第234話 パルセニア帝国編 奪還

「おらぁっ!! そんなもんかっ!」




ギバは熱剣ヴィヴィリアンで暴れまわる。




腕を剣に改造した機械化兵を切り伏せ、




白毛竜の上に乗りかかり、心臓に熱剣を突き刺す。




燃え死んだ白毛竜から飛び降りると、




上空から向かって来た有翼人兵を返り討ちにする。




「調子に乗るなよ、キトゥルセン!!」




朱色の旗をたなびかせるキトゥルセン軍と、




白と青の甲冑を来たパルセニア軍が各地で衝突、




血飛沫と命を散らしてゆく。














陥落した帝都ルーハイブ城、




その北部に広がるジスロー平原にて、




最終決戦が繰り広げられていた。




キトゥルセン軍は国内に分散していたパルセニア軍を奇襲し、




そのほとんどを撃破していた。




ここに残っているのは、




ギバの元に集結した生き残りのパルセニア軍だ。




その数、およそ1万と少し。




こちらはミルコップ軍、マルヴァジア軍の5000名、




そしてユウリナ軍約200名。




オスカーの護衛部隊と合わせても、




6000名にも満たない。




数の上ではキトゥルセンが不利だが、




獣人や有翼人、




魔戦力とユウリナの機械軍のおかげで善戦していた。










戦場の西側、




パルセニア軍のナルガセ、ラドーが率いる部隊は、




ユウリナの機械化兵に圧倒されていた。




次々と自慢の兵が倒されてゆく。




「いたぞ、将軍だ! 仕留めろ!」




数名の機械化兵たちがこちらを向いて叫んだ。




猛スピードで突っ込んできた機械足の蹴りを、




ナルガセは大剣で何とか防いだ。




身体を回転させ、




遠心力の乗った剣先で斬りつけ機械化兵を倒す。




「ゴッサリアはなぜ来ない!?」




近くにいるラドーも、雷撃の槍で応戦する。




紫の電気を帯びる刃先が次々と機械化兵に刺さり、




その身体をショートさせてゆく。




「さあな」




「まさか裏切ったのか?」




「……魔人や魔獣に頼るといつもこうだ」




各国とも魔人や魔剣使いを囲ってはいるが、




上手くコントロールしているとはいいがたい。




やはり自分自身が何らかの力を得ないと、




この世界で長く生きるのは難しいか……。




「ラドー! 退くぞ!」




「なに? 退いてどうする?




……あてはあるのか?」




「……以前シャガルムの貴族から誘われていた。




既に連絡は入れてある」




「はっ、相変わらず用意周到だな」




ラドーは笑みを浮かべながら、




襲い来る獣人兵を槍で貫く。




その後、ナルガセとラドーは速やかに軍を撤退させた。
















戦場の東側




ギバ直属の部隊の新兵、ダオとトイルの兄弟は、




二人がかりで辛くも一人の兵を倒したところだった。




倒れた仲間に剣を突き刺しているところを、




後ろから槍で突いたのだ。




二人共初めての実戦で、人を殺したのも初めてだった。




「トイル、俺から離れるなよ!」




悲鳴と怒号が飛び交う狂気の中、




兄は怯える弟を庇う様に立つ。




戦況は一方的だった。




腕から炎や電撃を出す敵兵が、




一人で十人以上を難なく倒すのだ。




勝てるわけがない。




おまけに頭上を燃える巨大な鳥が飛んでいた。




あれに仲間が何百人と燃やされているのだ。




友軍は戦意を失っていた。




「おい、もう駄目だ!逃げるぞ!」




二人は声をかけられ、




数人の仲間と共に戦場のはずれの林に入った。




しかし、そこにも敵の騎竜兵がいた。




死体だらけの中、




騎上から振り下ろされる剣に仲間が斬られ、




白い毛の竜に噛み殺される。




無理だ、もう逃げれない。




ダオとトイルは大木に追い詰められ、




尻もちをついて泣き出した。




目が血走った荒い呼吸の敵兵が剣を振り上げる。




死ぬ、と思ったその時、




振り下ろされた剣は別の剣に止められた。




「止めろ。もう戦意を失っている。




それに……まだ子供だ」




ダオが見上げると赤毛の狼人族と目が合った。




狼人族もキトゥルセン兵だ。




興奮していた兵士は狼人兵と二人を交互に見て、




幾分落ち着きを取り戻し、やがて剣を降ろした。




「ヘルツォーク隊長、ここはもういいそうです。




次はギバの幹部たちを狙い撃つようにと」




後ろから同じ赤毛の狼人族の兵士が声をかける。




「ああ、俺にも今来たよ。




……お前たちは捕虜だ。ついてこい」




狼人兵達に手首を縛られ、歩かされる。




「心配するな。殺しはしない」




ぶっきらぼうな言い方だったが、




隊長と呼ばれた狼人兵のその言葉に、




ダオとトイルはつかの間の安堵を覚えた。












部下を連れ上空を飛んでいた




9番隊隊長ホノア・ベツレムは、




指示通り、戦場の南にて、




離れてゆく荷馬車の列を見つけた。




「あれよ! 1班は前、2班は後ろ!




構え! ……放て!」




上空から放たれた火矢は、




十台ほどが連なる荷馬車の列の、




一番前と一番後ろを燃やした。




止まった荷馬車の列から兵士が出てくる。




元からいた護衛兵と合わせて、




その数は300人程になった。 




「目標は前から4番目の馬車! 行くよ!」




ホノア達は抜刀し、地上の敵に向かって急降下した。




一人大柄で派手な鎧をつけた兵がいる。




長髪の眼帯で両手に斧を装備している。




ホノアの視界に『ギバ軍幹部、アセス』と表示された。




ホノアは真っ直ぐアセスに向かう。




落下スピードを乗せた剣をアセスに振り下ろし、




構えた斧を弾き落とした。




「ぐっ! なんて力だ……」




すかさず翼の先端を顔に打ち込む。




「ぶっ!」




目を傷めたアセスは、




残った斧をでたらめに振り回し牽制する。




ホノアは冷静に隙をついて剣を胸に突き立てた。




馬車の中を覗くと女が6人、怯えた表情で座っていた。




手前から2番目の紫のドレスを着た女のところで、




ホノアの視界に『ナナミア・ギーク』と表示された。




「我々はキトゥルセン軍です。




ナナミアさん、あなたを救出しに来ました」














戦場の中心部。




両軍の指揮官が衝突した。




「久しぶりだな。会いたかったぞ、ギバ」




ぶつかった剣同士がギリリと狂暴な音を立てる。




「てめえ……ミルコップ! 




よくもめちゃくちゃにしてくれたもんだ。




覚悟は出来てるんだろうな!」




熱剣がミルコップの剣を溶かした。




「自分の裏切りから始まったことだろう。




被害者面するな。




自分のしたことはやがて帰ってくるものだ」




剣を捨て、機械足を変形させ戦闘形態にする。




蒸気が出て、スネの部分が刃に、




足の先端から針が飛び出ている。




「しばらく見ねえ間に随分説教くさい奴になったな」




パルセニア軍はほとんど死んだか投降したか逃げたかで、




周りはキトゥルセン軍だらけだった。




「……手加減はしない」




ミルコップの目は静かな怒りを孕んでいた。




「そりゃこっちのセリフだ!!」




熱剣をフルパワーにして襲い掛かるギバを、




半回転して交わし、その反動でハイキック、




あっという間に腕を切断した。




「ぐううう!」




「今までの行いを悔いながら死んでゆけ」




機械化したミルコップとギバの差は歴然だった。




「くく……くくくっ……ムキになりやがって……




女を取られてそんなに悔しかったのか?




憐れな奴め。ナナミアは身も心も俺のものだ。




……ガキも産んだ。俺の子だ。




今じゃ喜んで股を広げるぜ。




もうお前の知るナナミアはどこにもいない。




くくく……いつか言ったよな? 




お前は誰も救えないって」




額から脂汗を垂らしながらも、




ギバは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。




「何を言おうが、これからお前はこの世界に存在しない。




だが俺とナナミアは幸せに生きてゆく」




ミルコップは憐れみを帯びた目線を向けた。




「そんな悔しそうな顔をするな。




お前の子供は俺が立派に育ててやる。




お前と正反対に、




お前が悔しがるほど立派に」




ミルコップはハイキックを一閃、




ギバのこめかみに針を突き立てた。




「終わりだ、裏切り者」
















ホノアが背中にナナミアを乗せ、




ミルコップの傍に着地した。




足元には大勢の兵士たちの死体が転がり、




血の海が広がる。




その中にはギバもいた。




既に戦闘は終わっている。




顔や身体についた返り血を、




布で拭いていたミルコップは、




ナナミアの姿が視界に入り、




布を落とした。




「ナナミアっ!!」




ミルコップはすぐさま駆け寄り、




ナナミアを抱きしめた。




「すまない。時間がかかってしまった」




「……私はもうナナミア・ギークではありません。




お許し下さい。私は……穢れてしまいました」




震える声でナナミアは言う。




正気を失うぎりぎりの精神状態のようだった。




悔しそうに涙を流す。




「……魂をギバに売ったのです。




もう、何も信じられない……




私の事も信じられないでしょう?




どうぞ海にでも、砂漠にでも……捨てて下さい」




喉を詰まらせながら身体を震わせる。




「ナナミア……辛かったな。




もう大丈夫だ。帰ろう。




俺に全て任せておけ」




「いけません。




今更、国に戻るなど……




部族の誇りが、ノストラの誇りが、




穢れてしまいます」




ミルコップは歯を食いしばる。




こんなにも苦しんだのは自分のせいだ。




……俺が必ず幸せにしてみせよう。




「ノストラの誇りはお前の中から決して消えはしない。




いつまでもあり続ける」




ミルコップは自身の胸に拳を当てた。




「ここと」




そしてナナミアの心臓の上に拳を置く。




「ここに」




目を見開いたナナミアは一時を置いて、




声を上げ泣いた。




ミルコップはナナミアの耳元で




「お前の事が好きなんだ。必ず幸せにする」




そう呟く。




頭上を深紅の巨鳥が通り過ぎた。


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