第233話 パルセニア帝国編 内なる声

帝都ルーハイブ城が燃えている。




ゴッサリア・エンタリオンは、




山中の高台から帝都を見下ろしていた。




千里眼で戦況を見る。




深紅の巨鳥が燃え盛る城の上空を飛んでいる。




あれがオスカーの操る魔獣カカラルか……。




赤く揺らめく炎で身体が構成されているようだ。




敵の矢は身体をすり抜け、燃えてしまう。




「ありゃ無敵だな……」




ぼそりと呟いたゴッサリアは、




この先自分がなすべきことを思案していた。




(オマエ、裏切ルツモリカ?)




突然、脳内に響いた低い声に、




ゴッサリアは思わず舌打ちした。




体内に寄生している黒霊種だ。




勝手に出てくるんじゃねえ……。




険しい顔でこめかみを押さえる。




後ろには私兵が待機していた。




地道に集めたその数、約200名。




隊長のメルス・ジャハナムが声をかける。




「……行かなくていいのですか?」




「……休んでろ」




ゴッサリアはうるさそうに言い放つ。














ギバの事は好きではなかった。




(ナゼ共ニ行動シテイタノカ?)




(ナゼ誘イニ乗ッタノカ?)




ナルガセに誘われたからだ。




ザサウスニアの時もそうだった。




好きでいたわけではない。




(オ前ハ何ガシタイ?)




俺は……何がしたい?




俺は……何を欲している?




俺は俺が嫌いだった。




どうしてこんな性格で、




どうしてこんな思考回路をしているのか。




昔から人の言う事が信じられなかった。




(誰モ彼モ馬鹿ニシテイタノダロ?)




そうかもしれない。




自分が一番正しいと思っていた。




思えば前世の時から同じ性格だった。




神戸での最後の記憶は16歳だった。




なぜ死んだのか思い出せない。




そもそも死んだのかも疑問だ。




断片的な記憶は数えられるくらいしかない。




俺は学校や社会のはみ出し者だった。




人を殴る記憶、殴られる記憶、




漠然とした怒りと孤独と悲しみの感覚、それしかない。




こっちの世界で25年生きたが、




恐ろしいほど俺の内面は変わらなかった。




(知ッテルサ。ズット見テイタカラナ)




違う奴になりたかった。




いつもイライラしていた。投げやりだった。




(コチラニハ都合ガイイ)




オスカーキトゥルセンがうらやましかった。




あいつはなんであんなに周りから慕われてるんだ。




(気付イテイルハズダ)




……ああそうだ。だがどうしようもない。




あいつになりたかった。あいつのものが欲しかった。




(ダカラ〝ネネルラピストリア〟ヲ欲シタ)




(タダアイツヲ困ラセタイダケナンダロ?)




そうなのか? ……そうなのかもしれない。




醜い嫉妬に食い潰される。




(ダカラオ前ノ中ハ居心地ガイイ)




黙れ黙れ黙れ!! もう出ていけ。




(私ノ〝力〟ヲ使ッタダロウ?)




(私ノ〝力〟ヲ欲シタダロウ?)




(ナノニ今更出テイケトハ都合ガイイナ)




(ダガ、ソレモオ前ラシイ)




(オ前ハ私ノ入レ物ダ)




(私ノセイニスルナ)




(元ヨリオ前ノ真ッ黒ナ心ハオ前ガ作ッタモノダ)




(オ前ト私ハ一心同体)




(溶ケ合イ絡ミ合イ、モウ引キ離セナイゾ)




頭の中に黒霊種の不気味な声が響く。




でかい鐘の中にいるみたいに、




グワングワンと声が反芻している。












丁度ルーハイブ城から離れる時だった。




突然突風が吹いたかと思うと、




目の前にゴッサリア・エンタリオンが現れた。




「ここで来るかっ!!」




俺はフラレウムに炎を宿した。




リンギオとソーンも剣を構える。




護衛の有翼人兵と獣人兵も慌てて戦闘の準備をする。




だがゴッサリアは魔剣を抜かなかった。




クガとの話もある。




おそらく戦闘にはならない、と俺は踏んだ。




「久しぶりだな」




「……ああ」




少しの沈黙。




相変わらず身体から黒い影が出たり入ったりしている。




いつ見ても黒霊種は気味が悪い。




「お前はどうするんだ?」




「……何がだ?」




急に何の話だ。




「クガの言った事を信じるのか?」




ゴッサリアはどこか決意のある目つきだった。




「……まあな。




準備しておいて損はないだろ」




また少しの沈黙。




「……確かにな。




それに聖ジオン教の思うつぼってのは胸糞悪い」




ゴッサリアが何か投げた。




俺の足元に落ちる。




それは銀色のカードだった。




「シャガルム帝国の第4層に入れる許可証だ」




「第4層?」




「貴族などの支配者層が住むエリアだ。




今後お前らがシャガルムを攻めるかどうかは知らん。




だが持っていても無駄にはならないはずだ」




ゴッサリアは一方的にそう言うと、




一瞬で姿を消した。




「……なんだよアイツは」




リンギオは剣を収めた。




「敵ではなくなったようですな」




ソーンも安堵のため息をつきながら剣を収めた。




「……不器用な奴だ」




敵ではなくなった……そうかもしれないが、




仲間でもない。




警戒は怠らないようにしなきゃな……。




俺たちは燃え盛るルーハイブ城を後にした。


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