【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元 騰一
第一章 炎と雪の王国編
第1話 王都への道
俺は今、馬車に揺られている。
なぜだかよく分からないが、王都に向かっているらしい。
育ててもらった施設がある村を北上し、丸一日。
あと半日で着くそうだ。
気付けばドナドナを口ずさんでいた。
豪華な内装の馬車の中で、俺は一人足を延ばす。
「施設育ちの十五歳の少年を、王家の馬車で迎えに来る理由……
やっぱり一つしか考えらんないよなぁ……」
溜息をついたと同時に、外の兵士が小窓から顔を出した。
「オスカー様、御用でしょうか?」
「あっ! いや、大丈夫です。すいません」
甲冑を付けた兵士は頭を下げ、静かに小窓を閉めた。
様、なんかつけられたのは初めてだ。
施設では主に農作業をしていた。寒くて貧しいこの国では
産業なんてほとんどなく、
国民の大多数が半自給自足の暮らしをしている。
平民は薄汚れた服を着て、今日生きるのも精いっぱいだ。
そんな悲壮な国に生まれたら、普通は絶望してしまうだろう。
しかし、俺は違った。
俺には生まれた時から前世の記憶があったからだ。
日本人、38歳、男。名前と顔は思い出せない。
一般家庭に生まれ、料理人になった。
小さなホテルの支配人もやった。
若い頃は金を貯めるため派遣をやっていて、
病院の薬品管理、ゴミ収集、
ペットシッター、コンビニ店員なんかもした。
狩猟免許も持っていた。罠だけだが。
運転免許はゴールド。
多分、最後は東京に住んでいた。
結婚はしていなかったと思う。
彼女はいたのかなぁ。
自分の店……だったのかなぁ。
最後の記憶が38の時だから、死んだんだよなぁ……。
どうやって死んだんだろうなぁ。
前世の記憶と言ってもはっきり覚えてる訳じゃなかった。
曖昧な部分が実に多くて、おまけにこっちで十五年生きている。
でも、社会の仕組みや一般常識、料理のレシピなんかは
問題無く覚えている。
前世にてカク〇ムとか小説家に〇ろうで異世界転生ものを読んだことがある俺は
生まれて産声を上げて布で包まれてからすぐにピンと来たよ。
やっべえ、ガチだ ってね。
これが絶望してない理由その1だ。
え? その1があるってことはその2もあるのかって?
「あるんだなあ、それが。ふふふ」
「オスカー様、お呼びでしょうか?」
「あ、いや、独り言です」
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