものだけ見ていくと、


 ・『MP増加+50』『知力+50』『MP回復+50%』セットアイテム【オーガの双角】2/3『電撃鎧スキル+5』

 ・『命中+48』『攻撃力+55』『霊体系モンスター攻撃可』『精神系状態異常回復』オリジナルアイテム【精神注入棒】

 ・アイテム【世界樹の葉】『HP回復+100』エリクサーの材料の一つ


 あ~、2つ目来ちゃったよ。ルーミック=ハイブリッジ作セットアイテム【鬼娘の憤怒】。

 あと1つ来ちゃったらどうしよう?

 残りは【虎縞のブーツ】。

 どう考えてもフラン用なんだよな。

 使えるレベルになったら渡すか。

 まだかなり先の話だな。

 でもこんなカチューシャみたいな形状で何でこんなに防御力が高いんだ?

 不思議でしょうがない。


 さすがに宿の中には護衛は必要ないだろう。

 別にお嬢様、街の人に恨まれている訳でも無いし、街中で悪い人に目を付けられてもいない。

 念のため、万が一の連絡用の為に2つの部屋に1体づつスケルトンを配置。

 フランにちょっと出かけてくると告げて宿の外に出た。

 別に目的があった訳では無い。

 ただちょっとフランと二人きりで部屋に居るのが何となく気まずいと感じてしまったので、軽く散歩でもするかと考えただけだ。


 夜道を歩いているとこの世界に来た時よりも少し肌寒く感じた。

 季節は秋になろうとしているようだ。

 日本も昔はもっと涼しかったと聞く。

 最高気温が30度を超える日は殆ど無かったとか。

 現代人は様々な便利を得る代償として気温を上げてしまった。

 そうなる事は予想出来なかったのだろうか?

 いつ気付いたのか?

 そうなる前に何とかする事は出来なかったのだろうか?

 ……あと何年、地球は人間が住める星でいてくれるのだろうか?

 ……俺は異世界に来ないとそんなことを考えれなかったのだろうか?


「よう。こんな時間に何やってるんだ?」

 ブラブラ歩いていると『ロードトゥグローリィ』のハインケルとトニオに遭遇した。

「別に何をしてる訳でも無いな。いて言えば暇つぶしの散歩だ」

 そう答えながら周りを見るが他の2人の姿は見えない。

「オルタスとヴェルレナは?別行動なのか?」

 聞き返すと揶揄からかうような口調で、

「あの2人はあれだ。2人の時間ってやつだ」

 俺はちょっと驚いた。

 あの2人できてたのか。

 ハインケルとトニオは2人の関係には大して気にした様子も無い。

 女性メンバーが絡んでパーティ崩壊になる話も聞くが、ロードトゥグローリィはうまくやっているようだ。

「そんな事よりユウキ、暇してるなら俺達に付き合わないか?」

 シーフのトニオがハインケルに目配せをすると俺の右側と左側から肩をガッチリと固めてきた。

 まさかお前らあっち系なのか?と背中をヒヤリとしたものが伝ったが話を聞くと色街へのお誘いだった。

「実は今、護衛任務中でな。軽く飲む程度なら何とかなるんだが朝帰りはさすがに無理なんだ」

 そう言って断ると2人流石に任務失敗のペナルティを知っているのでちょっと残念そうに、

「じゃあ少し飲むか」と言ってきた。

 そうなると俺には退路が無い。

 俺は諾々と酒場を目指した。

(男の風俗と女の花摘みはどうしてこんなにお手々繋いで行きたがるのかねぇ。やれやれ)


 近くの酒場に空いた席を見付けると小一時間程一緒に盃を傾けた。

 前回別れてからの事を掻い摘んで話し合って2人と別れた。

 フランの事も話してパーティを組んだことを伝えておいた。

 まぁちょっと揶揄われたが全て否定せずに笑っておいた。

 否定しても信じてはくれないだろうからな。

 最後に今度一緒にクエスト受けないかと言っていたが社交辞令かな?

 2人は別れた後、当初の予定通り色街に行くそうだ。


 宿に戻るとフランはベルナリアの部屋に行っていたようでしばらくしたら戻ってきた。

 その間に俺は『浄化クレンズ』『消臭デオドライズ』を唱えて身ぎれいにして武器と防具の手入れをしていた。

 戻ってきたフランも『浄化クレンズ』を唱えて寝る準備をしていた。

「もう休もうか。明日も早い」

「はい。おやすみなさい」

 フランはそう言うとベッドに潜り込んだ。

「おやすみ」

 俺もベッドに入るとサイドテーブルのライトの灯った水晶玉に覆いを被せた。


 俺はベッドに寝転びながら暫く寝たふりをしていたが、アルコールの所為かふりの文字が消えるのにそんなに時間は掛からなかった。


「……」


 翌朝目覚めるとフランは既にベッドから姿を消していた。

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