第49話 ウルエスト王国攻略編 オスカーvsネネル

正面から二人の有翼人兵士が近づいてくる。


手を大きく振って何かを叫んでいた。


「撃つな! 我々は反乱軍だ!」


近くに来た。男と女、後ろに十人程が待機している。


「キトゥルセン王国オスカー王子とお見受けする。


攻撃の意図はない。剣を納められよ」


男が叫ぶ。


「反乱軍? どういうことだ? 内戦中なのか?」


「ああ。我々の目的は同じだ。ネネルは魔剣で操られている」


ドクンと心臓が高鳴った。やはり……自分の意思ではなかったんだ。


「女王の元に行けば……魔剣を壊せば……多分、ネネルは元に戻る。


我々だけではたどり着けない、共闘してくれ」


「……分かった。こちらとしても好都合だ」


「ありがとう。赤いマント兵が我々の軍勢だ。攻撃するな。


私はマリンカ・ラピストリア。ネネルの姉だ」


うん、どことなく似ている。


男はシーロと名乗った。


『ユウリナ。反乱軍と同盟を結んだ。赤マントの方だ。


バルバレスとミルコップにも伝えろ』


『了解』


「なに? 話したの? ユウリナと?」


クロエの頭はパニックらしい。


「帰ったらゆっくり話すよ。それより今は……あれだ」


眩い閃光を放ちながら、ネネルがこちらに向かってきた。


「あんた達は暴れてる金色機械の所に行って案内してやってくれ。


今大きな通りにいる。クロエも行け」


クロエはシーロの背中に移った。


「俺はネネルを止める」


「大丈夫?」


クロエは心配そうな目を向けた。


「責任者だからな。大役は俺の仕事だ」


マリンカたちが去り、俺は火球をネネルに撃った。


かわされたが俺を目標にしてくれたようだ。


「カカラル、頼んだぞ」


大きく鳴いて、カカラルはぐんっとスピードを上げた。


すぐ横を電撃が走る。


後ろに火球を放ちながら、ネネルを引き付ける。


ウルエスト城の上空をぐるぐる回り、


時折奇襲をかけて火炎放射で炎幕を張ったり、炎蛇で攻撃する。


当たっているのかも効いているのかも分からない。


常に飛び回り視界が目まぐるしく変わるので位置を掴むだけで精いっぱいだ。


だが少しは嫌がっているようにも見えた。


カカラルが不規則に飛び回ってるおかげで、電撃は直撃していない。


勝利の道は3つ。ネネルの体力切れを狙うか、


別動隊が操っている魔剣を回収もしくは破壊するか、そして俺が倒すか、だ。


最後のは厳しいか……そう思った時、


下からネネルが迫ってきた。さっきまで真後ろにいたのに、いつの間に!


放たれた電撃はフラレウムに当たった。やばいと思ったが身体に電気は来なかった。


避雷針的な効果か? いや、そうだったら俺の身体に流れてくるはずだ。


背後からもう一度電撃が来るも、またフラレウムの刀身が吸収した。


魔力を相殺している……? 


あーもう考えても分からん。


けどこれで少しは有利に立ち回れる。


スピードはこちらの方が上だが、小回りはネネルの方が優れている。


山肌に沿って飛行している時、せり出した岩にレーザーが当たった。


背筋が冷えた。これは喰らっちゃいけないやつだ。


放ってくる電撃を、レーザーを、加速と減速、急降下やきりもみ、


フェイント、あらゆる強弱をつけて避ける。


合間に火球と炎蛇で牽制する。


こっちは息が切れてきたっていうのに、ネネルの体力はちっとも減らない。


城の真上でカカラルの右翼がレーザーに貫かれた。


一際大きな声で鳴いたカカラルは、そのまま城の屋根に落ちた。


落差があまりなかったのは不幸中の幸いだ。


「大丈夫か、カカラル」


カカラルは子犬みたいにクゥ~ンと鼻を鳴らした。


落下によるダメージは無さそうだ。


そもそも出会った時、大分高い所から落ちてケロッとしてたからな。


魔獣の身体は想像以上に強い。


でも翼に穴を開けられるのは流石に堪えるらしい。


10m先にネネルが着地した。


屋根は幅60cm程は平坦で、両側はかなりの急斜面だ。


落ちたら洒落にならない。ハの字型のてっぺん部分。


ネネルの姉が持ってきた希望。操っている魔剣を奪えばネネルの意識は戻り、


またいつもと変わらぬ日常に戻る。


それまでは俺が食い止めないと。


ネネルは電撃を放った。フラレウムで受ける。


今度はこちらが火球を放つ。ネネルは腕で払った。


絶好のタイミングで後ろのカカラルが火を吐いた。視界一面が炎で埋まる。


この隙に俺はクロエたちを【千里眼】で見た。




クロエ、バルバレス、ミルコップは玉座の間で【三翼】と対峙していた。


外では軍とユウリナが暴れまわって、敵本軍を引き付けている。


城の中はマリンカ軍が次々と攻略していた。


「何をしているのです! あなた達は軍で一番強いのでしょう? 早く片付けなさい!」


エズミアとモラッシュ、複数の家臣、侍女が一ヵ所に固まっていた。


部屋に出入り口は一つしかない。袋のねずみだ。


「残念だが、俺たちも我が軍でほぼ一番強い」


バルバレスは言うや否や近くの兵に切りかかった。


無くなった片腕に斧をつけた壮年の兵、ルガクトは辛うじて攻撃を防いだ。


「ほぼ? 一番だろ」


巨漢のガルダの剣を防いだミルコップは、腹に回し蹴りを叩きこんだ。


「ユウリナが一番でしょ」


飛びながら二刀流で攻撃してくるイケメンのキャディッシュをいなしながら、


クロエは氷柱を床から出し、その翼を凍らせ固定した。


キャディッシュは氷柱にくっついたままどうすることも出来ず、足を暴れさせている。


「くそ、でもこんな美しい人にやられるなら本望……」


何か聞こえたがクロエは無視した。


「あの方は軍に所属していない。それに人ではなく神だからな!」


ミルコップはガルダと壮絶な剣劇をしながら、楽しそうに叫んだ。


「なにその屁理屈」


クロエはガルダとルガクトの背後に回り、氷柱を生やして二人の翼を氷で固めた。


「ぬう……」


「くそ、卑怯だぞ!」


ミルコップとバルバレスは溜息をついて剣を納めた。


「クロエ殿、今は時間がないから分かるが、次は手助けしなくて結構ですぞ」


二人ともまだ斬り合いたいと言っているようでクロエは少し呆れた。


「はいはい」


三人は数段の祭壇を上がって玉座に近づいた。


「エズミア・ラピストリア女王、終わりです。その魔剣を渡して下さい」


「……なぜネネルは来ないのですか?」


「分かりません、呼んでいるのですが……」


エズミアとモラッシュは青い顔でこそこそ話している。


「……聞いてますかっ!!?」


バルバレスは大きな声で二人を睨んだ。


「ひいっ!!」と二人は縮み上がった。


「丁寧に対応しているうちに渡して下さい」


「……無礼者め。こちらは女王様ぞ。一兵士が話していい御仁ではないわ! 


交渉したくばそちらも国王を連れて参れ。


……ああ、そちらの国王は死にかけているのだったな。じゃあ王子でもいいぞ」


モラッシュは卑屈に笑った。


「お前うるさい黙れ」


クロエはモラッシュの肩を掴んだ。途端に白い霜が腕全体を覆う。


「ぎゃあ!! い、痛い! 冷たい!」


バルバレスはエズミアから魔剣を奪い取った。


「観念しなよ、おばさん。見苦しいよ」


クロエは腕を前に出し、自らの手を凍らせ、凶暴そうなフォルムに作り替えた。


「ば、化け物め」


「どっちが化物だよっ! 自分の娘を兵器として操るなんて人間のすることじゃないっ!!」


激高したクロエをミルコップが宥め、下がらせた。


クロエの感情に呼応し、辺り一面に霜柱が立っていた。


「そうだ、あなたがやったことは罪深いことだ」


バルバレスは魔剣テンプテイラーに埋め込まれた魔石を、剣で叩き割った。





クロエたちは玉座の間にいた。女王一派は追い詰められている。


いいぞ、時間の問題だ。


よそ見していたら、炎の壁を切り裂いてネネルの爪が現れた。


火炎放射を直撃させると怯んだ。翼が燃えている。


ネネル、すまない。


電撃をフラレウムで受け、懐に入り火球を放つ。


ネネルは後方に吹っ飛びながらもレーザーを撃った。


俺の左肩とカカラルの羽を貫いた。


熱いし痛い。めっちゃ痛い。カカラルは悲鳴を上げる。


距離が開いた。ネネルは立ち上がったが膝を付く。


向こうも体力が減ってきたようだ。


手を前に出す。またレーザーを撃つ気か。


もう少し、もう少しなのに。


防げるか? フラレウムで。


ネネルの指が光る。剣に衝撃。目が痛いほど光が爆ぜた。


腕が持ってかれる。俺は後ろに吹っ飛んだ。


瓦礫に突っ込むかと思ったがカカラルに支えられた。


ネネルも倒れていた。動かない。


俺は恐る恐る近寄ってみた。ネネルは元に戻っていた。


腕に幾本もの傷が走っている。まるでレーザーが自分に跳ね返ったかのような……。


「ネネル……おいネネル!」


返事はないが息はしていた。ひとまず溜息をつく。


後ろからカカラルもやって来た。心配そうにククッと喉を鳴らした。


「大丈夫だよ、カカラル。息は……」


突然起き上がったネネルは俺の腕を掴み、心臓の位置に手を置いた。


ヤバい!!


目は白いままだった。


まだ操られたままかよっ!


咄嗟にフラレウムの切っ先をネネルの腹につけた。


どうするどうするどうするっ!? やらなきゃやられる。


やれるのか、自分に?出来るのか、ネネルを!?


ネネルとの思い出が頭の中を駆け巡った。


俺が死んでも変わりはいる……そもそも二回目の人生だ、十分楽しんだんじゃないか? 


……いやいや! 皆に帰ると言ったじゃないか! くそ、どうすりゃいいんだ!


俺の思考は僅か一秒の間にフル回転した。


柄を握る手に力を入れた時、ふっと糸が切れたようにネネルは気を失った。


倒れる寸前、慌てて身体を支えた。


「ネネル!!」


地面に下ろし、目を開けてみた。


瞳は茶色だった。


終わった。ようやく……。


俺も、ネネルも、カカラルも死ななかった。


よかったよかったよかった……。


下から勝どきが上がった。キトゥルセン軍だ。


「ネネル、もう大丈夫だ。全部終わったよ」


俺はネネルをきつく抱きしめた。


耳元で聞こえるネネルの呼吸音が、高ぶった心を落ち着かせた。

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