第228話 ギルギットvs【護国十二隊】八番隊のニトロ

セキロニア戦線




「もう一度だ! バッセ、落ち着け!」




灼熱の太陽が照り付ける砂漠にて、




魔剣ランドスケープを持つ羊人族のバッセは、




弟のレギの声に冷静さを取り戻した。




もう一度、魔剣を強く握る。




すると砂丘をゆっくり登ってくる大柄な男を、




強力な爆発が包み込んだ。




衝撃波と爆音に、




使い手であるバッセも思わず一歩後ずさる。




「今のは直撃だ!」




レギは笑みを浮かべたが、




煙の中から無傷の男が出てくると絶望の表情に変わった。




「化物か……」




「ほーう、好きなところに爆発を起こせるってわけか。




中々いいじゃねえか」




黒装束が砂交じりの強風にはためく。




足を止めない【千夜の騎士団】ギルギットの後方には、




1000を超える北セキロニア兵の骸が転がっていた。




「バッセ、後退だ。俺に剣を貸せ」




「気をつけろよ、レギ」




レギは魔剣を構え、ギルギットの前に立ちふさがる。




「おっ、黒羊の次は白羊か。




つーか二人で一本の魔剣使ってんのか!




珍しいな」




ギルギットは世間話するかのような口調だ。




「余裕こいてんのも今のうちだぁぁぁ!!」




ギルギットの身体に連続した爆発が起こる。




並の人間なら身体がちぎれ飛ぶ威力だが、




ギルギットには効かなかった。




息の荒いレギに「もういいか?」




と肩をすくめる。




すると兄のバッセがレギの横に来て、




二人で魔剣を掴み、剣先をギルギットに向ける。




「最後の大技か?




よし、ここに立ってやるからやってみろ。




外すなよ?」




手を広げたギルギットの顔には期待が込められていた。




「……ナメやがって。いくぞバッセ!」




「ああ、ここで止めるぞ、レギ」




二人はありったけの魔素を魔剣に送った。




魔剣ランドスケープの刀身が光る。




次の瞬間、ギルギットが派手に爆発した。




バッセとレギは膝から崩れ落ち、




砂漠に倒れた。




黒い爆炎の中心は巨大なクレーターが出来ており、




爆発の威力を物語る。




煙の中から無傷で出てきたギルギットは、




「はあ……ここまで丈夫だと逆につまらねえな……」




と肩を落とし、魔剣ランドスケープを回収して、




砂漠の陽炎の中に姿を消した。










セキロニアの真上、竜人の国キャメルサ。




砂漠の侵食を塞ぐように聳え立つ山脈を越えると、




深い渓谷が地を裂くようにいくつも走っている。




そこには渓谷の崖を掘って作られた町が、




どこまでも続いていた。




断崖絶壁に張り付くように発展しているこの国は、




戦争中でなければ周辺からの観光客も多い。




通りを兵士が走っている。




十人以上の大所帯だ。




騒々しい足音は飯屋に座っている大柄な男の前で止まった。




通りに面したカウンターの席だ。




周りの客は慌てて移動した。




「んあ? なんだ、もう見つかっちまったか」




黒装束の大男は食べかけていた飯をぺろりと口の中に入れる。




「……【千夜の騎士団】だな?




貴様には捕縛命令が出ている。




我らと共に来てもらおう」




黒い甲冑の竜人兵たちは先端の白く光る槍を構えた。




「珍しいモン持ってるじゃねえか。




古代文明の遺物か……」




ギルギットは面白そうな目をして立ち上がった。




そしておもむろに向けられた槍を掴むと、




先端を指で触る。




「なっ!!」




掴まれた兵士は全力で引くが槍はびくとも動かない。




「離せ……このっ……!」




「焼き斬る仕様だな。




……だが残念ながら俺には効かんようだ」




ギルギットは心底がっかりした様子だった。




途端に興味を失ったギルギットは、




その場の兵士を一瞬で葬り去ると、




王宮へ向かって歩き出した。






その日、キャメルサ王国は崩壊した。




元々前線に多くの兵を出していた事もあり、




国内駐屯軍は手薄だったというのもある。




しかし、獣人と並ぶほどの戦闘力を誇る1000の竜人兵が、




魔人とは言え、たった一人の男に滅ぼされたことに、




国王は未だ信じられずにいた。




目の前にその張本人がいたとしても。




「さっきの……あー、将軍?




狂戦士化みてーのはちょっと期待したんだけどよ……




まあ飽きたんで。もう行くわ。悪いな」




王宮の王の間には血まみれの将軍が倒れていた。




これは現実の事なのか、と半ば放心しているザクトール王は、




ギルギットに首を掴まれても抵抗しなかった。




ポキッと小枝を折るように国王の首を折ったギルギットは、




あくびをしながらキャメルサ王国を後にした。










キトゥルセン連邦内 ベラニス領 ナハリス




【護国十二隊】八番隊隊長、熊人族のニトロは、




住民の避難したナハリスの町でギルギットを待っていた。




「武器は効かん。唯一効いたのはベミーの拳だけらしい。




ということは、




件の魔人を止められるのは俺たちだけということになる」




ニトロは50名の部下たちに語る。




八番隊はベミー軍からではなく、




ケモズ領の新生〝十牙〟や、




レニブ城の衛兵からの志願兵達だ。




ニトロの右目が青く光る。




『おい、ベミー。〝鬼化剤〟の許可を出せ』




『ニトロ、あんた……ギルギットとやるのか』




『そうだ。……なぁベミー、俺が死んだら、




息子と結婚しろ』




『な、何でそうなるんだよ!』




『はっはっは! 冗談だ!




ほれ、許可だせや』




『今出したよ。……一気に決めろよ。




じゃないとやられる』




『こっちの心配はご無用だ。




そっちもだいぶ賑やかだな。




……いいかベミー。お前は死ぬな。




お前はケモズの、獣人族の未来だ』




「ニトロさん、来ました」




町の通りの向こう側から、人影が歩いてくる。




視界に『【千夜の騎士団】ギルギット・ランデル』




と表示される。




『ウテル様。いいですか?』




『……ああ。頼んだぞ』




『ユウリナ様』




『いいワ。私も出来るダけ早く着くようにすルから』




鬼化剤の使用には三名の許可がいる。




上空から腹に青いラインの入った機械蜂が降りてきた。




「覚悟はいいな? 俺たち〝牙〟は敵に噛みつき、




肉を裂く武器だ。例え折れようが欠けようが、




代わりの牙はまだあるし、また生えてくる。




噛みつけ、離すな、食いちぎれ。




己の牙を深く突き刺せ!」




「ウオオオオッ!!!」




部下たちが雄叫びを上げた。




足音にニトロは振り向く。




「お前ら俺を待ってたようだな。




熊人族か……少しは楽しませてくれよ……」




獣人たちはギルギットを睨みつける。




「ん? その旗……キトゥルセン軍か?




つーことはここはもうキトゥルセン内か!」




ギルギットは一人嬉しそうだ。




どうやら北に向かって適当に進んできたらしい。




「悠長に話している暇はない。




貴様を片付ける」




ニトロは一気に狂戦士化、




恐ろしい熊の化物と化したところに、




鬼化剤を打ち、いよいよ魔物をも超えるおぞましい姿になった。




牙は三倍の量になり、




長い尾は八本に分かれている。




ギルギットはその姿を見て嬉しそうに笑った。




ニトロが消える。




同時にギルギットは真横に吹っ飛び、家屋に突っ込んでいた。




ニトロは追撃の手を緩めない。




ギルギットの全身に何百という拳を打ち付け、




建物の建材や破材を撒き散らし、




地面が抉れてクレーターを作った。




爪と牙を突き立て、叩き落とし、




また拳を振るう。




しばらく猛攻が続いたが、




急にニトロが血を吐いて膝をついた。




鬼化剤も狂戦士化も切れたのだ。




身体がしぼんで元の姿に戻ってゆく。




「はぁはぁ……くっ! もう少しで……」




ギルギットはゆっくりと起き上がった。




自分の身体を見下ろし、




ニトロに顔を向け、そして涙を流した。




「俺の身体に傷をつけられる奴がいたなんて……




ここに傷、ここにも、これが俺の血……




久しぶりの〝痛み〟……」




ギルギットは喜びに打ち震えている。




「くそっ! 隊長でもダメか。




だが作戦通りに動くぞ。




この機を逃すな!」




待機していた部下たちが一斉に地面を蹴った。




ニトロが心臓を抑えて倒れる。




「お前ら! 最高だぜ!!」




ギルギットは喜々として拳を振るった。












両手を血で染めたギルギットは、




50の死体の中心に立っていた。




大地は真っ赤に染まっている。




ふいに上空から金属の棒が8本、落下してきた。




ドドドドッ!っとそれらはギルギットを囲うように突き刺さる。




「なんだぁ……?」




途端、紫の電流がギルギットを襲った。




「うおおおっっ!!!!」




同時に空から灰色に赤のラインが入った法衣をはためかせ、




黒髪ショートの少女が降ってきた。




「捕まえたワ、ギルギット」




少女は倒れたニトロや部下たちを見回し、




「ごめんナさい。一足遅かったワ。




アなた達は英雄でス」と呟いた。




「お、お前が……ユウリナ……機械人……か」




バチバチと電気が爆ぜ、




動けなくなったギルギットは何とか声を絞り出す。




ユウリナは電流が爆ぜる中に入り、




おもむろにボディーブローを食らわせた。




「ぐおおっ……!!」




「久々の激痛はどう? 




これは魔素抑制装置。




あなタの魔素は今、ゼロよ。




つまり、普通の人間」




ユウリナはそう言うとニコっと笑う。




ギルギットは額に脂汗を流し、気を失った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る