第144話 ザサウスニアの魔剣使い

「オスカー様!」




すぐにルガクトが倒れた俺に駆け寄る。




刺された傷からはドクドクと勢いよく血が流れていた。




剣を抜いたルガクトは乗り移られたアーキャリーに刃を向ける。




「……いざという時は……お許し下さい」




斬るつもりだ、王女を。




そう思ったが反応する余裕はなかった。




千里眼で自分の身体を透視する。




傷は肺に達していた。




道理で呼吸がしにくいわけだ。




ていうか、あれ……俺死ぬのかな?




……でもまあ二度目の人生だし、




……もう充分いい思いしたからいいか……




意識が徐々に遠のいてゆく。




ルガクトの声で【王の左手】の3人、




スノウ達、バルバレス達が次々とテントに入ってきた。




皆口々に何か言っているが、頭に入ってこない。




「お前が〝斧手のルガクト〟か……




ハイガーでも殺せぬとは中々やるな。




どうだ? 私の部下にならぬか?」




血まみれの短剣を持ったアーキャリーは、




乾いた笑みを浮かべながらルガクトを勧誘した。




「……お前、何者だ?」




「……私はリアム。




お前たち、今まで潰してきた国の中でも断トツでやりにくかったぞ。




だがもう終わりだ。ザサウスニアの魔剣使いがもうすぐここに来る。




せいぜい潰し合って……」




虚ろな目と意識の中、最後の時を迎えようとしていた俺の前に、




どこから現れたか一匹の機械蜂が舞い降りた。




「……なんだ、これは」




アーキャリーは呟いた。いやリアムか。




『だいぶまずい状態ね、オスカー。




傷ヲ見せて』




頭の中にユウリナの声が響いた。




機械蜂は俺の体に止まり、形を変えて傷を覆った。




血が止まり、痛みが引く。加えて頭も冴えてきた。




「……なるほど。キトゥルセンには機械人がいたな。




こんなことも出来るのか……これは脅威だ」




アーキャリーはもう笑っていなかった。




一歩踏み出すとルガクトが剣を突き出しアーキャリーを制す。




「なんだ? 斬るのか? 王女を?」




「……やめろ、ルガクト……」




まだ器官に血が残っているのか、うまく声が出なかった。




『肺と傷口は治療できたケど、体内に血が溜まってるから




動かないデ。後で手術するわ』




「出来ないだろう? 〝斧手のルガクト〟」




「黙れ! 動くと首を飛ばす」




「ふっ……やってみろ。私の意識は元に戻り、




この娘が死ぬだけだ」




リアムはアーキャリーの身体を使って大げさに手を広げた。




「く、どうしようもないのか……」




リンギオが唸る。




「自分たちの王が死ぬところを黙って見ていろ!」




リアムはアーキャリーに短刀を振り上げさせ、




俺を刺そうとした。




その時、別の機械蜂が電撃を見舞い、




アーキャリーの体は痙攣して地面に倒れた。




すかさずバルバレスとスノウが拘束する。




「失礼致します! 




ネネル軍団長、及びクロエ様より伝令です。




西の方角に強い魔人の反応を感知、




至急迎撃の準備を、とのことです!」




勢いよく入ってきた伝令兵の言葉に皆が顔を見合わせる。




少し余裕が戻った俺はすぐに千里眼で確認した。




確かに西の空に巨大な竜巻が見える。




その足元には一人の魔剣使いの姿があった。












とてつもない突風の中、涼しい顔で歩く男がいた。




男の名はゴッサリア・エンタリオン。




赤い外套に身を包み、腰に魔剣フォノンを差した壮年の男だ。




頬から耳にかけてひどいやけどの跡がある。




その目は達観した熟練の戦士そのものだ。




「あれがキトゥルセン軍の野営地か……うっ」




ゴッサリアは自らの腕を掴み、痛そうに顔をしかめた。




「フラレウムが相手だ、もってくれよ……」




袖の下の腕は大部分が黒い痣で変色している。




その痣は絶えず蠢いていた。

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