第210話 総力戦

「オスカー様!?」




ラムレスの悲痛な声が響いた。




「やられた……」




「そ、そんな……」




アーシュは振り向き、




さっきまでいたはずの主を中空に探している。




オスカーが一瞬で消え、皆が動揺していた。




「ああ、オスカー様……バルバレス殿! 




何とか助けに行けないのか!?」




ラムレスは絶望の表情でバルバレスを見る。




苦虫を百匹噛んだような顔のバルバレスは、




頭の中で対策を練っているのか、




一点を見つめ、ラムレスの言葉は耳に入ってないようだ。




「くっ、私がいながら……申し訳ありません、




一瞬過ぎて動けませんでした……」




ルナーオは悔しそうに唇をかみしめた。




大臣たちも青い顔をしている。




そんな中、声を上げたのはリンギオだった。




「おい、全員聞け。




問題はもう一つある。




この城に腐王がいるんだ。




俺たちは俺たちの出来ることをするしかない。




……王子もそれを望んでいるだろう。




戦えるものは剣を取れ。




腐王を片付けるぞ」




ラムレスはじめ大臣たちは複雑な表情だ。




「しかし……」




互いに顔を見合わせその場から動かない。




だが戦士たちはリンギオに同調し、次々と部屋を出る。




ルナーオも行こうとするがリンギオが引き留めた。




「私も行きます」




「あんたはここにいてくれ」




「なぜ? 私の魔剣なら……」




「敵もそう考えてるかもしれない。




罠の可能性もある。




あいつがまた来るかも……




その時対処できるのはあんたしかいない。




ここにいて皆を守ってくれ」




ルナーオは少し考えた後「分かりました」と納得した。








階段を下りている最中、ユウリナから連絡がきた。




『……リンギオ、これでいいのね?』




リンギオは駆けながら、腰の魔剣キュリオスに手を置く。




『わからん。とにかくやるしかない』




魔剣キュリオスを持っていることは、




ユウリナしか知らない極秘事項だ。




魔剣の柄には魔素を抑制する機械が埋め込まれているので、




他の魔剣使いや魔人には察知されない。




『あなたが頼りよ』




『……これ以上の犠牲が出ても恨むなよ』
















中庭につくと腐王が触手を使い、




神官をバラバラにしたところだった。




「神官でも抑えられないか」




「……いやバルバレス、よく見ろ」




腐王の周りには切れた触手や折れた角が落ちていた。




そこそこダメージは与えていたようだ。




バルバレスは機械の腕を稼働させ、




空気弾を連射した。




「アーシュ、機械蜂を放つぞ!」




「は、はい!」




リンギオとアーシュは配給されていた機械蜂を、




一匹ずつ向かわせた。




機械蜂は腐王の表皮で爆発した。




赤黒い皮膚が見えたかと思ったが、




剥がれ落ちた黒い鱗がたちまち生えてきて傷を塞ぐ。




周りを固めている兵達が火矢を次々と放つが、




滅多なことでは身体に刺さらない。




リンギオは塀の上に設置してある、




鉄の巨大弩に向かった。




「これなら……どうだ!!」




ガシュン!!と発射された鉄矢は、




目にも止まらぬ速さで、腐王の首に刺さった。




兵たちがつかの間沸いたが、




腐王は触手でずるりと矢を抜いてしまった。




唸るような音が周囲を包む。




それが腐王の声だと気が付いた時、




リンギオは息を呑んだ。




「我ハヒトツ……オ前タチモヒトツ……




イズレ飲ミ込ム……時ハ近シ……




イズレヒトツ……全テ忘レル……」




腐王の斬ったはずの何十もの触手が再生し、




周囲の兵達を攻撃し出した。




バルバレスの空気弾でいくつかははじけ飛んだが、




まるで追いつかない。




兵士が紙きれのように千切れ飛んでいく中、




アーシュの横にメイドのモカル・ジルチアゼムもいた。




その後ろにソーンもいる。




元兵士で料理番のロミとフミも。




戦える者は総動員だ。




その時急に腐王が爆発した。




ソーンの機械蜂だ。




爆炎が上がり、腐王の姿がつかの間消える。




「やったか……?」




「油断はするな」




リンギオはバルバレスたちが態勢を整えるのを上から見ていた。




煙が晴れかかった時、




ふいに一本の触手がモカル目掛けて襲ってきた。




「避けてっ!!」




咄嗟に横にいたアーシュがモカルを押し倒す。




二人は弾き飛ばされ、




後方に転がった。




同時に、煙の隙間から一瞬だけ腐王の顔が見えた隙を、




リンギオは見落とさなかった。




リンギオが放った矢は腐王の右目に刺さった。




「ッオオオオオォォ……!!」




腐王は一際大きな声で鳴き、後ずさる。




『お待タせ』




脳内にユウリナの声が響いたかと思うと、




頭上から巨大な炎が降り注いだ。




カカラルの背に乗るユウリナは少女の姿だった。




「間に合ったか……」




リンギオは安堵した。




腐王はカカラルの炎に包まれる。




「……イズレオ前タチモ我ラ二ナル……」




腐王は燃えながらまだ生きていた。




「勝手に吠エてなさイ」




ユウリナはカカラルの背中から飛び降り、




着地と同時に腐王を真っ二つにぶった切った。










動かなくなった腐王の周りに人が集まり出した時、




リンギオら脳内チップを入れている者の視界に、




『注意 状態:感染  アーシュ・シリアム』




との表示が出た。




リンギオはその場に立ち尽くしたまま、




ギリリと拳を握りしめた。


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