第33話 薬草採集2
フランシスさんによると収穫後の鮮度がポーションの性能に影響を与えるとの事。
ならなるべく早く倉庫に入れた方がいい。
そうすると倉庫をどう説明するか……
他の人が時空間倉庫の話をしているところなんて聞いたことが無いから多分他の誰も持っていないと思うんだよね。
パーティを組むのなら隠し通せる物でもない。
隠し通せない物というのは他にも転移門もそうだし、フレンドリーファイアー防止機能も説明しておかないとだし、それこそ成長管理などは俺が勝手にできるもんじゃない。
勇者って秘密の塊だな。
ええいままよ。
フランシスさんの採集した薬草をそのまま倉庫に収納する。
「えっ!?」
「ん?ああこれ?」
フランシスさんが小さく頷くのを認めて、俺はそれが何でもない事のように取り繕って
「これは時空間倉庫と言って別の空間に物を仕舞っておけるんだ。時間の経過が無いからそのままの状態で収納できる。結構便利なんだぜ」と説明する。
フランシスさんの前で先程収納した薬草を取り出して見せる。
なんだか納得ができていないような微妙な顔をしているフランシスさんをそのままに、
「さあ、陽が落ちるまで採集して今晩はこのそばで野営しましょう」と話を逸らした。
正午を過ぎて少し陽が傾きかけた頃、スケルトンの警戒網に反応があった。
少し離れた草むらに何かいるという。
その草むらを見ると赤い何かが草の上からひょっこりと頭を出している。
鑑定すると『レッドキャップ』とのこと。それが2体いる。
レッドキャップはゴブリンと同じようなモンスターで小型の老人の姿、赤いとんがり帽子を被っている。
ゴブリン等より凶悪でずる賢く残忍だ。
赤い帽子は血で染まってできているという。
2体しかいないのでは敵では無い。
26体のスケルトンから8体を動かして戦闘させる。
6体が普通のスケルトン、もう2体が弓タイプだ。
6体を接近させて飽和攻撃を仕掛ける。
それぞれに3体が接近戦をフリーの2体の弓が隙をついて矢を放つ。
あっという間に動かなくなってしまった。
1撃2撃と躱せていたものが背後からの1撃を避けられなくなり、矢が体に刺さっていく。
多少素早いだけでは躱せない。
赤い帽子を被ってゴブリンの3倍速くても存在できるスペースを武器の軌道で削っていく。
囲って削って倒す。
存在できなくする。
スケルトン達の戦い方。
スケルトンではダメージを与えることが出来ない敵が出てくるまではこれで何とか倒せるだろう。
戦いは数だよ。
銃火器の戦いになればより数の優位が顕著になるが、それ以前の戦い方でも数は力だ。
アッと言う間に2体のレッドキャップを討伐し戻ってきた。
レッドキャップの死体を倉庫に回収(フランシスさんが微妙な顔をしていたが)採集に戻った。
夜、野営をしている焚火を囲んでフランシスさんに問いかけた。
周りはひっそりとして、俺の声が驚くほど響いたが周りに溶け込むように消えていく。
「フランシスさん、これからどうしたい?」
彼女の取り得る選択肢は多くない。
知り合いはほとんどいない。
コボルトに追いかけられていたことから見ても村の生き残りは……
お金も道具も持っていない。
あるのは身体ひとつとウィッチとしての経験だけ。
「頼れる人とかはいないの?」
そう尋ねた俺の言葉に目を閉じて顔を小さく横に振る。
「お金は?どれくらい持っているの?」
俺は知っている。彼女がお金など持っていないことを。
やはり彼女は首を横に振る。
俺の言葉で彼女を追いこんでいく。
俺はそれを自身を知ってもらう為だと自分をごまかして、これ以上自分が嫌いにならないように行う。
いや、その時点でもうすでに俺は自分を嫌いに感じてるのか?
おそらく彼女の前には選択肢は3つ、いや2つか。
命を売るか、春を
前者が冒険者、後者が売春婦だ。
どちらもろくでもない。
魔法が使える選ばれた人でも無一文で伝手も無いと能力を生かす場までたどり着けない。
街に入るだけでも100G、冒険者に登録するのに1000G必要なのだ。
「……」
彼女は沈黙したままだ。
選びようがない。
運が良ければ善意の冒険者や商人からお金を借りられるかもしれない。
じゃあ運が良くなかったら……
そこに一本の糸を垂らす。
「俺は今までソロで活動していましたが、冒険者になるなら俺の作るパーティに入りませんか?」
えっ、という感じにフランシスさんが下げていた視線を上げてこちらを見上げる。
「入街税と冒険者の登録料は新しく作るパーティの共有資金から貸し出します。貸し出したお金を返していただければパーティを抜けていただいても構いません」
万が一の退路まで用意する。
それがこの場での逃げ道を無くす。
いかん、自己嫌悪が……
俺は彼女を追い詰めているのだろうか?
それとも……
「一つ誓約して欲しいことが有る。俺にはどうやら秘密が沢山あるようなんだ。さっきの時空間倉庫もその一つだ。他に人が居るようなところでは決して口にしない事。約束できる?」
フランシスさんは小さく首を縦に振った。
「僕と契約してパーティメンバーになってよ」
なんかセリフがおかしくなった。魔法少女ではあるけど。
俺は気を取り直してゆっくりと手を彼女に差し出す。
「はい。よろしくお願いします」
これで契約は成った。
その後、お互いに呼び捨てにする事(俺はフランと呼ぶ事に)、パーティ共有資金にクエスト報酬とモンスター撃破報酬の20%をプールし残りをメンバーで等分する事、共有資金では食料やポーション等の消耗品とテント・毛布等の備品の購入、情報料等に使う事等を話し合って決めた。
その後は昨夜と同じように俺は外で寝た。
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