第83話 特殊部隊創設

ダルクのあった【腐樹の森】に一番近い町、イズナ村。


王都から見たら9時の方向にある村だ。


ここにキトゥルセン軍の武器工廠はある。


北部で採れた鉄が運ばれ、武器職人の手で剣や盾や鎧へと変わる。


軍が急拡大しているので、こちらも工場を増設したのだが、


武器職人だけじゃ手が回らず、村人総出で大忙しだ。


しかし、そのおかげでイズナ村は豊かになった。




実はノストラ王国を併合した時くらいに、


ある新兵器の開発を依頼していたのだが、


それがようやく完成したのだった。


実戦配備に向けた訓練をするため、


俺は【王の左手】と護衛兵団30名を引き連れてイズナ村に向かった。




工場に着くと新兵器開発室長のピカチートに案内され豪華な客室に案内された。


俺たちが訪問すると聞いてわざわざ作ったらしい。


こんなに派手に装飾しなくていいんだけどな。


「お待ちしておりました、オスカー様。


ご所望のものは出来ております」


ピカチートは中肉中背ながらもキトゥルセン軍の元軍団長で、


足を片方無くしたため、引退後は軍の裏方に回った男だ。


「ザサウスニアが不穏な動きを見せてるようですな」


ピカチートの足はザサウスニアによって奪われたものらしい。


「ああ。ウチにはまだ明確な動きを見せていない。様子見ってとこだな」


「こちらはいつでも用意できております。


ザサウスニアと戦うのであれば昼夜を問わず働きますぞ」


目が笑ってない。頼もしいけどさ。


ピカチートの部下が完成した新兵器を持ってきた。


新兵器、それは〝連弩〟だ。


連弩とは簡単に言えば連射できるボウガンだ。


本体の上部に10本の矢が入った弾倉を設置し、


レバーを引けば次の矢が装填されるというもの。


この世界に連弩は無いようだった。


戦争はやはり歩兵の強さによって決まる。


乱戦になれば時と場合によるが、


基本的に戦いで優位に立てるのは剣より弓だ。


どんなに名をはせた剣豪でも一般弓兵3人に射られただけで簡単に負ける。


遠距離攻撃こそ至高。


え? 卑怯? ……試合ならね。


本気の殺し合いに卑怯もクソも無い。


兵士一人一人に家族がいるんだ。損害は出来るだけ減らしたいじゃんか。



早速、ダカユキーら護衛兵団に持たせ、訓練場に移動した。


まずは射撃訓練。俺も参加した。


撃つとビンっと弦の運動が腕を伝わってくる。中々な反動だ。


命中精度もいい。


標的の丸太にしっかりと刺さっているのを見て、


鎧も貫く威力だと確信した。


次の矢を装填するレバーを引く。むむ、結構硬いぞ。


隣を見ると護衛兵は難なく引いている。


なんだ、俺の腕力がないだけか。じゃあいっか。


十連射し終わるとさすがに腕が痛くなった。


そう言えば俺の肉体15歳だった。他の皆は丸太みたいな腕してるから、


そんなに疲れてなさそうだ。


「どうだ、ダカユキー」


「……これは素晴らしい武器ですね。一人で十本の矢を立て続けに発射できる。


これは慣れたら多分1秒に1本の速さで撃つことが出来るでしょうね」


「実戦でも使えそうか?」


「もちろんです。4人一組……いえ2人一組でも、相当数の敵と戦えます」


ダカユキーは興奮していた。


そうだろそうだろ、喜んでもらえて俺も嬉しいよ。


「更に弾倉を変えるのも十秒かからない。


一人づづ交代で撃てば途切れることなく攻撃し続けられる」


「なるほど、それが二人でなく四人、八人、十六人と増えたら……」


「ああ、二列に並んで交互に撃ち続ければ、騎兵の大群も止められるだろう。


けどダカユキー、お前に習得してもらいたのは、建物の中での使い方だ」


「建物の中……ですか?」


「そうだ。狭い通路や部屋の中で仲間と呼吸を合わせながら、


静かに素早く敵を排除する。その訓練を積んでくれ」


「……了解しました」


敵の城に潜入工作、もしくは制圧を目的とした特殊部隊の設立。


俺がずっと考えていたプランだ。


前世のシールズやSWAT、日本ならSATのような部隊。


そのフレームをこの世界に作り上げる。


それには銃の代わりになる連弩がどうしても必要だった。



連弩は常に胸の前に構え、安全のため矢の先は地面に向ける。


構えた時は矢の向きと目線は同期させ、腰を落として静かに進む。


部屋に突入する時は壁に背を付け、半回転して矢を構える。


必ず二人一組でバディを組み、矢の残数を数えながら撃ち、


弾倉を交換する時は二人のタイミングが被らないようにする。


そんなようなことを教え、実際に数日間みっちりと初期訓練をした。


おかげで動きはまんま前世の特殊部隊。


みんなス〇ーク。


これから腕のいい弓兵を各軍から引き抜いて、


100人規模の連弩特殊部隊を創設するつもりだ。


ダカユキーは部隊長、弓の名手のリンギオを臨時教官として、


数か月以内での完成を目指す。

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