第72話 ケモズ共和国攻略編 オスカー&リンギオvs管理者

円形の鉄の土台。何かの装置の残骸だろう。


半径3mで高さが60cmほどある。


「リンギオ、下がってろ」


突き刺したフラレウムを全開に。俺の周りに熱波が渦巻く。


足元の鉄が赤く熱されていく。


俺たちがいるのはテラスのようにせり出した二階部分だ。


そこから扉を見下ろす。


早くしないと保守機械がやってきてしまう。


一段下がり、さらに力を込める。


以前の〝強火〟と同じくらいの消費量を一気に放った。


鉄の赤い部分が広がっていく。


やがて鉄は溶けてドロドロした液体になり、一階に滴り落ち始めた。


扉が開き8体の保守機械が入ってきた。


彼らの目の前には溶けた鉄のプールが出来上がっている。 


「アラ、何デスカコレ。分カリヤスイ罠デスネ」


肩のパーツが赤い奴が管理者らしい。


遮蔽物の影に身を隠し、保守機械が近づくのを待つ。


リンギオは既に所定の位置についていた。


ここまで準備は完璧だ。


「生体反応ガ一ツ。隠レテモ無駄デスヨ。出テキナサイ」


よし、リンギオの姿は見えてないようだ。


俺は遮蔽物から身体を出した。


「ココニハ貴方ダケノヨウデスネ。


急イデイルノデ大人シク捕マッテ……ウグッ!!!」


俺は火球を4発、高温の鉄のプールに放った。


ドロドロの鉄の飛沫が一斉に保守機械たちに降り注ぐ。


ジュアアアアア!!! と一帯が蒸気で覆われた。


「偉そうに上からモノ言ってるからそうなるんだよ」


作戦の第一段階は成功だ。


保守機械の数は半分になっていた。ここで間を開けたら危険だ。


「何デスカ、ソノ剣ハ? 外ノ世界ニハ便利ナ……」


「やれ、リンギオ」


合図と同時に保守機械の足元に強烈な光が走った。


扉の右隅にリンギオを配置し、保守機械が横並びになるのを待っていたのだ。


4体のうち、3体の足がレーザーで消し飛び、その場に崩れ落ちた。


よし、完璧なタイミング! やるなぁリンギオ。


その中には管理者もいた。


すぐに全ての機械の頭部を、リンギオが破壊した。


残る一体は少し後ろに下がり警戒している。


探知できない何かに仲間を壊されたら当然の反応だろう。


一瞬、そいつは全身の力を抜き、すぐに元の態勢に戻った。


なんだ、今のは?


「フウ、中々ヤリマスネ。モウ私一人ニナッテシマイマシタ」


残った保守機械に管理者が入り込んだようだ。


なるほど、そういう仕組みね。


「お前はここで何をしているんだ?」


「私? 準備ヨ、私ノ楽園ヲ作ルノヨ。貴方コソ何ヲシニ来タノデスカ?」


「何をって……お前を行動不能にしようとしてるんだよ」


何だコイツは? 調子が狂うなぁ。


「私ヲ? 不思議ナ力ヲ使ウヨウダケド、


貴方一人ジャ86%ノ確率デ無理デスヨ。


私ハ耐火性能高イデスカラ」


「現状が理解できないのか? もうお前ひとりだぞ」


「私ハココノ全体ヲ司ル者。数ハ関係ナイノデス。


モシコノ身体ガヤラレテモ、代ワリハ沢山アリマスカラ」


その時ユウリナから通信が入った。


『オスカー、タッタ今ハッキングニ成功。


管理プログラムノ移動ヲ禁止シタワ。


本体ヲ壊セバ、管理者モ消失スルハズ』


『お、マジか。んじゃこれで厄介者は消えるってことだな』


リンギオが管理者の背後から剣を振った。首を一閃。


俺はそれを見届けてから下に降りた。


身体はもう動かないようだ。脅威は感じられないので俺は魔剣を鞘に収めた。


管理者の首の前に立つ。


「楽園って言ってたな……。お前は一体何がしたいんだ?」


「私ハ永遠ヲ生キル……ソノタメノ環境ヲ作ッテイルノヨ」


「お前の名前は?」


「名前? 私ハ管理者……」


「そうじゃなくて、なんか……名称とか無いのか?」


「私ハ、私ハ、名前、名称、私ハ……私ハ………………誰?」


「名もなき管理用のAIか。健気に本来の役割を続けてたら可愛いものを……。


環境に適応するって、なんだかもう生物だな」


「何の話だ、王子。分かるように言ってくれ」


リンギオは剣の刃こぼれを気にしながら怪訝そうな顔を向けた。


「機械も5000年経つと自我みたいなもんが芽生えるって話だよ」


俺は管理者の首を溶けた鉄のプールへ蹴り飛ばした。


「先を急ごう」


俺たちはその区画を後にした。

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