第18話 24時間風呂とネネルの魔力

キトゥルセン王国は寒い。王都ノーストリリアの位置は北寄りなので、


南の村で過ごしていた俺にはことさら寒く感じる。


なので城に24時間風呂と足湯、それと暖房設備を作ることになった。


外縁の森には小川が流れていて、そこから城に水路が伸びているのだが、


その水路を拡張し、城の壁ギリギリにため池を作った。


作ったと言っても俺が一人でやっている訳じゃなく、


職人を雇って、立派な公共事業として、だ。


今回の設計はテストで、うまくいけば街に普及させるつもりだ。


設計図は大工のナナカガ兄弟に描いてもらい、現場の指揮も頼んだので


正直俺は暇だった。ネネルと一緒に城壁に寄りかかって作業を見ていた。


「ねえ、そういえばネネルって魔人でしょ? どんな能力なの?」


「え! なんで分かるの? 私言ってないよね?」


「いや、光ってたから……あ」


そうだった。【千里眼】の能力は秘密にしていたんだった。


「光ってた?……あぁ、魔剣使いだからね、オ、オスカーは」


「そ、そうそう。なんとなく分かるんだよ」


危ない危ない。勝手に納得してくれたからそういうことにしておこう。


ていうか名前呼んでくれた! 言う時緊張してやんの。


「で、どんな能力?」


「うーん。ここじゃ危ないからなぁ。森の中なら」


俺たちは森に移動した。護衛の兵士たち十名も一緒だ。彼らは遠巻きに見ている。


「じゃあ……やるよ」


ネネルはあまり乗り気じゃなさそうな顔だ。何でだろう。


腕を前に出し、大きく深呼吸。


「はっ!」


ネネルの指先から青白い線がいくつも出た。電気だ。


放たれた電気は木々に当たり、バチバチと火花を散らしていた。


「すごい! 電撃使いなんだね」


ネネルは指を人差し指一本にした。


「全ての力を一つにすると……」


指の先から集約された電気が一筋の線となり、大木を三本貫いた。


まるでレーザービームだ。


ネネルは肩で息をしていた。護衛の兵士たちがざわめく。


「こ、こんな感じね」


「こんなすごい力があるのに、どうしてカカラルに襲われたんだ?」


「集中しないと出せないの。飛んでる時は出るまで時間がかかるのよ」


俺は剣を持っていないと炎は出せない。身体から直接能力を使えるというのは


冷静に考えて凄い事だ。


今までからかってたけど怒らせないようにしよう……。


「立てるか? 掴まれ」


少し躊躇した後、ネネルは耳を赤くしながら俺の手を取った。


ああ、この顔たまらない。


本当はそのままおんぶまでもっていって、慌てさせようとしたけど、


感電させられたくないからやめておいた。


……くそう!




「大方完成しました。試運転致しますので、どうぞこちらに」


兄弟棟梁の兄に案内され、建物の内側に入った。もうすぐ日が暮れる。


弟だと思っていた方が兄だった。弟は身体が大きく、声もでかい。


休憩中に動物や近所の人のモノマネをして周囲を笑わせていた。



24時間風呂と暖房設備は数日前から工事を始めていて、


今日が完成の予定日だったが、こういった工事はたいてい遅れるから


予定通りにいって少々驚きだ。やっぱり依頼主が王族だと違うのだろうか。


「では稼働します」


今回作った薪の加熱室に水が流れてきた。


外のため池(石造り)から水車でくみ上げた水は、この加熱室に流れ込む。


木製の水路は長いかまどの上で鉄製に変わり、熱せられたお湯は浴室の湯船に注がれる。


湯船の縁には溢れないように溝が作られ、そこから排水されたお湯は、


城の廊下に作られた足湯に流れる。途中でまだ熱せられ、温度は一定に保たれる仕組みだ。


お湯は違う壁から外の水路へ抜けるようにした。


これで兵士やメイドが休憩中温まれる。


加熱室の天井は2階まであり、2階の壁を改装して送風機を作った。


要は大きな換気扇だ。風の流れは逆だが。駆動は歯車。動力は外の水車。


一番大きな歯車と1階の水車を鎖で連動させ、ゆっくり回るようにした。


そこに小さな歯車を複数設置、換気扇はかなりの速さで動く。


温かい空気は上に行く。二階が暖まれば3階も恩恵を受けるだろう。


テストはうまくいった。水漏れもないし、火事の心配もない。歯車もうまく噛み合っている。


唯一の改善点は浴槽に流れこんだお湯が少々熱いという事か。


途中で水の水路と合流させて、温度調節出来るように改良しよう。


「ラムレス、この仕組みで街中に湯屋を作るぞ。ギルに一任しよう。


一人200リル、子供は半額だ」


「これは喜ばれますぞ、オスカー様。ふと疑問なのですが、城の中は時間で分けるとして、


湯屋は男女が一緒に入るのですか? それとも浴槽を二つ作るので?」


「人口を増やしたいから混浴だ!」


「了解しました。では早速2階の足湯にてギル殿と打ち合わせしてきますゆえ」


ずっと入りたくてうずうずしてたようだ。ラムレスは子供みたいな目で駆けていった。


口元に食べカス……ラムレス、お前厨房に行ってただろ。




次の日に改修工事をして、ようやく完成した。初風呂は工事関係者に入ってもらった。


同じのを街に建設する時は是非我々に、と営業されたので、


前向きに善処します、と言っておいた。癒着はいけないからね。


最後に弟にラムレスのモノマネをしてもらった。


死ぬほど笑った。

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