第232話 パルセニア帝国編 神のハンティング

ギバはパルセニア軍2万を率いて、




帝都ルーハイブ城を出た。




北部のゼノン城が攻められていると報告を受け、




援軍に向かうのだ。




「我らはシャガルム帝国と同盟を組んでいるとはいえ、




南北ブリムス同盟のどちらにも属していない。




キトゥルセン連邦からしてみたら、




手を出せば敵を増やすことになるので、




攻撃されることはないと踏んでいたんだが……」




ナルガセは自身の読みが外れ、険しい表情だ。




「報告じゃミルコップの軍勢だって言うじゃねえか。




久しぶりにアイツの名を聞いた。




くくくっ……今のナナミアを見て、




どんな顔をするのか楽しみだ」




ギバは友軍が攻められていることよりも、




個人的な楽しみの方を優先してるようだった。




ルーハイブ城から半日、




北部への街道が山道になる地点に差し掛かった時だった。




馬上で話している二人に、




上空から一人の鳥人族兵が舞い降りた。




「ギバ様、ただいま戻りました」




「早かったな、ミストリア」




「この先の山中にて、




敵の斥候部隊と思われる集団を見つけました」




「数は?」




「100名ほど」




「そうかご苦労。仕事に戻れ」




ミストリアと呼ばれた女鳥人族兵は、




再び空へ舞い上がった。




「侵攻が早いな。どうするんだ?」




「どうするも何も100人で何ができる?




このまま圧し潰せばいい」




「魔戦力が来るかもしれんぞ」




「こっちにはレギュールがいる」




ギバの馬の隣を歩くレギュールは、




呼ばれて主人を見上げた。




その時、急にレギュールが、




弾かれたように後方に吹っ飛んだ。




「おい! なんだ! レギュール!!」




一帯は騒然となる。




倒れたレギュールの頭部から、




大量の血が地面に染み出していた。




ギバは急いで馬から飛び降り、




レギュールに駆け寄った。




「レギュール! おい! 目を覚ませ!」




ナルガセも馬を折り、ギバの後ろにやってきた。




こんなに焦るギバを見たのは初めてだった。




血を流す魔獣はそれきり起き上がることはなかった。




「各自警戒を怠るな!」




ナルガセは周囲の兵たちに指示を飛ばす。




「将軍! 敵襲です! 敵は普通の兵ではありません!」




言った傍から……!!




普通の兵ではないだと? いったいどういう意味だ?




思わず舌打ちしたナルガセは、




騒がしい隊列の前方を睨む。




「この野郎っ……!!! どこのどいつだぁぁ!!」




憤怒の表情のギバは立ち上がり、熱剣ヴィヴィリアンを抜いた。










少し前




ギバ率いるパルセニア軍から20キロ離れた山中。




崖の上に寝そべったユウリナは、




自身の身長よりも大きい電装狙撃ライフルを構えていた。




ユウリナの視界にはライフルの標準器画像が転送されているので、




スコープを覗く必要はない。




レギュールの幻術の能力は、




電子機器を狂わせる作用もある。




「前回は負けたけど、今回は私の勝ちヨ」




迂闊には近づけないので、




機械蜂での攻撃も効くか分からない。




なので超長距離からの一発狙撃に賭ける。




弾丸は2段式で、途中までは機械蜂が変形した追尾式弾丸、




先端は単純な鉄製となっている。




レギュールの能力圏内ギリギリまでは、




追尾式弾丸で弾道の微調整を行い、




その先は目標目掛けて鉄の弾丸を再度発射する仕組みだ。




「将軍、襲撃部隊は所定の位置に到着しました」




「将軍って呼ばないでヨ」




ユウリナは振り向かず部下に応える。




「し、しかし、ユウリナ様は七将帝ですし……」




失った片腕に二本の機械腕を装備している部下は、




困った顔を向ける。




「……ま、いいワ」




神で将軍で……私も元は人間だったのに……




なんて特異な人生を歩んでいるんだろう……




ユウリナが心の中でそう呟いた時、




視界に表示されているスコープの十字に、




ギバの隣を歩くレギュールが重なった。




「さようなラ」




ユウリナは引き金を引いた。












帝都ルーハイブ城




パルセニア軍1万、




シャガルム軍5000の計1万5千が、




本拠地であるこの城を守っていたが、




突如上空から飛来してきた炎の巨鳥に、




壊滅的な打撃を受けていた。




城下の民はすでに避難を開始していて、




城の上からは蜘蛛の子を散らしたように、




人々が田畑や農場を抜けて森の中に入るのが見えた。




敵勢、キトゥルセンは大規模な軍を連れて来ておらず、




少数の部隊を城の内部に潜入させただけのようだった。




「奇襲とは……アナタもやりますね、オスカー王子」




シャガルム軍の将軍、ダシュルは、




持っていたワイングラスを床に叩き落とした。




城の外で野営地を築いていたダシュルの軍5000は、




早々に魔獣カカラルに攻撃され、ほぼ壊滅した。




生き残りが少数、森の中に逃げれただけでも幸運だっただろう。




その後、城の塔などに設置してある大型弩や、




配置された大勢の弓兵などはすぐに燃やされ、




城内に布陣したパルセニア軍も、




物理攻撃の効かない圧倒的な存在に、




成す術がない。




既に指揮系統は乱れ、混乱の極みだった。










ルーハイブ城 裏門付近




千里眼で塀の内側を見てみると、




我先に逃げようと敵兵で溢れていた。




狭い裏門から雪崩を打って飛び出してくる敵兵達を、




上空の機械蜂がスキャンする。




マークがついた少数の将官を、




六番隊のヘルツォーク達数名が、




排除してゆく。




ヘルツォークは元ザサウスニア軍で、




赤毛の狼人族だ。




残りの隊員は城内に突入して暴れまわっている。




城の上空にはホノア率いる九番隊が待機する。




「他の城にまだ1万ほどの兵力があるはずです」




隣のソーンが燃える城を眺めながら言った。




今回の襲撃は将軍の経験があるソーンに指揮を任せていた。




「ギバのいる本隊に合流するはずだな」




俺はフラレウムを鞘に納めた。




もう俺が攻撃することはないだろう。




「ここは早々に切り上げて、




ミルコップたちと合流したほうがよさそうだ」




「王子、シャガルム軍の残党はいいのか?」




リンギオは遠くに見える甲冑の集団を指さした。




「……ああ、今回はそんなに重要じゃない。




見逃してやろう」














「ああくそ、こんな無様な敗走をするとは……」




ダシュルは僅かに生き残った300の部下たちと、




南へ馬を走らせていた。




「しかし将軍、逆に相手がフラレウムでよかったのでは?」




隣を走る側近は冷静に助言する。




「相手は敵の総大将でした。




パルセニア軍もあっという間に瓦解した。




フラレウムじゃ負けて当然とも言えますよ」




ダシュルはその言葉にはっとさせられた。




「……確かに、アナタの言うことにも一理ある。




皇帝様も私の不運に同情してくれるはず……」




「そうですとも。理由が理由です。




首は飛ばされない」




ダシュルは安堵の笑みを浮かべ、




帰ってからの己の立ち回りを考え始めた。


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