第37話 コボルトの襲撃
2日目の朝、天気はあまり良くは無いようだ。
どんよりとした雲が広がっている。
一日雨が降らない事を祈るのは望み薄だろう。
雨が降って道がぬかるむと移動速度に影響が出てしまう。
いざとなったら俺が一般魔法の『
朝の日課と朝食、出立の準備を素早く済ませると野営地を離れた。
フランが少し沈んだ顔をしているのは天気の所為ばかりではないのだろう。
昼前には例の場所を通る事も関係しているのだろう。
何か気を紛らわす事が無いかと考えていたら、一つのアイデアを思いついたので早速行動に移す。
(フラン……フラン……聞こえますか?)
「ふぁ?!」
フランは突然体を起こしたと思ったら周りを見廻した。
(今……貴女の心に直接呼びかけています。)
「えっ?えっ?」
(馬車に揺られてぼーっとしている場合ではありません。心でユウキに呼びかけるのです。そうすれば心の中で会話ができるのです。いいですね、心の中で強く呼びかけるのです。いざという時に使えるように慣れておかなくてはいけません)
フランはやっと誰が呼びかけていたのか分かったのだろう。
俺の顔を窺うように覗き込みながら見つめてきた。
やべぇ、ちょっとドキッとした。
フランはそれでも確信を持てなかったようで恐る恐る呼びかけてきた。
(あの、ユウキさん?ユウキさん?)
(んっ?……フラン?)
(はい……あの、これでいいのでしょうか?)
フランはじっとこっちを見ている。
(これは『念話』というスキルで俺との会話を心の中で行う事ができる。但し俺は俺が決めた相手との会話ができるが、フランは今は俺としか話すことができない。つまりフランの他にパーティメンバーがいて俺は他のパーティメンバーともフランとも話すことができるが、フランと他のパーティメンバーの間での念話は今はできない)
フランはじっと考え込むようにしていた。
(離れた所に居ても会話できるし、他の誰にも聞かれない。他の人に聞かれたくない場合やピンチの時などに使えるように覚えておいて欲しい)
(分かりました。離れていても使えるんですね)
何とか得心がいったのかフランは先程より晴れやかな顔で頷いていた。
実際の使いどころは慣れていくしか無いと思うが……
その日の太陽が北の空に登り切ろうとする頃、フランが倒れていた場所を通過した。
前回グリンウェルに向かっていた時、フランと出会った時と2回もこの場所付近でコボルトと遭遇している。
3度目があるかと警戒していたが、結局この日はモンスターとの遭遇も無く平穏な一日だったと思っていたら……
夕食も済み床についてしばらくした頃、スケルトン達から通信?がやってきた。
『あ・る・じ、こ・う・げ・き・う・け・た。は・ん・げ・き・す・る』
俺は飛び起きながら、
「敵襲!!」
叫ぶと同時に倉庫から得物を取り出すとテントの外に出て状況の確認を行った。
敵はコボルトの集団で50体程度の数に見える。
コンソールのミニマップに表示される敵の数は52体、フランはまだテントから出てきてはいない。
商人、馭者たちもテント代わりの馬車の中から動いていない。
俺は馬車の外側に防衛線を設定してスケルトンの配置を調節する。
周囲満遍なく一様に囲まれている訳では無い。
包囲の厚いところ薄いところがある。
それに合わせてスケルトンを動かす。
俺のスケルトンとコボルトでは強さが全然違う。
スケルトンがコボルトを次々に打ち取っていく。
俺はスケルトンの後ろから氷槍を打ち込んでいく。
俺の魔法もスケルトンを傷つけることは無い。
それは勇者の能力によるものだ。
フランがテントから出てきて雷撃を打ち始めた。
生物とアンデッドとではその性質の違いも大きい。
スケルトンは傷つくことを恐れない。
ちょっと傷ついたくらいでは攻撃も防御も変わらない。
生物では無いからだ。
それはちょっとの違いの様で実は大きく隔たっている。
アンデッドは痛みによってバランスが壊れない。
アンデッドは痛みによる硬直が無い。
アンデッドは痛みによる行動の庇いが発生しない。
どれも通常の生物にはできそうにない。
初めの内はコボルトの多さから状況が混乱していたが、少しづつ強さの違いから数が減っていき最早大勢は決した。
その状況になってもコボルト達はなかなか退却しなかった。
もうひっくり返す策も無いだろうに……
結局最後に退却したコボルトは3体に過ぎなかった。
コボルトの死体、49体を倉庫に入れて周りの確認を行ったが他の敵は存在せず、馬、馬車、積荷、テント等に損傷無し。
再度就寝するに問題は無かった。
寝れるかどうかは知らんが。
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