第172話 ブロトール王国編 魔獣レギュールvs敵軍2万

ブロトール王国、南部の要所メイフ城。




軍の最高司令、ダストン将軍は城下に進軍してきた敵軍を見て首を捻った。




「おい、敵はあれだけか? 1万はいると報告を受けたぞ?」




敵軍は2千にも満たない。




これならば2万の全兵を塀の中に入れることもなかった。




「はっ! 昨日は濃い霧が出ていたもので、数を見誤ったのかと……」




側近の兵は熊のような大男であるダストンに恐る恐る答えた。




「全兵召集で幾らの資金が溶けると思ってるんだ?




あの程度なら5千準備すればよかった。




余計な出費がかかってしまったじゃないか。




斥候部隊の隊長は降格だ!」




「はっ! そのように!」




波の模様の国旗をはためかせ、




ブロトール軍の青と白の甲冑装備が、城壁の上にずらりと並んでいる。




その後ろを歩きながらダストンは考えた。




途中で敵兵が分かれた可能性も捨てきれないが、




もしそうならとっくに発見し報告が入っているはずだ。




それに西のパルセニア帝国とは同盟を結んでいるので、




いざという時は数万の軍を派兵してくれる手筈になっている。




ザサウスニアの残党か、




それともキトゥルセン連邦が攻め込んできたか。




どちらにせよ我が王国は簡単に落ちはしない。




ブリムス同盟などに頼らなくとも自力でどうにでもなる。




ダストンは自信に満ちている。




だがしかし、昨日も今日も霧がよく発生するな……。




気付けば城の周りは濃い霧で覆われていた。




「ダストン様! 敵軍が増えています!」




「なにぃ? いつの間に……」




霧の間から覗く敵勢力は確かに増えていた。




「どのくらいだ?」




「およそ……5万は……」




「……嘘だろ……」




そんな大軍、いったいどこに隠していたというのだ。




ダストンの額からつぅと汗が流れる。




王都にいる軍に援軍を頼んでもどうにもならない数だ。




「報告です! 王都が敵勢力に攻撃されている模様!




敵勢力はザサウスニアの残党です!」




「報告です! 敵勢力判明しました! 




マハルジラタン諸島のギバ一派です!」




「報告です! 敵勢力の一部が城内に侵入しました!




凄腕の暗殺者で姿を捉えられません! 魔戦力の可能性も……」




矢継ぎ早の報告にダストンの頭は真っ白になった。




とにかく侵入者を片付けるのが先決だと思った時、




前方の弓兵たちが首から血を噴き出し倒れていった。




「敵だ!」




その時ダストンは確かに見た。




霧の間に。




塔の屋根に座る、一角の巨大な犬を。










「始まったな」




霧に隠れたメイフ城を見ながら、ギバはほくそ笑んだ。




「皆殺しか? 捕虜にして自軍に取り込むのはやめたのか?」




隣のラドーがワインを片手に聞く。




「正規兵は弱い。兵の補充は無垢な子供にするんだよ。




根人兵に田舎の村々を襲わせたからな、だいぶ集まったぞ。




俺が訓練すればそこらの国の兵よりも強くなる」




ギバは楽しそうに笑う。




「それよりパルセニア帝国の皇帝はどんな顔をしていた?




ザサウスニアの元皇帝を渡したんだからな、踊り狂って喜んだんじゃないか?」




「ああ、こちらの要求全てを受け入れてくれた。




ブロトール王国を売り、更に物資までくれるんだからな、




相当嬉しかったらしい」




メイフ城から阿鼻叫喚が聞こえてくる。




2千弱のギバ軍は平原にて各々休憩している。




「しかし、あの魔獣一匹で本当に制圧できるか疑問だったが……たまげたな」




「レギュールの霧は幻覚を発生させる。隣の兵士が敵兵に見えるんだ。




今頃同士討ちで城の中は血の海さ。




拍子抜けしたか? 元将軍様よ」




ギバはラドーの肩に腕を回し笑みを浮かべる。




「多少は戦闘があると思っていたが……




このままだとワインを飲みに来ただけになるな」




グイッと飲み干したラドーは従者にグラスを渡した。




「この地方のワインは中々イケる。




……ジョハ王とナルガセが首尾よく王都を落せば、




この国は俺のもんさ」




ギバは楽しそうに後ろに並ぶ妻たちの元に向かう。




「愛しの妻たちよ、長い航海と行軍をさせてすまないな。




もうすぐこの国を手に入れる。明日からは温かいベッドで寝れるぞ。




そしたらお前たちは全員王妃さ!




嬉しいか? そうかそうか嬉しいか!




はっはっはっはっは!!」




いつも通り露出度の高い衣装を着させられた妻たちは笑顔を作る。




「ナナミアよ。体調は悪くないか?」




ギバはナナミアのお腹に手を添えた。




「はい。ギバ様の用意してくれた馬車はすごく快適でしたので、




問題ありません」




幾分か髪の伸びたナナミアは、笑顔で答えた。




「それはよかった。元気な子を産めよ」




ギバはナナミアの尻を鷲掴んで高らかに笑った。










数時間後。




部下のライロウ率いる部隊が敵の将軍、ダストンの首を持ち帰る。




ギバ軍は一滴の血も流さないまま、メイフ城を陥落させた。




レギュールはギバの足元で寝転んで呑気にあくびをしている。

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