第74話 ケモズ共和国攻略編 護衛兵団長の戦い2

なぜ、その角を曲がったのか。


もし未来を見る能力があったのなら、その選択は絶対にしなかった。


団長のダカユキーたちは通路を真っ直ぐ駆けた。


素直についていけばよかったのだ。ラグウは後悔した。


こっちの方が安全だ、あの時咄嗟にそう思ってしまった。


後ろにいたポポルもついてきて、二人で近くの部屋に逃げた。


朽ち果てた棚がたくさんある。どうやら倉庫のようだ。


二人の兵士は顔を見合わせた。互いに顔面蒼白。


何も言葉は交わさなかった。


ひたひたと足音が聞こえてくる。


まさか……こっちに来るのか?


気が付けば恐怖で膝が震えていた。


小枝のように細い人間……。あれは魔物だろうか。


あまりにも恐ろしい姿にもはや兵士であることを忘れ、


二人は静かに棚の影に身を縮め、隠れた。


ギシ……ギシ……


アイツが部屋に入ってきた。


ポポルは恐怖に耐えきれず一人走りだした。


「おい! 戻れ!」


「うああああ……ぐぷう、ぎゃあああああああ!!!!」


悲鳴の後の静寂が耳にこだまする。


物音一つ聞こえない。アイツはどこかに行っただろうか。


その時声が聞こえた。


「おい、どこだ。おい、どこだ」


ダカユキー団長の声だ。きっと探しに来てくれたのだ。


ラグウは一気に恐怖心が薄れ、その勢いのまま通路に飛び出した。


「団長!!」


しかし、目の前には誰もいなかった。


「おい、どこだ。おい、どこだ」


耳元で団長の声がした。


振り向くとそこにはアイツがいた。


真っ黒で細長い身体を曲げ、こちらを覗いていた。


「おい、どこだ。おい、どこだ」


団長の声を真似ていた。


黒い手が伸びる。





走るダカユキーの視界に敵の情報が現れた。


『魔物〝ラセン〟

全長2m~5m

非常に細い人型の魔物。何度かの腐樹サイクルを経て生まれる希少種。

わずかながら知性がある。』


便利だなぁ、なんて考えてる暇はない。


ダカユキーは子供を二人抱えて全力で駆けた。


「きゃああああ! 来てる! アレが来てるぅぅ!!!」


助けた羊人族の子供が耳元で声を上げ、ダカユキーは顔をしかめた。


「怖いよな、大丈夫だ。おじさんたちがついてるぞ」


振り返ると四つ足で這って追いかけてくる。


「いやいやいや、怖すぎでしょ!」


「うわーーん!」


子供が泣き出した。


「団長、待って」


部下の声がした。


「……あいつらか?」


「いえ、アレが声を真似て喋ってるんです。よく聞くと声質が違います」


隣を走る部下が応える。


「……なんて魔物だ。おい、この子たちを頼む」


「はい。……団長、何を?」


「あの速さじゃ本隊に着く前に追いつかれる。


とてもじゃないがこの子たちを庇いながら戦えないだろ。


お前は本隊を率いて戻ってきてくれ」


こんなことなら全員で来ればよかった。


ちょっとした判断や選択の違いでこうも戦局が変わるのか。


王城警護が主体の護衛兵団は〝守り〟の専門だ。


「やはり〝攻め〟は難しいな」


ふっと小さな笑みを漏らしつつダカユキーは立ち止まり、短剣を投げた。


すぐに真横の部屋に入る。


瓦礫の中に透明の壁があった。寄りかかったら突然枠が光り、自分が映った。


自分が違う服を着てその場で歩いたり、飛んだりしている。


周りには古代語が現れては消える。


何だこれは? という疑問を頭から押し出し、自分は物影に隠れた。


〝ラセン〟が部屋に入ってくる。


入口正面の透明の壁の前で立ち止まった。


「団長、待って。団長、待って。団長、待って」


囁くように繰り返す。


やめろ。もう囁くな。


ダカユキーは背後から〝ラセン〟の胴を一刀両断した。

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