第94話 イース公国攻略編 準々決勝、第三、第四試合

準々決勝、第三試合

アーシュvsユウリナ



さて、問題の試合だ。


ユウリナは一体どういうつもりなのか。


何をしたいのかさっぱりわからん。


大体アップデートしたボディの動作確認とかなら、


城内で軍人相手にいくらでも出来るだろうに。


わざわざ名前まで変えて、


大衆の面前で手加減試合する意味はあるのか?


やはり超機械人様は、


人間なんかの常識なんて遠く及ばないところにいらっしゃるのだろうか。



アーシュは先ほど入ったスイッチがまだ切れてないらしく、


禍々しい殺気を全身から放っていた。


その豹変ぶりにメイド衆や姫様たちは若干引いていた。



試合が始まるとアーシュはアクセル全開でユウリナを圧倒した。


まるで何かに乗り移られたかのような、


瞳孔だだっぴらきで凶器の表情のアーシュ……こ、こわい。


ユウリナもユウリナで、そんなアーシュの猛攻を同じ速さで受け、


完璧に防いでいた。


まるで二体の千手観音が戦っているゲームを見ているようだった。


動画サイトにアップしたら一千万再生は軽く超えるんじゃない? そんなレベル。


アーシュはレイズ・フュージアネットの正体がユウリナだと知っている。


ユウリナの戦う姿は見たことがないと思うが、噂は聞いているだろう。


人間と比べたら異次元の存在……それを知っていても全力で攻めるアーシュ。


その勇気に惚れる。


息もつかせぬ展開に観客が静まり返った時、


ついにアーシュの強力な掌底がユウリナのみぞおちに決まった。


吹っ飛んだユウリナだったがすぐに体勢を立て直し、また打ち合う。


徐々にユウリナも攻撃の手が増えてきた。


アーシュも腕や足にダメージを食らっているが、


そこまで効いている感じではない。


ユウリナが本気で攻撃したら肉が抉れるほどだから、


手加減はしているのだろう。


第2ラウンドまでお互い一歩も引かない壮絶な打ち合いが続いた。


終了直前、


アーシュの空中二回半回し蹴りを食らったユウリナは後ろに飛ばされ、


そのまま起き上がらなかった。



「準々決勝、第三試合、勝者アーシュ・シリアム!!」


観客の拍手の中、


立ち上がったユウリナは何もなかったかのようにリングを降りた。


アーシュは膝に手を置きながら荒い呼吸をしていた。


あれだけ動き続けたらそうなるだろう。



『おい、ユウリナ』


俺は脳内チップ経由でユウリナに話しかけた。


『お前は何がしたかったんだ?』


『ん? 何って、実戦に近い状態での疑似感覚器官のテストよ。


おかげでいいデータが取れたわ。アーシュに感謝ね』


『……へーそう……疑似……へー……よかったな』


『オスカーわかってないでしょ』






準々決勝、第四試合

ギバvsマーハント


リングに二人が上がった。


二人とも似たような体型だったが、ギバの方が一回り大きい。


マーハントはそんな相手に少しも怯んでない様で、


すこぶる凶悪な顔で睨みつけている。


試合が始まると両者遠慮なしの殴り合いを見せた。


型なんかない、喧嘩試合だ。


ギバの方も前試合の時のような余裕の表情は見せなかった。


戦う前からマーハントの実力に気が付いたのだろう。


二人とも一応ガードはしているが、


それよりも攻撃の方に集中していて、結構いい打撃が入っている。


しかしまあ、感心するほど丈夫だ。両者まったく倒れる気配もない。


第2ラウンド終了間際まで殴り合って、


ようやくマーハントの強烈な右ストレートが顔面に入り、ダウンを奪った。



第3ラウンドに入って早々、


ギバが膝蹴りを顔面に入れて、マーハントが倒れる。


カウント7でファイティングポーズをして試合が再開。


これで試合はイーブンに戻った。


二人ともスタミナが切れてきたようで、動きが鈍くなってきた。


それでも剛腕の威力は凄まじいままだ。


普通の人間があんなの食らったら、


頭がアン〇ンマンみたいに取れてしまうに違いない。


第3ラウンド終了間際、二人とももうノーガードで打ち合っていた。


ギバが頬を差し出し、ここに当てろとマーハントを挑発する。


一発殴ってからマーハントも顔を差し出し、お前もやれよと挑発し返した。


両者とも笑っている。


お互い一発ずつ交互に殴り合う展開に、観客のボルテージも最高潮だ。


結局決着がつかず、試合はルガクトの判定に委ねられた。



「準々決勝、第四試合、勝者…………ギバ・グレイヤー!!」

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