第236話 潜入計画

ガラドレス城




豪華な装飾品で飾られた来客室に、




【護国十二隊】の六番隊隊長ヘルツォーク、




副隊長のベティを呼び寄せた。




ベティはケモ耳でタレ目美人で、




露出度の高いドレスで現れた。




どうやら私服のようだ。




まるでキャバ嬢……。




そんで見た目とは裏腹に粗暴な性格らしい。




うーん、苦手だな。




他にはレビア商会の代表、ハンツ氏も召喚した。




「オスカー様、お待たせしました」




ソーンに連れられて入ってきたのはモカルだ。




「来たか。旅はどうだった? モカル」




新調した軽装鎧にローブという姿は、




既に板についている。




「はい。ザサウスニア領内には来たことが無かったので、




とても新鮮でした。空便だったのであっという間でしたけど」




上半身は黒い鎖かたびらと手甲、




腰には祖父ソーンから譲り受けた名剣ベルルッティ。




暗殺者と剣士の中間といった格好だ。




「平和になったら馬車でのんびり各地を回ろうな」




モカルは笑顔で、はいと笑う。




「さて、本題に入ろうか」




席に着き、卓上の機械蜂が立体ホログラムを展開する。




複数現れた画面にはシャガルム帝国の地図、




腐樹化したアーシュ、そしてユウリナが映っている。




ユウリナはモカルと入れ違いでノーストリリアに帰った。




ユウリナ曰く、腐樹化を治す術はあるとの事。




その方法はシャガルムの機械人が知っている。




もしかすると薬自体を持っているかもしれないらしい。




そこでシャガルム潜入の作戦が計画された。




「こちらのハンツ氏は、




シャガルム内で商会を運営している」




ガチガチに緊張しているハンツを皆に紹介した。




「少し前から我々に協力してもらっているんだ」




画面に〝ラウラスの影〟の工作員、




ベサワン・ラハイーチの情報が出る。




彼の活躍でレビア商会を引き込むことが出来た。




「ハンツ氏の商会の手引きで帝国内に入る」




「……シャガルム帝国は、ご存じの通り、




巨大な一つの都市国家です。




その内側は身分によって居住区画が分けられています」




シャガルム帝国の地図が立体ホログラムとなって現れた。




城壁が何重にも聳え立ち、その間に町が広がっている。




ハンツ氏が説明を始める。




「中心は【第5層】……主に皇帝一族が住む区画です。




古代文明の遺跡の真上に町が築かれています。




巨大な城壁で遮られたその外側は【第4層】。




貴族の暮らす区画です。




そして【第3層】は豪商などの富裕層が住む区画です。




その外側が一般市民の区画。ここが【第2層】




一応正式な帝国の区分はここまでですが、




更にその外側に難民が作った、




巨大なスラム街が形成されています。




近年ではここを【第1層】と呼んでいます。




我々の商会が入れるのは一般市民の区画まで。




そこから先は……」




「そこから先は、これを使う」




ハンツが言いよどんだので後を繋いだ。




俺はテーブルの上に一枚のカードを置いた。




「これはゴッサリアが置いていった鍵だ。




この鍵があれば【第4層】に入れるそうだ」




「……そこから地下ダンジョンに行くわけですか」




ヘルツォークは何かを思い出したようだ。




「ああ。お前は前に入ったことがある、




とユウリナが言っていた。




案内を頼めるか?」




「全部を知っているわけではないですが……」




ヘルツォークは渋い顔をした。




「心配するな。〝ラウラスの影〟も動いている。




地図は入手するさ」




「その地下ダンジョンに機械人がいるのですね?」




自ら志願しただけあって、モカルは真剣なまなざしだ。




アーシュが感染したのは自分のせいだと、




モカルは自身を責めていた。




モカルは暗殺者を倒すほどの剣技を持っている。




幼い頃からソーンより英才教育を受けてきたのだから、




それも当然っちゃ当然だ。




実力は一般兵はもとより、部隊長クラスをも上回る。




脳内チップも埋めたので、さらに心強い。




それにヘルツォーク達もいる。




獣人兵は奇襲なら3~5倍の一般兵を制圧できる戦力だ。




しかもヘルツォークとベティ、




小隊長一人の計三人は狂戦士化できる。




機械化兵も二人いる。




出来るだけ戦闘はしない潜入任務だし、




……まぁ大丈夫だろう。




その後も会議は続いた。
















銀砂をばら撒いたような満点の星空が広がっていた。




夜、俺はテラスで星を見ていた。




「オスカー様」




メミカが部屋からやってきた。




「ディーノは寝たのか?」




「はい。やっと寝てくれました」




すっかり母の顔になったメミカは、




肩に掛けたショールを直して俺の隣に座った。




「夢の事を考えていた」




「夢って……あの夢ですか?」




「うん。昨夜久しぶりに見たんだ。




多分、あれは本当にあった過去の事なんだと思う。




何でこんなことが起こるのかさっぱりだけど、




何か大事なことが隠されてるんじゃないかって……」




気付けばメミカは心配そうな目でこちらを見ていた。




「……まぁそんなこと言われても、だよな。




わるいわるい。返答に困るよな、こんな話」




思わず苦笑して紅茶を一口飲んだ。




「誰も理解者がいないのは辛いことですね。




……私もその夢、見れたらいいのになぁ」




そう言って笑顔を見せたメミカは、




目が合うと片方の頬を少しだけ膨らませて、




小さくウインクした。




あざとい。




そして可愛い。




その時通信が入った。




『オスカー。敵の艦隊に動きがあった。




こちらも夜が明け次第、出発する』




クロエからだった。




視界には港に停泊している、




たくさんの戦艦が映し出された。




橙色のランプに照らされて、




真っ黒な海に静かに漂っている。




『そうか。頼んだぞ、クロエ。




敵の魔戦力も間違いなく出てくる。




……死ぬなよ』




少しの沈黙があった。




『クロエ、聞こえてるか?』




『……最近、オスカーと会えていない。




無事に帰ったら、ゆっくり話したい』




おっと。まさかクロエがそんなことを言うとは。




『……確かにクロエは俺の護衛なのに、




将軍みたいに動いてもらってるからな。




まぁ貴重な魔人だからそれも仕方ないことだけどさ。




分かった、約束だ。




二人で過ごす時間を作るよ』




通信を切った後、メミカがずいっと顔を寄せてきた。




「クロエと二人きりでナニするつもりですか?」




声低っ。眉間にしわ……。




そんな細い目で見ないでくれよ、メミカさん……。




「まさかクロエまで夜番にするつもりじゃないでしょうね」




「い、いやいや……。




そんなつもりはないよ。




ただ食事でもしようと……。




それに夜番は俺の裁量というよりも、




いつの間にか勝手に決まってるし……」




なんか浮気を追及されてるみたいだ。




悪いことしてるわけじゃないのに、




なんでこんなに舌がもつれるんだ、俺。


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