第79話 新しいスキル

 朝、目が覚めたら結構とんでもない事になっていた。

 別にモンスターに襲われていたとかそんな事じゃない。

 ただちょっと、ベルナリアが8レベルから11レベルになっていた。それだけだ。


 別動隊のスケルトンがジャイアントアントの群れと遭遇したらしい。

 殲滅したその群れに偶々87匹アントが居ただけなんだが……


 ベルナリアが旅に出る前は3レベルだったはず。

 これ大丈夫だろうか?

 どう見てもパワーレベリングじゃまいか。


 タチアナさんまで12レベルになってしまった。

 テレーゼが13レベル、フランが15レベル。

 マルケスは……見ない!マルケスのだけは見てなるものか!!



 早速と言えばあれだが、厄介払いと言えばあれだな。起きだしてきたタチアナさんに話しかける。

「おはようございます。タチアナさん」

「おはようございます。ユウキさん、今朝も早いですね」

「いや~、元気が有り余ってしまって、目が覚めてしまいました」

「まぁそれは何よりですわ。私も今朝目覚めたら何やらいつもより調子がいいみたいで、今日は何か素敵な事が起こりそうです」


 それはレベルが上がった所為せい

「それは良かった。旅もあと少しです。最後まで気を抜かないようにしないといけませんね」

 そう俺が言うとタチアナさんは少し寂しそうな顔を見せ。

「あら、もうそんなに経ってしまいましたの?」

 ちょっと俺の顔を見上げると

「そしたら今夜、お時間をいただけるかしら?例の回復魔法の件、結論を出しませんと……ねぇ」

 なぜか艶然と微笑むのだ。

 タチアナさんは3レベル分のポイントが溜まっている。

「今なら一般魔法も回復魔法もポーションの作成も選べます。後悔しないように考えましょう」

「あらそうなの?じゃあじっくり時間を掛けて考えないといけないわね」

 朝食の材料を出してスケルトン2体を手伝いに差し出すと俺はテレーゼのもとに向かった。


「テレーゼ」

 そう呼びかけると剣を振っていた手を止めて挨拶を返してきた。

「ユウキか、お早う。もう朝食か?」

「お早う。いや、朝食はまだだ」

 少し怪訝な顔をしてテレーゼは『ならば用事は何だ?』と言わんばかりの態度を返してきた。

 朝のルーティンを邪魔されたのが気に障ったのかも知れない。

「あ~、済まない。一般魔法の件だがな、今朝テレーゼも取れるようになったんだが……」

「本当か?嘘じゃないんだな?」

 テレーゼはさっきまでの態度を180°転換したような状態で、目をキラキラさせて胸の前で両手を組んで迫ってきた。

「おっ、おう」

 こいつもこうゆう格好すると可愛いな。思わずグッときちまったぜ。

「それで何を取る?水作成と浄化でいいか?」

 そう言うとテレーゼは少し考えて、

「水作成と浄化と……消臭かな」

「消臭?何に使うんだ?」

 俺がそう言うとテレーゼは着けていた籠手を外して渡してきた。

「おじいさんの代から受け継がれてきた物なの。大事に使っているからまだ使えるんだけど……これだけはね」

 そう言うと恥ずかしそうに身を捩った。

 そういう目で見ると籠手の周りに怪しげな効果線が見えるようだ。これはかなり臭そうだ。だがテレーゼの名誉のために何も言わない事にする。

 これも親父の薫陶の賜物ってやつだ。

「解った。その3つでいいのか?」

 テレーゼはコクンと首肯する。

「じゃあその3つと、片手剣、ソニックブレードを4レベル……でいいか。ほい」

 ソニックブレードは剣で離れた敵を攻撃する手段としては一般的な物だ。

 音速の斬撃が……だの、気を飛ばして……だの言われているが、その正体は俺も知らん。

 まぁあまり使える人がいないようなのでレアリティは高そう。

 テレーゼもスキルを持っていなかったようなので付けてみた。


「実戦で使う前に試しで使っておいてくれよ。味方に当てないようにな」


 そう言うと俺は一仕事終えたとばかりに踵を返し、肩越しに手を振ってテレーゼの前を辞した。


 しばらくするとテレーゼの底抜けに楽しそうな声と『ドシュッ』とか『ザシュッ』とか聞こえてきたから大丈夫だろう。

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