第174話 ブロトール王国編 襲撃の夜

ブロトール、王都




ギバ全軍が集まり、宴が始まっていた。




略奪した金品や宝石が通りに山になっている。




焚火で肉を食らうギバ兵たちの横では、




女を痛ぶっている者、捉えた兵士を括りつけ、ナイフ投げをして遊ぶ者などが見受けられた。




王都は至る所に火の手が上がり、多くの死体が転がっている。




国王や臣下たちは全員捉えられ、城門の前に首だけが整列していた。




勝利の美酒に酔っているギバ軍だが、




上空に無数の脅威が飛んでいることに気が付いている者はいなかった。




猪の丸焼きに一匹の虫が止まる。




切り分けようとしたギバ兵は手で払おうとしたが、




その金色に光る虫に思わず目を引かれた。




手を伸ばそうとした瞬間、半径10メートルが爆発の炎に包まれた。




至る所で爆発が連発し、多くのギバ兵が炎に焼かれ衝撃波に吹っ飛ばされ絶命する。




「なんだ!?」




「伏せろ!」




「敵襲だ!」




町の至る所に散っていたギバ兵が手に武器を取り武装を始めるが、




敵の姿が見えないので右往左往することしか出来ない状況だ。










ギバ軍とは少し離れた城の中庭に根人達はいた。




ギバたちとは共闘はしても一定の距離を保っている。




根人は人間の作り出したものに興味があるので、




王家の所有物を根こそぎ集め、そこで食事をしていた。




「町の方が騒がしいな」




「ん? 爆発してないか?」




町の空が赤く光り、多くの根人達が正面城門の前に出ていた。




そこへ続く大きな階段に一人の少女がいた。




赤と灰色の法衣を着た10代の黒髪ショートの女の子。




夜風が丈の短い法衣の裾をはためかせ、生足を覗かせる。




「こんナところにいたのネ」




「なんだ、お前は」




根人兵たちは一斉に矢を構えた。




「ジョハ王はイる?」




「おい、逃げるなら今のうちだぞ?」




「いや、殺して遊ぼう」




少女は立ち止まり両手に短剣を出した。




根人達の顔つきが変わる。




「油断するな! 暗殺者かもしれん」




「ええい! めんどくさい! 殺せ!」




たくさんの矢が一背に放たれ、少女の体に突き刺さる。




しかし、少女は倒れない。その場に仁王立ちしたまま




「奥にいるじゃナい、ジョハ王」




と口を動かした。




「……魔人だ!」




少女の表面がどろりと溶け出し、矢が地面に落ちる。




現れたのは金色の機械人だった。




「キトゥルセンの機械人だ!」




その声を合図に金色の機械人、ユウリナは、




手足を4本に増やし、戦闘形態に移行する。




表面の液体金属は巨大な鎌に変化した。




「来ないノなら私から行くワ」




一瞬で間合いを詰めたユウリナは鎌を一閃、




根人兵数人を真っ二つにして宙に飛んだ。




石造りの城門塔に乗り、上から見下ろす。




戦闘準備をしている大勢の根人兵の中にジョハ王を見つけたユウリナは、




塔から飛び降り、鎌を振り回しながら敵兵を殲滅する。




徹甲弾を乱れ撃ち、口からレーザー、回転刃などが密集した根人兵に襲い掛かり、




ドミノ倒しのようにバタバタ倒れてゆく。




「くそ! どうにかしろ!」




「ぎゃあ! 足が!足がぁぁ!」




「どけえ! お前たち!」




一際大きな根人がユウリナの前に現れた。




ジョハ王だ。




無数に蠢く足一本一本を鞭のように繰り出し、




ユウリナを牽制する。




「あなタがジョハ王ね」




ユウリナは鎌を振り上げ尋常ではない速さで襲い掛かる。




「神と称えられる機械人よ、なぜあなたはキトゥルセンに肩入れするのだ?」




鎌を分厚い鉄盾3枚で防いだジョハ王は、




幾本もある指を鞭にしてユウリナを弾き飛ばした。




「この世界を終わらセる一番高い確率を持つのが、




オスカー・キトゥルセンだからヨ」




綺麗に着地したユウリナは鎌を巨大な槍に変形させ、




砲弾の如き初速で投げる。




放たれた槍はジョハ王を貫通し、奥の塀を5枚破壊してから止まった。




「ジョハ王!!」




部下たちが叫ぶ。




「ぐはぁっ!!」




腹を抉り取られたジョハ王は大量の血を流し、その場に倒れた。




「見た目は強そうなのに、あっけないワね。




そんナことより、ナナミア・ギークとウチの工作員知らない?」




「ぐ……ぁ……確かに……神と呼ばれる……わけだ……」




槍が液体金属に戻り、アメーバのように地を這いながらユウリナの元に帰ってきた。




足からボディ、頭部へと這い上がり、




金色の機械人からショートカットの女の子に変身する。




「知らないなら用はないワ。愛と平等の神ジャなくてごめンなさいね」




根人兵のいるエリアの上空に待機していた機械蜂が、




一斉に地表1メートルの高さまで降下してきた。




その数は軽く200を超える。




根人兵たちを囲うよう円状に、そして等間隔に配置された機械蜂は、




ユウリナの発した電気信号を受信し、一斉に高圧電気を放った。




バチバチッと青白い光が根人兵たちの間を駆け抜け、




数百の兵士たちが全員その場に崩れ落ちる。




息はない。一瞬だった。




「あなたは念のため燃やシとくわ」




ユウリナの腕が変形し、倒れたジョハ王を火炎放射で燃やした。




「……さて、どこにいるンだろう。




やっパり電波悪いノよね……不便ダわ……」




闇夜に燃え盛る屍の炎を背景に、赤く眼を光らせたユウリナはその区域を後にした。


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