第60話 ケモズ共和国攻略編 〝ワーマー〟

ダンジョン内部に入ったのは【王の左手】、ユウリナ、護衛兵団の計37名。


ユウリナの機械蜂50匹がダンジョン内に散らばり、


視界に地図と映像が送られてきた。


いつものことながら、何も驚かない。


どうやって身体の中で製造してるとか、考えない。


なんだよ機械蜂って、とか禁句。


もう、ユウリナはそういうもの、として扱うしかない。


俺とダカユキーは脳内チップを埋め込んでいるのだが、


そこから伸びた有機コードの影響で左目だけが青く光っている。


「不気味だな、これ」


「ええ、オスカー様のお顔、怖いです」


「やだ、オスカー、人間じゃないみたい」


クロエは完全に引いている。


「お前たちも入れてくれると助かるんだけど。凄い便利よ、これ」


【王の左手】の3人は一斉に嫌そうな顔をした。


千里眼の透視能力と機械蜂から送られてきた情報によると、


ダンジョンは54の階層に分かれている。


最上部が1層、最深部が54層。入り口は7層目だった。


各層に魔物や腐樹やグールが彷徨っていて、


攫われた獣人たちがいるのは22層だ。7人程が生かされている。


誰が誰かまでは分からないが、皆豪華な召し物を着ているので、


王族かそれに近い人々だろう。親玉っぽい魔物がその部屋の前にいる。


蜘蛛の上に女の上半身……意思の疎通が出来るのならば、


あれも腐王という事になるのだろうか?


他にも18層に4人が閉じ込められていた。


他の層には彼女の子供だと思しき子蜘蛛がたくさん徘徊している。




魔物発生から5日目の昼過ぎ。俺たちはダンジョン内に入った。


内部は薄暗いのだが、所々赤や緑に光っている場所があり、


なんとなくぼんやりと通路や壁などを認識することが出来た。


古代遺跡といったら、


石と砂に覆われた現代より文明水準の低い遺物という認識だったけど、


この世界ではむしろ現代より高度な文明が残した得体のしれない危険な場所、らしい。


なので通路や壁は滑らかで人工的、文字の書かれたプレートや垂れ下がったケーブル、


スライド式の扉などがあり、俺のイメージしてた古代遺跡ダンジョンとはかけ離れていた。


荒廃した未来ビルという方がしっくりくる。


ユウリナ曰く、これは昔の飛行船らしい。うん、そう言われるとそう見えてくる。


ていうか飛行船って? こんなでかいのが浮いてたの? 


もう宇宙船だよね? 古代文明すげー!


赤と緑に点滅してるのは機械装置の一部だ。


光っているという事は電気かそれに類するエネルギー源がまだ生きているという事か……。


まぁユウリナを作り出す文明水準なら特に驚かない。


皆が持っている松明の灯りもあって視界は問題無いが、


遠くまでは見えないので、俺は常に千里眼を使っていた。


〈ナイトビジョン〉と〈ズーム〉を駆使して、


ドアや壁の向こう側、上下の階層にまで視線を伸ばす。


上の階層にチグイが4体、ウデナガが1体、隊列と並行して徘徊している。


何度か角を曲がり、目指していた階段まで来た。


「じゃあ、気をつけろよ」


「はっ!」


ダカユキー率いる護衛兵団には18層にいる4人の救出を任せた。


この階段から降りるルートが最短かつ一番魔物が少ない。


階段は複数あり、一層ずつ繋がっているものもあれば、


一気に何層も飛ばしているものもあった。


「無理するなよー」


階段の下から「お任せくださーい」と返ってきた。


大丈夫かな。クロエかユウリナつけた方が良かったかな。


いやいや、護衛兵団は精鋭だし、ダカユキーはチップ埋めてるからマップ情報あるし、


32人もいるし、機械蜂もついてるし……。ここは彼らに任せよう。


魔物の数匹くらい対処出来るだろう。うん、信じよう。


その後、違う階段を降り、迷路のようなダンジョン内をくねくねと進み続けた。


途中、魔物3体と遭遇したが、フラレウムの火炎放射で難なく焼き尽くした。


「しかし、なんでこんなところに魔物が発生したんだろうね」


キャディッシュは呑気にそう言ってからくしゃみして


「ああ、かび臭い、早く出たい」と呟いた。


「最も可能性の高い説は、どこかの【腐樹の森】から地下の洞窟を通って、


このダンジョンに住み着いたってとこかな」


「さすがオスカー様。きっとそうに決まってる!」


「見え透いた太鼓持ちは気持悪いよ、キャディッシュ」


「はい、じゃあ止めます!」


うざい。キャディッシュは暇らしい。


「うるさい、黙ってろ」


リンギオはキャディッシュにいつも冷たい。


「いいじゃないか、君は少し真面目過ぎるんだよ、リンギオ。


適度にリラックスしていた方が、


いざという時に素早く対応……ぎゃあああ!! なんか踏んだぁ!!」


「もう、うるさいよ」


クロエもため息交じりに参戦した。


かわいそうなキャディッシュ。


「なぁユウリナ。割とマジで魔物って生物は何なんだ? 


この世界の生態系とは明らかに別物だろ? 一体どのくらい前からこの星にいるんだ?」


「魔物ト呼バレ始メタノハ2000年ホド前カラネ。


古代文明ノ時代カライタケレド、正確ナ発生時期ハ不明ダワ。


古代文明ノ時ハ〝ワーマー〟ト呼バレテイタワ」


「〝ワーマー〟……語源は?」


「不明。生物群ハ確カニ別種ダケド、半分ハコノ星由来ヨ」


「もう半分は?」


「コノ星以外」


つまり別の星の生命体か。寄生し融合したのか、


それともその宇宙生物の因子で元からいた何らかの生物が突然変異を起こしたか……。


なんとなくそんな気がしていたから驚かなかった。


「こんなに高度な文明でも、完全に駆逐出来なかった訳だろ? 


今の世界も国同士が争ってる暇ないんじゃないの?」


「正論ネ、オスカー。スデニ隣ノ〝ゼニア大陸〟ハ殆ドガ腐樹ニ覆ワレテシマッタワ」


「……ッ!! 初耳だぞ、ユウリナ。そんな大事なことをなぜ今まで言わなかった? 


ていうか大陸があったのか。世界地図には載ってないぞ?」


「聞カレナカッタモノ。地図ニ載ッテナイノハ、


コノ時代ノ帆船デハ無事ニ行ッテ帰ッテコレタ人ガ少ナスギルカラ。


描キタクテモ描ケナイノヨ」


「だから誰もその大陸の存在を知らないってことか」


キャディッシュは腕を組んで真面目な口ぶりだ。


「有翼人なら知っていそうだったけど……」


俺がそう言うと


「外海は流石に飛べないですよ! 無理無理」


とキャディッシュは首を振った。


「イツ大陸全土ガ【腐樹ノ森】ニ飲マレルカ、誰ニモ予想ガツカナイ。


阻止シタケレバ、全テノ国ト交渉シテ協力体制ヲ築イテ、大規模ナ駆除作戦ヲスル、モシクハ……」 


「もしくは?」


「この〝ウルティア大陸〟全土を征服して、同じく駆除をするか、だろ? ユウリナ神よ」


割って入ってきたのはリンギオだ。


「……ソウネ」


「交渉で全国をまとめることなんて出来る訳がない。


それが出来たら何百年も前にこの大陸は一つの国家になっている。


つまり大陸制覇が最短の道ということだ、王子」


「君がまとめるなよ、リンギオ。あと様を付けろ」


「ユウリナ、お前はどこまで知って……」


俺がユウリナと向き合ったその時、天井がビキビキと音を立てた。


千里眼を使おうとした瞬間、巨大な何かが天井ごと落ちてきて、


その勢いのまま床を貫いて下層に消えていった。


「下がれ!」


千里眼で見てみると落ちてきたのは大型の魔物、オオサメだ。


巨大ムカデのようなその魔物は5層下まで落下していった。


ん? 落下したところになんでユウリナがいるんだ?


『ユウリナ、巻き込まれたのか?』


脳内チップで回線を開いた。


『油断シタワ』


意外過ぎる展開だ。オオサメの腹を殴っているユウリナを見てそう思った。


こんな凡ミスするなんて、なんだか人間らしい。


『お前の事は心配してないから自力で帰ってこいよー』


『アラ、冷タイ王子ネ』


「オスカー!」


クロエの声に視線を上げると、天井の穴からワラワラと大量の魔物が入り込んできていた。

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