第17話 運送屋

 南西の草原地帯からテサーラの街に戻ると夕方までまだ少し時間があるようだった。

 俺はスケルトンズを街に近づく前に倉庫に入れた。

 同じ間違いを犯す程俺は愚かではない。


 街の中に入った俺は馬車の手配を依頼する為に配車場?のような場所を探していた。

 おそらくあるのは商業、工業地区だろうと当たりをつけて街の北東地区を廻っていたら何とか見つけることができた。

 何台か馬車が停まっていたから間違いないだろう。

 馬車の所にいる御者に話しかけたら建物の方を指さされた。

 馬車にもギルドがあるのだろう。


 誰も俺の方を見ていない瞬間を狙って大きい狼を倉庫から出して入り口の脇に置いた。

 中に入るとカウンターがあり、不愛想な親父が座っていた。

「ちょっと冒険者ギルドまで運んでもらいたいものがあるのだが。運んでもらえるか?」

 不愛想な親父はチラッと俺を一瞥しただけで目線を戻すと、

「物は何だい?」と聞いてきた。

「討伐したモンスターなんだが、ちょっと大きくてね」

 フレンドリーな感じで答えておいた。

「どこにあるんだい?」

「入口の脇に置かせてもらっているよ」

 そう言うと俺は入口の方を振り返らずに親指で後ろを示すような仕草で答えた。

 親父は面倒なのを隠しもせずに立ち上がると入口の方に歩き出した。

 親父について入口に向かうと、親父は入口で左を見て右を見た瞬間、固まったWWW。

 まぁ、3mもある狼だとは想像してなかったのだろう。


「いくらで運べる?」

 いつまでもフリーズさせておく訳にもいかないので背後から声を掛けた。

 親父はマヒの魔法が解けたようにピクンッと動いたと思ったら、

「……そ、そうだな600G、いや、700Gでどうだ?」

「結構かかるな。もう少し安くならないか?」

 親父は少し考えるような仕草をしたが、

「これだけの大物だ。馬車も大型が必要だ。しかもまだ血が滴ってやがる。後片づけも大変だ」

 俺も考える仕草で交渉に入る。

 実は街に戻る間に『交渉』のスキルを取得したので試したかったんだ。

「大型なのは仕方ないが後片付けは俺が『浄化』を使えるから積荷を下ろしたら綺麗にしてやるよ。それでどうだ?」

「ん~、分かった。それなら600Gでいい」

「積み下ろしも俺がやる。それで500Gにしてくれ」

 それで終わりだという意思を込めて相手に右手を差し出した。

「ふぅ、分かった。それでいい。500Gだ」

 親父は俺の右手に右手を合わせて握手した。

 交渉成立だ。


 親父はそのまま外に向かって声を上げた。

「ハンス!ハンス!こいつを運んでくれ」

 大型の馬車が入口脇に近づいてきた。

 馭者台から人が降りてきた。

 がっちりした20歳くらいの青年だった。

「親父さん、運ぶのはこいつかい?ずいぶんでかいな」

「積み下ろしは依頼人の方でやる。掃除もしてくれるそうだ。お前は馬車を動かすだけでいい」

「そりゃあ楽でいい」

 親父は俺の方を見ると顎で中を示して入るように促した。

「依頼書を書かなきゃいかん。サインを頼む」

 そう言うとカウンターに戻って行った。


 俺がカウンターの所に行くと依頼書を慣れた手つきで書き始めた。

 依頼の内容が書かれていく。

 積み下ろしは依頼人が……とか掃除が……とか書かれている。

 俺は運賃として500Gをカウンターに置いた。

「積み下ろしと掃除が終わったらこの確認欄にサインを書いてくれ。それじゃあまたのご利用を」

 そう言うと親父はカウンターに置かれた金をしまうと顔を下に向け元の仕事に戻ってしまった。

 不愛想だと言った俺の目は正しかった。

 俺もカウンターに置かれた依頼書を受け取るとそのまま入口から外に出た。


 馬車の所にいたハンスに声を掛け依頼書を渡した。

 ハンスが依頼書に目を向けた瞬間、俺は荷物の狼を倉庫に入れ、直ぐに荷台に取り出した。

 大型の馬車の荷台がギシッと音を立てる。

 音に驚いたハンスがこちらに目を向けた時には全てが終わっていた。

「どうやったんだ?」

「企業秘密だ」

 企業と言う物の無いこの世界でハンスにはどう伝わったのだろう?

「ふ~ん?まぁいい。乗ってくかい?」

 ハンスが馭者台の隣を示す。

 えっ?分かったの?どう伝わったの?気になる~。

「そうさせてもらおう」

 俺は素早くハンスの隣の席に腰を落ち着けた。

 ハンスは軽く手綱を鳴らすとゆっくりと2頭の馬は歩き出し大型の馬車は動き出した。


「後ろの獲物はあんたがやったのかい?」

 ハンスは視線を前に向けたまま訊ねてきた。

「まあそんなところだ」

 少し濁して答えた。

「へぇ、強いんだな。アンタ」

 俺がそのまま話に乗ってこなかったからなのか、ハンスの話が続く。

「最近、街の外で馬車が襲撃されることが増えているっていうんだ。商人も優秀な護衛を雇えるかどうかで廃業を余儀なく事もあるって言うからな。荷物を運ぶ俺達も他人事じゃ無いって事さ。いい冒険者の情報は是非手に入れたいものだ」

「襲撃されるってモンスターに?それとも盗賊とかに?」

 ハンスは少し答えにくそうに、

「う~ん、それが良く分からないんだよ」

「どういう事?」

「あるいは両方かもしれない。獣に噛まれた傷が有ったり、刀傷が有ったり。足跡も様々。共通しているのは積荷が無くなっている事だけなんだって」

「厄介そうだな。たぶんまだ俺には関係無いだろうな」

 ハンスは怪訝そうに聞いてきた。

「関係無いとは?」

「俺はまだ『ニュービー』なんだ」

「それはままならないですねぇ。強そうなのに」

 ハンスは後ろの積荷を振り返って言った。

「冒険者稼業を始めたばかりなんだ。こればっかりはどうにもならんさ」


 どうやら冒険者ギルドに到着したようだ。

 ハンスはギルドの搬入口の前に馬車を停めた。

 俺は素早く馬車を降りると荷台から積荷を倉庫に収納し、すぐに馬車の後ろに倉庫から取り出した。

 ハンスはあっという間に積荷を下ろしてしまった俺を見て、

「あんた力持ちなんだな」と言った。

 何とかごまかせたようだ。

浄化クレンズ

 荷台の清掃を済ませると依頼書にサインをした。


「ご利用ありがとうございました。今度は護衛をお願いしますね」

 ハンスはそう言うと馬車を走らせて去っていった。


 後はこいつをどうやって片付けるかだな。

 俺は冒険者ギルドの入口をくぐった。

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