第82話 アーキャリーの歓迎会

教育大臣はマリンカにお願いした。


これ以上ないほど適任だと思う。


学校は十神教学院と名付けた。


現在マリンカには教育計画を練ってもらっている。


経典はユウリナが担当した。


俺は教育の中で特に道徳と社会マナー、それと語学に力を入れるよう命令した。


前世の日本もそうだが、


この世界でも勉強とはほぼ記憶力と言ってしまっても過言ではないので、


それだけで評価せず、総合的な人間力でも評価する枠組みを作りたいと思った。


簡単に言えばいい人間かどうか、だ。


それをどう数値化するか、マニュアル作りは困難を極めた。


実現すれば「成績優秀だけどクズで悪人」が生まれる可能性は限りなく低くなるだろう。


反社会勢力、モラハラなどが減って、治安も仕事能率もよくなることを期待する。



そしてウルエストは順調に復興していた。


有翼人はキトゥルセン全土の上空を頻繁に飛び回っている。


空を飛べるというのは凄い事だ。それは我々の生活を一変させた。


主に発達したのが郵便業。まだ個人経営が多いが、


やがては一つの商会にまとめ、


これからヤ〇ト運輸みたいなサービスを一般化させたいなと思ってる。


時間指定とか再配達とかできたら喜ばれると思うんだよな。


警備の方では、南部の土地を中心に、ネネル軍の小隊が担当している。


ザサウスニア帝国との国境、そしてその間にある根人の国、


ラグウンド王国の上空を巡回してもらっている。


ラグウンド王国は未知の国だ。根人は地中に住む種族なので交流はない。


唯一の繋がりは毎月キトゥルセンから輸送される大量の食糧だ。


現金ではないから最近まで気が付かなかったのだが、


ラムレスに聞いてみるとある種の賠償金と同等のものという事らしい。


「以前、我が国とザサウスニア帝国との間で小さな紛争が起きました。


その時の主戦場が丁度ラグウンド王国の真上の森だったのです。


領土を荒らしたと言われ、毎月500人分の食料を今日まで提供し続けています。


噂ではザサウスニア帝国からも500人分の食料を受け取っているみたいです。


もとより人間とは生活様式が違いすぎるので貨幣経済の常識が通じないのかと」


「ラムレスは行ったことあるのか?」


「いいえ。ただ、若い頃国境近くの森で一体の根人を見たことがあります。


それはそれは気味の悪い姿で……こんなこと言ってはいけないですね。


とにかく我々とは違う生き物です、はい」


日が沈みかけたテラスに俺たちは座っていた。


連日の会議で皆お疲れだったので本日の午後は休みにした。


夕食はテラスでささやかなパーティーをやるのだ。


アーキャリーの歓迎会だ。


ちなみに人口増加計画について話をしたら、ある程度の理解は示してくれた。


まだ来たばかり、しかも知らない人だらけなので緊張していたから、


ずっと借りてきた猫状態でまともな思考が出来なかったのかもしれないな。


あ、猫じゃないか、羊か。


俺たちの横ではメイドのリーザとヒナカがテーブルセッティングをしている。


ろうそくを沢山置いてオシャンティ空間を作っていた。


いいねいいねセンスあるね。グランピングみたいでいいね。


奥のソファではマイマとアーシュ、


それにアーキャリーとクロエと大狼がもふもふしている。


幸せ空間だ。


やがてマイヤー、ロミ、フミが次々料理を運んできた。


ピザ、ポテト、串焼き、サンドウィッチ、ローストされた肉、


ラザニア、ハンバーグ、魚の香草焼き、唐揚げ……等々。


なぜかダカユキー達護衛兵もこき使われてた。


「ロミ殿、カトラリー類はここでいいのか?」


「いいわよん、分かってるじゃない、隊、長、殿♡」


ロミは身体をダカユキーにこすりつけた。ダカユキーは見たことも無い顔をした。


あれ、なんか腕にブツブツが出来てるんだけど何だろうね、ラムレス君。


「ちょっとロミとばっかり喋ってないで……やだーその巻き角かーわーいーい―!!」


ああ、かわいそうに、見つかってしまったかアーキャリー。


俺にもお手上げだから自力で切り抜けてくれ。


段々人が集まってきた。


バルバレス、ギル、キャディッシュにモルトとモリア、


それにたまたま王都に来ていたミルコップ。


そう言えばリンギオがいないと思って城を千里眼で見てみた。


いた、塔の上のカカラルの部屋だ。


寝ているカカラルに寄りかかって本を読んでいた。来る気は無さそうだ。


人が多い所は苦手と言っていたからほっとこう。


ん、メミカが夕食を届けたぞ? あーららその顔、リンギオを狙ってるのか? 


メミカは節操がないな、ほんと。


でも助かる。正直夜番が増えてきて身が持たなくなってきたんだ。


「あ、ネネルだ」


バサッと純白の翼を広げたネネルがテラスの淵に着地した。


なんちゅー美しさ。天使かよ。あ、天使か。


すぐにモリアが抱きついた。手には赤ワインのグラス。早くない? 飲むの。


「ごめんオスカー、訓練が長引いて」


「ああ、遅いなと思ってた。ベミーはどうだった?」


「うん、とってもいい子。面白くて純粋で、すぐ仲良くなれたわ」


「そう、よかった。どこか座りなよ。


ネネルを待ってたんだ。やっぱりネネルがいないと……」


「えっ?」


小声で囁いた俺の言葉にネネルは顔を赤くした。


久しぶりにからかってみたけど何も変わってなくて安心した。



食事が始まってからアーキャリーの傍に移動した。


「どお? やっていけそう?」


「あ、はい。皆さんとてもいい人たちばかりで……」


まだ緊張している。俺が来たからか?


先ほどからチラチラと観察していたのだが、


どうもアーキャリーはおっちょこちょいなようだ。


でもそこが憎めない。むしろかわいい。


話す時は手を大きく振りながら表情も豊か。


まるで顔で喋ってるような感じだ。


にじみ出る母性に周りも癒される、そんな娘だった。


前世の日本だったらストーカーとか付きそうだな、なんて思った。


「あの……父からの提案、受けて頂いてありがとうございました。


私、獣人族の代表としてこの国との懸け橋になれるように頑張ります」


「うん、頼むよ。でもそんな気張り過ぎないで。もっと気楽にいこう」


アーキャリーは天真爛漫な笑みで「はい!」と答えた。



あ、そうだ。


この後アイスクリームが出るんだけど皆どんな反応するのか楽しみだ。


特にラムレス。ふふふふふ。


クロエに頼んで冷凍室を作って貰って、


マイヤーに作り方を教えて大量にストックしておいたのだ。


マイヤーは「うっま!!」って叫んで白目剥いてたな。


……ああ、今俺最高に幸せだな。

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