第183話 ミュンヘル王国編 魔剣奪還作戦

「オムザ様! ついにルナーオを捕まえました!




現在第二城門を移送中。もう少しでここに連れてまいります」




「やっとか。……キョウは役立たずだったな。




アイツにはどんな罰を与えようか。くくく」




オムザは玉座にふんぞり返り、嬉しそうに笑う。




「これで王位継承者はオムザ様だけになりましたな」




側近がゴマをする。




「ふん、血筋などどうでもいい。




重要なのは魔剣を扱えるかどうかだ。




ルナーオも剣選の儀で7つの精霊を出したと聞く。




生かしておけば面倒なことになるだろう」




別の伝令兵が王座の間に駆け込んできた。




「報告です!【落とし子同盟】がわが軍の基地を襲撃!




正門詰め所、エスタロン通りの訓練場、それに第三城壁のフーシェン基地です!」




オムザは飲んでいたワインをグラスごと床に投げ捨てた。




「生意気な負け犬どもめ……すぐに鎮圧しろ!




指揮官は生かして連れてこい!




俺がゆっくりいたぶって殺してやる!」








数十分後、武装した兵士に連れられたルナーオが玉座の間に入ってきた。




安い甲冑はボロボロで服は破れ、太ももと胸元も露わ、




全身泥だらけ、血だらけで髪もボサボサと、




かつての美しく凛とした王女の面影は見る影もない。




「ルナーオ! 俺の可愛い姪よ! なんてひどい格好だ」




オムザの面前に連れてこられたルナーオは悔しそうに睨んでいる。




「しばらく見ない間に随分成長したな。




もう立派な女だ」




オムザはルナーオの胸元から首までを、




指の先でツゥっと撫でた。




「触らないで! この反逆者!」




「おお……狂暴な姫様だ、くくく」




子供のように楽しそうなオムザは、ルナーオを捉えた兵士に向き直った。




「捉えたのはお前か」




「は! 東部遊撃隊であります」




「……辺境の部隊か。褒美を出そう。下がれ」




その時、明らかに一般兵ではない女剣士が入ってきた。




「ふん、今頃帰還か……どこでサボっていたんだ?




お前の親友はここにいるぞ?」




黒剣を携えたキョウは拘束されたルナーオを見て悲しそうに目を細めた。




「……ルナーオ」




ルナーオもキョウを見て切ない表情を浮かべる。




「申し訳ございません。こちらも精一杯探していたのですが……」




キョウはオムザに前にひざまずき、頭を下げる。




「知ってるわ! 全て見ていたからな!




だが捕まえられなかったのはお前の能の無さよ」




突如キョウの背中から人型の黒霊種が生えた。




「う! うぐああ!」




黒霊種はキョウの両手を掴み、頭の上で拘束した。




そして水から上がる様にキョウの背中から足を出し地面に立った。




「な、なにを! オムザ様!」




キョウの顔は恐怖に引き攣っている。




黒霊種はキョウの前に移動し、勢いよく腹を殴った。




「あぐっ!!」




「何をじゃないだろ? 責任と罰ってやつだ」




その後も数発殴られ、それを見てオムザは愉快に笑う。




「……キョウ」




ルナーオが悔しそうに呟いた時、再び兵士が数名入ってきた。




「報告します!」




「なんだ! 騒がしいな!」




「【落とし子同盟】の数人が城に侵入しました!




現在城内を徹底的に調べていますが、今だ発見できず!




念のためこの部屋の扉も閉めさせて頂きます!」




玉座の間は一気に騒がしくなった。




玉座の周りにいた護衛兵も出入り口付近に固まる。




「……ちぃ……シラけたな」




キョウはようやく黒霊種から解放された。




どさりと床に落ちたキョウは腹を抑えせき込む。




その時、扉周辺の兵士たちが斬り合いを始めた。




「ぐああ!」




「な、なにを……!」




一般兵達がマントをつけた護衛兵を全員斬り殺す。




兜を脱いだ一般兵はバルバレス、ベイツ、ウェイン、バステロとその部下たちだ。




バルバレスは素早い動きで部屋の中央に走り、オムザに空気弾を連射した。




「ぐはぁっ!!」




魔剣を構える前にとてつもない勢いで吹っ飛ばされたオムザは柱に叩きつけられる。




「今のうちだ!」




すぐさまウェインがルナーオの縄を解いた。




「ありがとう、ウェイン。叔父は? 早く剣を奪わないと」




ルナーオはすぐに駆けだす。




「ここまでは上手くいったが……さあどうなるか……」




ベイツが呟いた時、うずくまっていたキョウが不気味に立ち上がった。




「お、おい! こいつは味方なのか?」




一番近くにいたベイツはウェインに叫ぶ。




「……に、逃げて……」




キョウは苦しそうに声を絞り出す。目が赤く光る。




キョウの身体の輪郭に黒い霧が重なっていた。




「なんだって? 今なんと……ぐお!」




急に名剣エンキを振りかざしたキョウは、




化物じみた速さと怪力で、たった二振りでベイツを斬り伏せた。




「ベイツ!!」




バルバレスとウェインが叫んだと同時に、




先ほど片付けたはずの護衛兵が立ち上がった。




こちらも全員目が赤い。




「な、なんだ……」




バステロたちがたじろく。




「死人兵……黒霊種で操っているんだわ!




キョウも同じ……叔父はまだ生きてます!」




ルナーオが叫ぶ。




死人兵がバステロたちと衝突し、




キョウはウェインに襲い掛かる。




「くっ! キョウ! やるなら手加減しないぞ!」




ウェインは白い〝名剣ザンティウム〟を握り直し、




キョウの剣を受け止めた。




かつての〝国守の剣〟同士の激しい剣舞が部屋の中央で始まる。




「バルバレスさん!」




ルナーオは慌てた様子でオムザを指差した。




「くくく……お前ら俺を舐めすぎじゃないか?




暇潰しに少し遊んでやるよ」




オムザは自身に黒霊種を纏っていた。




衝突した柱はヒビが入るほどだったのに、




本人は無傷でゆらりと立ち上がる。




「くそ!」




バルバレスはもう一度空気弾を見舞った。




しかし、黒霊種が前面に立ちはだかり、直撃したにもかかわらず、




オムザにダメージはない。




黒霊種の身体は砂が舞うように抉れたが、




すぐ元に戻る。




「無駄だ!」




オムザが魔剣オウルエールを構えると、




床から青白い精霊が数体浮き出てきた。




鳥のようなもの、サメのようなもの、四つ足の獣のようなもの。




形ははっきりしないが、それらはオムザの周りを泳ぐように一周した後、




バルバレスに向かって来た。




「うおおお!」




蒸気を出しながらバシュッ!バシュッ!バシュッ!と機械腕がフル稼働するが、




撃った空気弾は効かない。




「逃げて!!」




ルナーオの声が響いた時には時すでに遅し、




精霊たちはバルバレスの身体を通過していた。


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