第153話 ゴッサリア・エンタリオンの正体

ザヤネをネネルとクロエに任せ、




俺たちは皇帝がいるであろう城の上階、




古代遺跡が残る場所に向かっていた。




その場所は千里眼が機能しない特性を持っているらしく、




内部を透視することが出来なかった。




そして、その前の広いテラスにはやはりと言うべきか、




ザサウスニアの魔剣使い、ゴッサリア・エンタリオンが待機していた。




テラスに着いた俺は、護衛兵団とルレ隊を横に広げて布陣させ、




フラレウムに火をつけた。




ゴッサリア側もガラドレス城の近衛兵100名ほどを従えていた。




「……この城はじき落ちる。先ほどの傷も深いはずだ。




投降すれば命は保証する。剣を捨てよ」




とりあえず言ってみるだけ言ってみた。




「……調子に乗るな。




お前こそ肺を刺されてまともに戦えるのか?」




リアムに聞いたのか。




「……やるんだな?」




ゴッサリアの背中を斬った時、剣先が硬いものに触れた感触があった。




背骨に傷があったら立てないはずだ。




千里眼で見てみると黒い影が傷口周辺に集まっている。




どうやら身体の内側から支えているらしい。




しかし、周りに兵を置いているのは、




もう魔素がほとんど残っていない証拠だ。




ゴッサリアは大技の魔剣使い……かなり広いテラスだけど、




ここであの竜巻を出したら友軍も城も被害を被る。




「来い。ここでお前を終わらせてやる」




ゴッサリアが魔剣を抜くと辺りに突風が舞った。




俺は火球を連続して撃ち込み、距離を詰める。




兵同士も衝突する。




爆炎から姿を現したゴッサリアは魔剣を振るたびにかまいたちを発生させ、




キトゥルセン兵を斬り刻む。




こちらも炎弾を乱れ撃ち、ザサウスニア兵を削る。




「盾を手放すな!」




スノウの持つ鉄盾は切れはしてないが、かまいたちを受け歪曲している。




向かって来た風の刃を火球で相殺、




熱波を前方に発生させゴッサリアを包んだ。




爆風で吹き飛ばそうとしたが、




周りの空気を広範囲にわたって熱したので逃れられなかったようだ。




ようやくダメージを与えられた。




「ぐおおおおっ!!」




全身から煙を出し、とてつもない速さで後方に移動した。




今のが〝境壊〟か。




自らの体に魔剣の能力を伝播させる……。




あれで向かってこられたらひとたまりもないな。




兵達の戦いは既に終わりそうだった。




こちらには白毛竜がいるし、連弩もある。




加えて【王の左手】、ルレ、シボ、スノウなんかは桁違いに強い。




圧倒的だった。




既にゴッサリア以外は駆逐した。




「……くっくっく……ここまで追い込まれたのは久しぶりだ」




ゴッサリアは身体の痣を動かし、黒霊種を体の外に出した。




そして消えた。




気が付くと真横にいた。




一気に冷や汗が出たが、剣先が俺の腹に到達する間際、




爆発が起こった。




俺も周りにいた【王の左手】達も地面に倒れる。




爆発したのは機械蜂か。




俺の鎧には常時数匹が金具や装飾に姿を変えて待機している。




「……惜しい。やるじゃないか、フラレウム」




今の爆発でゴッサリアは少なからずダメージを負ったみたいだ。




少し離れた所で剣を地面に刺し、体重を預けている。




息が荒く、額には大量の汗が光っていた。




ゴッサリアは黒霊種を動かしてきた。




黒い人型が、べたっべたっとゆっくり足を進めてくる。




うーん、ホラーだ。




「お前たち下がれ」




部下を全員下げた俺は、無駄だと思いながらも炎弾を放ってみた。




案の定無傷だ。どうしたものか……。




全てをすり抜けるのに攻撃は出来るって無敵の存在じゃんか。




あ、……ていうか本体を攻撃すればいいか。




俺は熱波をゴッサリアに向けた。




「うっ!」




すぐに違う場所に瞬間移動する。




よし、黒霊種もついていったぞ。




ゴッサリアが移動したところには血の跡があった。




背中の傷が開いているのだ。




もう一度、今度は広範囲に熱波を放つ。




「ぐうぅぅっ!!!」




呻きながら何度か場所を変えたゴッサリアは、




最終的に俺の真後ろに来た。




予想していた俺の剣と、同じく予想していたリンギオの矢、




そしておそらく最後の力を振り絞ったかまいたちが、




俺の鎧をへこませたのは同時だった。




俺の振り下ろした剣は肩から胸へ、矢はわき腹に刺さった。




苦痛に歪む顔で、ゴッサリアは倒れた。




「オスカー様!」




少しよろけた俺をソーンとアーシュが駆け寄って支えてくれた。




「ありがとう。俺は大丈夫だ。どこも切れてないよ」




「うっ……はぁ……はぁ……俺が、負ける、とは……」




血を吐いたゴッサリアは握っていた魔剣を放した。




もう助からないのは明白だ。




「……とどめが欲しいか?」




俺はフラレウムの剣先を向けた。




「……その前に……」




ゴッサリアは近くに来いと、小さくあごを動かした。




この状態で反撃はしてこないだろう。




その場にしゃがんだ。




「なんだ?」




かなり辛そうだが、まだ目に力が残っている。




「お前……転生者で……千里眼使えるだろ……




俺もだ……。




お前は……恵まれてるなぁ……




ずっと見てた……ネネルを……




お前より、俺の方がふさわしい……」




俺は立ち上がった。




後頭部を殴られたような衝撃。




頭が真っ白になった。




「オ、オスカー様?」




アーシュが覗き込んできた。




あ、可愛い顔だなー。あれ、今何してたんだっけ?




「オスカー様!」




はっと我に返ると魔剣を掴んだゴッサリアが仰向けのまま宙に浮かんでいた。




身体からは黒霊種の体が見え隠れする。




黒霊種が動けないゴッサリアを動かしている、そう感じた。




「……今回も死なせてくれないのか……」




そう言って体を起こしたゴッサリアは地上1mほどの高さで制止した。




「……俺の出身は神戸だ。……お前は、どこだ?」




血だらけの体でニヤリと笑ったゴッサリアは、




周囲に突風を起こし、一瞬でその場から消えた。

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