第85話 モリア・アーカムの日常

皆さん初めまして。


ノーストリリア城付き医術師の見習い、モリア・アーカムです。


今日は我がアーカム一族が経営する城下町の病院でお仕事がありました。


入院しているシボ・アッシュハフの抜糸を私が担当しました。


傷口はもうほとんど塞がり、身体の調子もだいぶ戻ってきたようで、


早く仕事に戻りたいと息巻いています。


彼女はミルコップ軍に属する軍人で、なんだかそこそこ偉いようです。


何回か診察をしたら仲良くなってしまい、


退院したら一緒にお買い物に行こうなんて話しているのです。


今日、シボの病室に軍人と思われる男性が来ていました。


ノストラ人で中々のいい男。彼氏でしょうか? どうやら上司のようですね。




ノーストリリアの町は徐々に発展しています。


道路は滑らかで凹凸のない石になりましたし、


有翼人や獣人が増えて、今まで見たことない商品や食べ物が溢れるようになりました。


お昼は『リリアンフード』で頂きます。


なんでも城が運営する実験的なお店だそうで、


ずっと前から行ってみたかったのです。


知り合いという事で店の奥からワグちゃんが出てきました。


ああ、ワグちゃんったら可愛い、食べちゃいたい。


12歳なのに立派な料理人です。


お店では魚介ピザ、フライドポテト、


ベーコンレタスバーガーと月見バーガーを食べました。


あと野菜スムージーも飲みました。


もちろん一人ではありませんよ? 


同期の医術師見習い2人と3人で頂きました。


ハンバーガーというのは新発売らしいです。


美味し過ぎて鼻が膨らみました。


監修したのはマイヤーだそうです。癪に障ります。


料理の腕だけは認めていますが。


どうせオスカー様が発明されたものでしょうけど。




町を歩いていると見知らぬ少女に挨拶されました。


肩に届くほどの黒い髪を揺らしながら、やや鋭い目つきの美人さん。


まだ幼さの残る顔は背の高さで補い、堂々とした佇まいで


「あら、モリア。奇遇ね。医術書、モルトに渡しておいたわ」


と言い去っていきました。はて誰でしょう?



午後は城の医術室と診察室でのお仕事です。


モルトは優秀な方です。ただ、私に興味がないのが解せません。


胸元も少し短くしたスカートも全く見ません。


女より酒の方が好きらしいです。あり得ません。


お顔はいいので若い頃相当遊んだのでしょうね。


なんだか少し悔しいです。


でも私も医術師の端くれ。


たとえまだ見習いだろうとて、仕事には情熱を持っています。


ですのでモルトに相手されないこの状況は、


仕事に集中できる最高の環境……だと思う事にしましょう。




夜は大浴場で一日の疲れを取ります。


このいつでも入れる大浴場を設計して作ったのはオスカー様だという事です。


凄い方です。感謝しかありません。


さて、ここは5人が上限の予約制です。


しかし、どうもメイド衆からは私とは入りたくないとの噂を聞きました。


分かります分かります。


私の完璧なボディを見て自分の身体の貧相さに傷つくのでしょう。


そうに決まってます。


ただ一人、ネネルだけが私を師匠と慕って入ってきます。


ネネルは軍団長なので駐屯基地に正式な部屋があるのですが、


この城にも部屋を持っている贅沢な奴です。


まぁネネルは姫ですし、


オスカー様の寵愛も受けていますのでしょうがない、許してあげましょう。


ただツンデレというか天邪鬼と言うか、


素直な性格ではないので、まだオスカー様の夜番を務める器量はないようです。


その点、私はもう8回もお相手しましたので、


特別扱いされているネネルにも精神的余裕をもって色々と教えてあげられるのです。


え? 男を挑発させるポーズ? 


オスカー様が好きなのは……え? 別にオスカー様じゃない? 


年齢的にも知っておいた方がいいと思っただけ? 


とてつもなく動揺してます。


翼が犬の尻尾みたいに動いてます。びたんびたん水面を叩いています。


ま、いいです。


こうお尻を上げて女豹の……え? もうちょっと初心者用がいい? めんどくさ。


なに顔面茹でだこみたいに真っ赤にしてるんでしょう。


じゃあこう、なよっと座って翼で大事な所を隠す……いい! 


これならオスカー様も……え? だから違うって? 


いつまでこの子の茶番に付き合ってあげなくちゃいけないんでしょう。


ほらもう次のロミ、フミの変態兄弟と半島一の変態料理人マイヤーが入ってきましたよ。


私の入浴中に堂々と入って来れるのはこの三人くらいです。


あれ、ネネル、何をそんなに慌てて……ロミ、フミと入るのは初めて? 


そうなのね。でも心は女だから股の間の代物はあってないようなもの。


気にしなくて結構なのですよ……って大変、ネネルがお湯に浮かんでいます。


目がぐるぐるしてます。ネネルには強烈だったのでしょう。


こらロミ、フミ! 


湯船で背泳ぎなんて、ほら下品な事になっちゃうからやめなさいって何度……


ちょっと、マイヤーあなたの部下なんだから何とかしなさいよ。


え? そんなことより夜番は何回入ったかですって?


驚くなかれ、8か……24回ですって?


む、むかつきます。何ですか、その目は!


見てるがいいわ。これから怒涛の勢いで……


ちょっとロミフミ、どこを触ってるんですか?


ああ、欲しいのですか、そうですかそうですか。


……作り物な訳ないでしょう!


何ですか、マイヤー! その目は!

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