第173話 ブロトール王国編 攻城戦

ブロトール王国、王都




ブロトール王都守備軍2万は城郭都市に籠城し、混乱している。




先ほど8千の騎馬部隊をジョハ王とナルガセの軍、約5000が打ち破ったばかりだ。




根人兵の弓矢攻撃と落とし穴で馬の機動力を封印し、




戦線が乱れた所に左右から歩兵がなだれ込んだ。




圧倒的な勝利だったが数で劣るギバ軍が終始優勢だったのは一人の男のおかげだ。




王都の城壁、左側に突如発生した竜巻がぶつかり、




轟音を立てて崩れ落ちる。




「さすがはゴッサリアだ。この機を逃すな、全軍突撃!」




「おおーっ!!」




ナルガセの軍約4000が崩れた城壁へ進軍する。










城壁の内側




ブロトール兵の一人が奇妙な地響きに気が付いた。




「おい、なんだこの揺れは?」




近くの仲間に聞くが




「揺れ? そんなことより召集だ!向こうの壁が崩された!」




と真面目に取り合ってもらえなかった。




「……いや、確かに揺れてるんだよ……」




自信なさげに呟いたその兵士が移動したとき、




近くの十字路が急に陥没した。




十メートルはあろうかという巨大な穴だ。




周囲に兵士が集まってくる。




「なんだ、これ……」




「敵か?」




「中が見えん」




しばらくの沈黙の後、穴から凄まじい速さの触手が何本も飛び出て、




集まっていた兵士の足に次々と絡みつく。




「うわ!」




「ひい!」




「誰か取ってくれ!」




何人もの兵士が穴に引きずり込まれた。




「おい! 槍兵前へ出ろ! 誰か松明を持ってこい!」




兵士たちが慌ただしく動いているとき、




穴から砂と岩と共に何か巨大なモノが飛び出す。




「なんだ!」




「気を付けろ!」




続いて穴から大量の矢が飛んできた。




虚を突かれた兵士はバタバタと倒れていく。




「さあ、暴れろ、息子たちよ!」




地上に表れたのはジョハ王だ。何本もの腕を伸ばし、




近くで腰を抜かすブロトール兵を片っ端から掴み宙に投げてゆく。




根人兵はたくさんある指を駆使し、




一人で3,4本の弓を次々放つ。




「人間狩りだー! ハッハッー!!」




「逃げろ逃げろ!」




「はははっ!情けない生き物だ!」




すぐに周囲を制圧した根人兵部隊は動くもの全てに矢を放ち、




虐殺と略奪の限りを尽くした。










城壁内、某所。




土煙が舞い、遠くで戦闘の音が聞こえてくる。




ブロトール兵の小隊は崩された城壁に増援に向かうため、




人のいなくなった市街を移動していた。




この小隊の前にも仲間が数人移動しているのが見えた。




ふと、その数人が一斉に崩れ落ちる。




「止まれ!」




不穏な空気を感じた隊長は部下を止め、「敵だ! 戦闘用意!」と叫ぶ。




前方の砂塵の中から一人の影が現れた。




敵か味方か……。




ビュオッ! と突風が吹いたかと思うと、




部下の半数が一瞬で斬り刻まれ、地面に倒れた。




「なっ……!」




悲鳴を上げる間もない、瞬殺だ。




目の前の影は消えていた。




もう一度突風が吹き、気が付くと隊長は吹っ飛ばされ建物の壁に叩きつけられていた。




「う……ぁ……ぐう……」




激痛が走ったが幸いにも骨は折れていない。理解できるのはそれくらいだ。




目の前に男が立っていた。




赤いローブを身にまとい、一目見て魔剣と分かる剣を持っている。




ああそうか、と隊長は気付く。




こいつがザサウスニアのゴッサリア・エンタリオンか。




「おい」




ゴッサリアは名も知らぬ若き小隊長に話しかける。




「名前は?」




「……メルス・ジャハナム」




ゴッサリアはメルスの目の前にしゃがんだ。




そこでメルスは部下がもう一人も生きていないことに気が付く。




「この国は終わった。お前の命は俺が握っている。




俺は私兵を集めているんだ。メルス、俺の部下にならないか?」




食堂で話すような口調で、ゴッサリアは淡々と喋る。




しかし、その表情にはどこか苦痛が混じっている。




あっけにとられたメルスだったが、




断れば殺されるというくらいは理解できた。




恐怖はもちろんある。




しかし国への忠誠心や部下への後ろめたさなんて吹き飛ぶほどの神秘的な力に、




メルスは少しだけ興味があった。




「……はい」




「ふふ、お前は頭がいいな。そして幸運だ」




立ち上がったメルスはゴッサリアの後について粉塵の中に消えた。

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