第92話 イース公国攻略編 第六、第七、第八試合

第六試合

ユウリナvsギング



ユウリナは名前を変えて参加している。


レイズ・フュージアネットという名だ。


真相を知っているのはキトゥルセンの上層部くらいで、


一般には公表していない。


だから国民が知っているのはブリキの金色機械のユウリナだ。


ちなみに表面の液体金属を取れば簡単に元の姿に戻れるらしい。


神殿での礼拝や集会は機械の姿で、


素性を隠して外に出るときにレイズとなるみたいだ。


表向きの説明では、レイズは大陸中央から亡命してきた女用心棒で、


俺がその腕を見込んで城に置いている、という事にした。


少女の姿なのに用心棒って大丈夫か? とも思ったが、


この世界にはググルカ族みたいな戦闘民族もいるから、


そんなに珍しい事ではないそうだ。


「ギングは武闘派の部隊長ですね。


まだ若いですが時期将軍との声が上がるほど優秀だとか。


ウチで言う所のアルトゥールやルレでしょうか」


「なるほどな。しかし、ユウリナが相手とは気の毒だ。


途中で抜けるとは言ってるけど、まさか一試合目でそれはないだろうし」


「ですな」


リングに出てきたギングは余裕そうな雰囲気を出している。


少々生意気そうな顔つきだ。


相手が少女だから見くびっているのだろう。


若いなぁとしみじみ思った。戦場ではそれが命取りになる。


将軍になるのは実戦経験をたくさん積んで、痛い目見てからだな。



勝負はもちろんユウリナに軍配が上がった。


一分ほど相手に合わせ格闘をしていたけど、


急に恐ろしいスピードでギングのあごを擦って意識を奪った。


「第六試合、勝者レイズ・フュージアネット!!」


会場は一瞬静まり返り「え、今の何?」的な戸惑いを孕んだ拍手で終わった。


ギングは意識を失ったままリングの外に運ばれた。





第七試合

アルトゥールvsギバ



「ギバはイース軍の将軍ですが、元夜盗の頭で非常に残虐な男です。


今は大人しくしていますが、何を考えているか分からず、


イース国内でも不気味がられているようです」


「夜盗ね……。あそこに座ってるガラの悪い連中は部下か?」


「そうでしょうね。


ギバが率いる軍は約400名全員が夜盗時代の部下達です。


もしかすると領地内の治安維持のために


国が雇っているという事にしているのかもしれません」


「ふーん……金と地位やるから大人しくしろってことね。


商売人の発想だな。ギャインっぽいや」


「あと、ウソかホントか分かりませんが夜盗時代に魔獣を倒したとか」


ユーキンは怪談話をするような口調でそう言った。


「へえ。なら猛獣に餌やって首輪をつけさせてもらってる状態って感じだな。


今後キトゥルセン軍になるなら要注意人物ってとこか」


ギバは樽のような丸っこい体型ながら筋肉質で身体もかなり大きい。


まるで歩く戦車だ。


スキンヘッドで頭から顔にかけて入れ墨が入っているやくざ顔。


めっちゃこわいDQNって感じ。


こりゃあアルトゥールちょっと厳しいなと思ったら、案の定の展開だった。


実戦経験の多いアルトゥールは決して慌てず冷静に打撃を浴びせ、


うまく距離を取っていたが、ギバには一切ダメージが無いようだった。


ギバは防御もしないでずんずん前に出る。


時々腕を振り下ろし、アルトゥールをガードごと吹っ飛ばす。


ギバは遊んでいるように見えた。ちょっとムカつく。


アルトゥールは右足にローキックを何発も入れ、


多少のダメージを与えたが、最後はギバのラッシュを喰らってKOされた。


「第七試合、勝者ギバ・グレイヤー!!」





第八試合

マーハントvsソーン



この試合は剣での勝負だ。


登場したソーンは白髪の老剣士だった。


「ソーンはイース軍で一番古い将軍ですね。


本人は引退したがっていますが、ギャイン殿と盟友らしく、


お願いされて続けているようです。


若い頃は大陸全土を旅したこともあるようで、


見聞が広く軍内ではご意見番的立場ですな」


ソーンにはイース人から盛大な拍手が送られた。


人望が厚いようだ。


二人共両手剣を選び、試合が始まった。


熟練者同士の緊張感が漂う中、


目にも止まらぬ速さで数回打ち合い、


すぐに離れるといった展開が続いた。


マーハントの強い剣劇にもソーンはしれっと返している。


若い頃は相当な手練れだったはずだ。


第1、第2ラウンドは打ち合いが続き、


どちらも無傷のまま第3ラウンドを迎えた。


マーハントは戦い方を変えた。


左右にステップを踏み、


剣も上下に大きく渾身の力を込めて振りかぶっている。


まるで隙を狙うかのような戦い方だ。


ソーンは受けに回っている。


どうやらスタミナが切れてきたようだ。


試合終了間際、ついにソーンの内ももにマーハントの一太刀が入る。


そのまま試合は終わり、勝負はマーハントの判定勝ちとなった。


完全にマーハントの作戦勝ちだ。


相手にスタミナが無いと想定し、


長期戦に持ち込んで隙を待つ。


さすが実戦経験豊富な我が軍団長だ。


ただ、ソーンが若かったら瞬殺されていただろう。


素人目に見てもそのくらいの剣技だった。


「第八試合、勝者マーハント・レザイン!!」

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