第161話 ザヤネの処遇

会議は戦後処理の話に移った。




「現在、ザサウスニア国民は混乱しております。




戦地から遠い辺境の村々に人が集まり過ぎている。




一刻も早く一般国民の生活を立て直さなければ」




ラムレスの発言にアイザウルも頷く。




「残存兵もいる。むやみに人員を派遣するのは危険だ。




軍の準備が整ってからでないと」




バルバレスは釘を刺した。




「それについては、現在機械蜂が調査、集計をしている。




結果が分かってから動こう。




それと各地の領主や名家に送った文書はどうなった?」




「はっ、八割ほどは帰ってきました。残りは本日中に届くかと」




バルバレス軍の副官、ベイツが答えた。担当は彼らしい。




ガラドレスを発つ前に、各地の力ある統治者たちに忠誠を誓わせる文書を送っていた。




回収は有翼人兵に任せてある。




「支援は、今のところ軍のテントや食料を配るくらいしか出来ないな。




物資はもう建設中のコマザ城に集まってるんだっけ?」




「はい。言われたとおりに準備してあります」






後は宗教について。




戦後の復興と宗教の布教は相性がいいんじゃないか、




という理由で本格的に十神教を広めていくことにした。




「元々大陸北部は薄く広く十神教の教えがありました。




下地はあるので案外早く浸透するかもしれませんな」




ソーンが言うと説得力がある。




ユウリナ監修の神書はすでに量産出来ている。




開発したタイプライターのおかげだ。




これから急ピッチでザサウスニア各地に寺院を建設、




信仰を生活の中に組み込ませる政策をとる。




「詳しくはギルに聞いてみないとわかりませんが、




おそらく予算が足りないかと……」




ラムレスは厳しい表情だ。




「すぐに産業を回復させる。




ザサウスニア全土の地下資源地図を制作してあるから、




順次、鉱物類の掘削を始めてくれ。




それと温室を作りまくって農業と畜産業の拡大、




ザサウスニア王家の建物や軍の敷地は接収、集合住宅を作りまくれ。




そんで安く提供しろ。




あとは……寺院には職業紹介所を併設してくれ。




食料や物資の配給も寺院でやろう。




恵みを受けられる場所という印象を植え付けるんだ。




信仰心が強くなる可能性が高くなる」




ラムレスは慌ててメモを取る。






「あとは捕虜の処遇です」




声を上げたのはバルバレスだ。




「ああ。正規兵は約3000人いるんだよな。




じゃあ捕虜は全て建設現場に回してくれ。




数カ月無償労働をしてもらおう。




その間布教して、素行の良い者から解放っと。




奴隷兵は特赦だな。というか奴隷制度は無くすから、




一般国民として経済活動をしてもらおう」




「かしこまりました。軍の重要人物はどうなさいますか?




使えると思うのですが……」




「そうだな。報告書を読ませてもらったけど、




アラギンは知名度もあって兵から信頼もあるみたいだから、




残存兵の将軍をやらせてみよう。




当分監視はつけろ。裏切るようなら処刑してくれ。




で、ヘルツォークって奴は獣人だな。




ああユウリナから推薦があった奴だな」




「ヘルツォークはアラギンと同じく信用があります。




彼に従う兵は大勢いるかと」




アイザウルがそう言うのならそれなりの扱いをしよう。




牙亀族の族長エイファはそもそも帝国に忠誠はないようだ。




昔からの土地を保護区に指定して一般人の立ち入りを禁止、




種族や文化を守ってやる。




それと引き換えに軍はキトゥルセン軍に協力する、という事にまとまった。






ノーストリリア城に潜入してきた暗殺オネエ、




カトゥース、マカン、オーカはどうするのかラムレスが聞いてきた。




「処刑は待ってくれ。実力はあるんだろ? 




こちら側に懐柔して軍に入れられないか?」




バルバレスは渋ったが、マーハントに任せるという流れになった。




難しいなら処刑しますとバルバレスは言った。








南西部の紛争地帯については、既にクロエとベミー軍がほとんどを鎮圧済みだった。




引き続きベラニス、ウカ、モルテン地域の治安維持に駐屯してもらう形だ。






『オスカー、ザヤネはどうする気?』




ユウリナから通信が入った。




『今の様子は?』




視界の片隅に映像が送られてきた。




ガラドレス城の地下牢の中だ。




ザヤネはユウリナが作った拘束具で魔素を抑えられている。




両手足を柱に括りつけられているが、




以前のように電撃が出てるわけでもない。改良版だ。




「ねー悪かったってー、もうちょっかい出さないからー。




私たちの負けでいいからさー」




なんちゅー緊張感のない奴だ。




『おい、ザヤネ』




『え? なに? うわ! オスカー王子?』




牢の前にいるユウリナがホログラムで俺を出したらしい。




『そうだ。そこから出たいか?』




『出してくれんの?』




『お前たちの組織について知っていることを話すんだ。




そしたら解放してやることを検討することを考えつくかもしれんし考えないかもしれん』




ザヤネはガクリと頭を落とした。




『何それ、解放する気ないじゃん』




当たり前だし。一人で何カ国も落とせる奴を簡単に野に放すかよ。




『そこの機械人は拷問が趣味だ。




お前の想像もつかない酷いことをするだろうな。




でも決して殺さない。ゆっくり痛めつける。生涯に渡ってな。




話しておいた方がいいと思うぞ』




ユウリナは腕を瞬時に十本以上の細かいアームに分けた。




丸ノコや注射器、ペンチみたいなものもある。




丸ノコがシュイイイと回った。




『ひいい……』




俺は通信をユウリナ限定にした。




『ユウリナ、決して殺すな。




出来れば傷つけないで情報を聞き出してくれないか?』




『分かってルわ。【千夜の騎士団】との取引カードにシとくのね?』




『その通りだ』




一番聞きたいのはネネルの足に埋め込んだ黒い結晶の事だ。




自分の能力を他者に埋め込む……その方法が分かれば、




友軍の魔人や魔剣使いがより強くなるだろう。

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